FinTech企業が新型コロナ対策のVDIを「AWS」で構築 無交渉・10営業日導入の“弊害”は新型コロナウイルスとクラウドサービスのコストの関係【前編】

新型コロナウイルス感染症といった緊急事態の対策として、企業が急いでクラウドサービスを契約するときは、平時以上に注意する必要がある。それはなぜなのか。FinTech企業の事例から探る。

2020年07月15日 05時00分 公開
[Chris KanaracusTechTarget]

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、企業の間で在宅勤務などのテレワークのためのITツールを大規模かつ早急に導入する動きが広がった。これを受けて、Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft、Googleといった大規模ベンダーが提供するクラウドサービスのニーズも高まっている。

「クラウドサービスでテレワークを素早く実現」の“弊害”は

 調査会社451 Researchが最近公開した調査報告書によると、新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)によってクラウドベンダーの影響力は高まっている。だがクラウドベンダーが自社サービスの利用料金を不当につり上げる可能性は低いという。調査報告書の作成に参加したアナリストのオーウェン・ロジャス氏は「少なくとも半年は、クラウドサービスの利用料金は横ばいだろう」と予測する。

 新型コロナウイルス感染症が影響を及ぼしている最中に、利用料金を値上げすることは「クラウドベンダーの評判やユーザー企業からの信頼に、壊滅的なダメージを与えかねない」とロジャス氏は語る。ただしユーザー企業は「将来の利用料金上昇に備えて、ITに関する予算を削減しない方がよい」と同氏は言い添える。

 調査会社のGartnerによると、新型コロナウイルス感染症の感染拡大は、企業のITへの支出に大きな影響を及ぼしている。2020年1月の時点では、同社は2020年のITへの総支出が約3兆9000億ドルになると予測していた。2020年5月上旬には、約3兆4000億ドルと大幅に下方修正した予測を発表している。ただしテレワークを支援する電話やWeb会議のクラウドサービスへの支出は、2020年に前年よりも増加すると同社は予測する。

 金融サービスを提供するFinTech(金融とITの融合)企業Enova Internationalは、テレワークの規模を拡大させるために、AWSの仮想デスクトップインフラ(VDI)サービス「Amazon Workspaces」を導入した。Enova Internationalは新型コロナウイルス感染症の拡大よりも前に、Amazon Workspacesを試験導入していた。この経験が大いに役立ち、約1200人の従業員はAmazon Workspacesを迅速に使い始めることができたと、同社でアナリティクスとIT管理の最高責任者を務めるジョー・デコスモ氏は語る。同社のIT部門は、8〜10営業日で無事にAmazon Workspacesの導入作業を完了できた。

 デコスモ氏は「Amazon Workspacesの運用を開始して2カ月になるが、順調だ。技術的な問題もほとんど発生していない」と話す。AWSと既存の事業で関係があったことや、VDIを迅速に導入する必要性から、Enova InternationalのIT部門が別のVDI製品やサービスを検討することはなかったと、デコスモ氏は当時を振り返る。

 Enova Internationalは、従業員がVDIをすぐに利用できるようにしなければならなかった。そのため契約内容や利用料金について、AWSとは「ほとんど交渉をせず、提示された利用料金を受け入れた」とデコスモ氏は言う。契約締結後、Enova InternationalはAmazon Workspacesの支払いを適正にするためにAWSと改めて話し合い「大幅なコスト削減を実現した」(同氏)。

 現在、Enova InternationalのIT部門はAWSのクラウドサービスとオンプレミス資産のコストのバランスを取ることに力を入れている。メールと業務アプリケーションにはGoogleのクラウドサービス群「Google Cloud Platform」(GCP)を使用しており、「さらに幅広い用途でGCPサービスを利用することを検討している」とデコスモ氏は話す。

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