エネルギー会社が「AWSによるロックイン」を選んだ“合理的な理由”新型コロナウイルスとクラウドサービスのコストの関係【後編】

大手エネルギー企業TC Energyは、「SAP ERP」をはじめとした主要な業務システムのほぼ全てをAWSに移行させた。なぜ単一ベンダーのクラウドサービスだけを利用するのか。

2020年09月03日 05時00分 公開
[Chris KanaracusTechTarget]

 北米で天然ガスのパイプラインを手掛ける大手エネルギー会社のTC Energyは、IT予算のほぼ全てをAmazon Web Services(AWS)の同名クラウドサービス群に割り当てることを決定した。TC Energyで最高情報責任者(CIO)を務めるクリス・フォスター氏によると、同社は全てのクラウドベンダーに相見積もりを依頼した。その結果「AWSの提案とサービス展開が、自社に適していると判断した」とフォスター氏は語る。

 パイプラインの現場で運用するSCADA(監視制御・データ収集)システムなどの例外を除き、TC Energyは現在システムの約90%をクラウドサービスで稼働させている。「FinTech企業が新型コロナ対策のVDIを『AWS』で構築 無交渉・10営業日導入の“弊害”は」「新型コロナで脚光の“格安クラウドサービス”は買いなのか?」に続く本記事では、TC Energyの事例から、単一のクラウドサービスにシステムを集約するメリットを探る。

“シングルクラウド”がもたらすメリットは

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 TC EnergyはSAPのERP(統合業務)パッケージ「SAP ERP」をはじめとした社内システムを、AWSへと移行させた。現在はスキャンした文書から情報を抽出するAWSのサービス「Amazon Textract」の導入など、AWSを利用した新しいシステムの開発に重点的に取り組んでいる。単一ベンダーにロックインされることはリスクではないというのが、フォスター氏の考えだ。むしろ「ベンダーから重要な顧客だと見なされる影響力を手に入れることができる」と同氏は言う。

 複数ベンダーのクラウドサービスを併用する場合、各サービスに精通したITスタッフの雇用やトレーニングが必要になる。これらに掛かる費用を検討した結果、TC Energyは単一ベンダーのクラウドサービスを使用することが理にかなっているという結論に達した。

 TC EnergyにとってAWSへの全面移行は「ただ一連のサーバをクラウドサービスに移行することだけを意味するわけではない」とフォスター氏は話す。今までであればGIS(地理情報システム)のような、高いコンピューティング能力が必要なシステムを用意するには、長い時間とコストを掛けて構築する必要があった。クラウドサービスを利用すれば、場合によっては1時間ほどで用意できる。「用意したGISシステムが得策ではないことが判明した場合、そのシステムを無効にすれば、その後に利用料金が請求されることもない」とフォスター氏は説明する。

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