「AWSベストプラクティス集」を使うと何がうれしい? その利点と実践方法AWSを正しく使いこなす指針【後編】

AWSの変化は激しく、専門家であっても設計や運用を継続的に学習することは容易ではない。そこで、AWSは設計や運用の指針となるAWS Well-Architectedフレームワークを提供している。

2025年07月02日 05時00分 公開
[そらのすけ雨輝(リーフレイン)]

 Amazon Web Services(AWS)はクラウドサービスにおけるさまざまな機能や仕組みを、独立したサービスの単位にして提供している。それぞれのサービスにはホワイトペーパーが用意され、システムの大部分をAWSに任せられるサービスも珍しくない。とはいえ、ある程度の規模のシステムや複数のサービスを組み合わせるアプリケーションなどでは、専門家による設計や運用が必要となる。

 クラウド環境の設計や運用の担当者は、技術の変化に合わせて設計原則や効率的な運用方法を検討し直す必要があるが、それは容易ではない。AWSをはじめとしたクラウドサービスの技術の進化スピードは早く、担当者にはクラウドサービスの専門的な知識や継続的な学習を必要とするためだ。

 そこでAWSが提示しているのが「AWS Well-Architectedフレームワーク」だ。本稿ではAWS Well-Architectedフレームワークに沿って開発および運用をするメリットや、実践方法を説明する。

AWS Well-Architectedフレームワークのメリットとは

 AWSはAWS Well-Architectedフレームワークで、開発時のベストプラクティスを提示しており、このフレームワークによって、設計や運用を体系的に構築できる。既に構築したシステムの見直しにも有効だ。

 加えて、企業や組織がこのフレームワークを利用することには、以下に示すようなメリットがある。

  • 設計、運用のリスク低減
  • システムの自動化による人的リソースの最適化
  • 運用コストの最適化
  • システム全体の信頼性の向上

 これらのメリットは、企業が長期にわたってAWSを利用する場合に、必ず享受したいメリットと言えるだろう。

 このように、AWS Well-Architectedフレームワークは「その時点でどのようなシステムの設計と運用を行うか」に加えて、「どのようにシステムを継続的に最適化するか」というAWS利用時に不可欠な視点を提供している。

フレームワークを活用した設計と運用とは

 加えて、AWS Well-Architectedフレームワークに沿ったシステム設計、運用のためには、ツールや専門知識のある協力会社によるサポートに頼る方法などがある。以下に、その主要な選択肢を紹介する。

「AWS Well-Architected Tool」を活用する

 「AWS Well-Architected Tool」は、AWSが提供するサービスの一つだ。AWS Well-Architectedフレームワークにおけるベストプラクティスに基づいて、システムやアプリケーションを評価する。現状でシステムやアプリケーションに不足している設定や、リスクとなり得る設定を洗い出すことが可能だ。長期的に計測を続けることでスケーリングや追加の実装の際に役立つガイダンスも提供してくれる。

 AWS Well-Architected Toolは無償で利用できる。既にシステムやアプリケーションをAWSで構築しており、AWS Well-Architectedフレームワークを用いた最適化を考えている場合は、測定するとよいだろう。

AWS Well-Architected レンズやAWS Well-Architected ガイダンスを活用する

 AWS Well-Architected Toolの他にも、「AWS Well-Architected レンズ」や「AWS Well-Architected ガイダンス」を確認することで、フレームワークに沿った設計や運用が実現できる。

 AWS Well-Architected レンズは、AWS Well-Architectedフレームワークが提供するベストプラクティスを、特定の業界や領域に当てはめてホワイトペーパー化したものだ。機械学習(ML)やゲーム、金融サービス、サーバレスアプリケーションなど、特定の分野でベストプラクティスを活用したい場合は、AWS Well-Architected レンズから最適な事例を学習できる。

 AWS Well-Architected ガイダンスは、AWS Well-Architected レンズよりもさらに焦点を絞り、特定のユースケースや実装シナリオを想定したホワイトペーパーとなっている。数は限られているが、想定されるクラウド環境が一致する場合には活用することで、ベストプラクティスに限りなく近い設計や運用を目指すことができるだろう。

AWSで実績があるベンダーにアウトソーシングを依頼する

 自社のリソースや専門知識が不足している場合、AWS Well-Architectedフレームワークに基づいたAWSの設計、構築、運用支援について、実績のあるベンダーにアウトソーシングすることも有効な選択肢だ。経験豊富なベンダーは、フレームワークの深い理解に基づいて、最適なツールを提供し、継続的な改善を支援してくれるはずだ。

 AWSは、同社と協力して技術的な課題を解決し顧客価値を高めるベンダーやメーカーらとのコミュニティ「AWS パートナーネットワーク」(APN)を構築している。APN内のベンダーはローンチ案件数や認定技術者の数などに応じてティア(階層)が割り振られており、ベンダー選定の際は一つの基準になる。各社がホームページで公開している実績も参考になる。

AWSを利用するならAWS Well-Architectedフレームワークを知ろう

 AWSはクラウドコンピューティングの可能性を広げ、企業のビジネス成長に貢献するクラウドサービス基盤だ。しかし、その性能を最大限に引き出すためには、AWS Well-Architectedフレームワークのように確立されたベストプラクティスに従うことが不可欠だ。

 本稿で解説したようにAWS Well-ArchitectedフレームワークはAWSを用いたシステムの設計、運用の羅針盤となる。開発者や情報システム部門の担当者は、このフレームワークを深く理解し、システムやアプリケーションの設計や運用に取り入れることで、AWSのメリットを最大限に享受し、ビジネスの成長に貢献することができるだろう。

 AWS Well-Architectedフレームワークは、一度理解すれば終わりというものではなく、常に進化し続けるクラウドサービスに合わせて、継続的に学習し、適用していく必要がある。AWSの提供するツールやリソース、そしてAWSに熟知したパートナーの支援を活用することで、よりAWSの使い方を洗練させることができる。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

From Informa TechTarget

「テレワークでネットが遅い」の帯域幅じゃない“真犯人”はこれだ

「テレワークでネットが遅い」の帯域幅じゃない“真犯人”はこれだ
ネットワークの問題は「帯域幅を増やせば解決する」と考えてはいないだろうか。こうした誤解をしているIT担当者は珍しくない。ネットワークを快適に利用するために、持つべき視点とは。

ITmedia マーケティング新着記事

news017.png

「サイト内検索」&「ライブチャット」売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、サイト内検索ツールとライブチャットの国内売れ筋TOP5をそれぞれ紹介します。

news027.png

「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年5月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。

news023.png

「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...