オンプレミスインフラ向け製品を手掛けてきた主要ベンダー各社は、さまざまなアプローチで「Kubernetes」を自社製品に取り込んでいます。Red Hat、VMware、Cisco Systemsの取り組みを紹介します。
第6回「AWS、Azure、GCPの『Kubernetesサービス』とは? 可用性を高めるための工夫」では、コンテナオーケストレーター「Kubernetes」を取り込んだ代表的な製品やサービスのうち、大手クラウドベンダーのKubernetes関連サービスを紹介しました。オンプレミスインフラ向け製品を提供するベンダー各社も、Kubernetesに関連する取り組みを重要視しているようです。Red HatとVMware、Cisco Systemsの取り組みと、各社のKubernetes関連製品を見てみましょう。
Red HatはKubernetesの登場後間もなく、コンテナ管理製品群「Red Hat OpenShift」の中核機能をKubernetesに置き換え、さらに「Red Hat OpenShift Enterprise」の製品名を「Red Hat OpenShift Container Platform」(以下、OpenShift)に変更して提供しています。オープンソースソフトウェアであるKubernetesへのコントリビューション(オープンソースソフトウェアの開発に貢献する活動)はもちろん、M&A(合併・買収)によるOpenShiftの機能強化も進めています。例えば2018年にコンテナ実行環境向けOSを提供していたCoreOSを買収し、その中核的な技術をOpenShiftに取り込みました。OpenShiftはオンプレミスのインフラだけではなく、「Amazon Web Services」「Microsoft Azure」「Google Cloud Platform」などの主要なクラウドサービスでも利用可能です。
VMwareは、Kubernetesのサポート機能やサービスを提供するHeptioや、同じDell Technologiesグループでコンテナ関連の機能をPaaS(Platform as a Service)として提供していたPivotal Softwareを買収しました。VMwareはハイパーバイザーの印象が強いベンダーですが、こうした取り組みを進めることで、ハイパーバイザーからコンテナまでを対象にするベンダーへの進化を図っています。
M&Aに加え、VMwareはモダンアプリケーションを構築・運用するための、Kubernetesを中核とした製品群「VMware Tanzu」も提供し、さまざまなインフラにおけるKubernetesのコンテナクラスタ(Kubernetesクラスタ)の利用を可能にしています。同社はフラグシップ製品であるサーバ仮想化ソフトウェア「VMware vSphere」のバージョン7に、Kubernetesの機能を追加しました。さらにネットワーク仮想化やストレージ仮想化の自社製品に関しても、Kubernetesと連携させる取り組みを進めています。
Cisco Systemsは、オンプレミスインフラ向けのKubernetes製品として「Intersight Kubernetes Service」(IKS)を提供しています。IKSはインフラ管理SaaS(Software as a Service)の「Cisco Intersight」に含まれるサービスで、Cisco Intersightが管理対象とするインフラにKubernetesクラスタをデプロイ(配備)できます。Cisco IKSは、Cisco Systemsのハイパーコンバージドインフラ(HCI)製品である「Cisco HyperFlex」にKubernetesをデプロイ可能であり、Cisco HyperFlexにおけるコンテナ運用を実現します。
SDN(ソフトウェア定義ネットワーク)製品の「Cisco Application Centric Infrastructure」(Cisco ACI)とIKSを連携させることで、ネットワークポリシーに基づくKubernetesクラスタの通信制御も実現します。今後はHyperFlexで稼働するコンテナの運用に加えて、パブリッククラウドのコンテナ管理サービスとの連携も視野に入っています。オンプレミスのインフラとパブリッククラウドのKubernetesを連携させることで、双方のインフラにまたがってKubernetesクラスタの作成や管理ができるようになります。
ここまで紹介してきたKubernetes製品は、いずれも業界団体CNCF(Cloud Native Computing Foundation)の認定基準「Kubernetes Software Conformance」に準拠しています。Kubernetes Software Conformanceに認定されたKubernetes製品は互換性があるため、いずれかのKubernetes製品で構築したアプリケーションをそのまま別のKubernetes製品でも運用できます。
本稿で紹介したKubernetes製品とKubernetesそのものとの大きな違いは、Kubernetesクラスタの構築作業を簡素化できることです。ノードのOSに対するパッチ管理やKubernetesクラスタのアップグレードも、GUI(グラフィカルユーザーインタフェース)やCLI(コマンドラインインタフェース)を使って容易に実行できます。
オンプレミスインフラ向け製品のベンダー各社は、もともと得意とするオンプレミスインフラだけでなく、クラウドサービスでKubernetesクラスタを容易に構築・運用する機能の強化も進めています。これらのベンダーは、オンプレミスインフラとクラウドサービスのKubernetesを一元管理するための製品も提供しています。Red Hatの「Red Hat Advanced Cluster Management for Kubernetes」やVMwareの「VMware Tanzu Mission Control」、Cisco SystemsのIKSなどがあります。
ベンダー各社がKubernetesへの投資を強化する背景には、Kubernetesがコンテナオーケストレーターとしてデファクトスタンダードになったことに加え、ハイブリッドクラウド(オンプレミスインフラとクラウドサービスの混在環境)やマルチクラウド(複数のクラウドサービスの混在環境)の利用が広がっていることがあります。さまざまなKubernetes製品がCNCFのKubernetes Software Conformanceに準拠することで、Kubernetesの標準化が進んでいます。これはいずれかのKubernetesで実行できるアプリケーションは、オンプレミスインフラであってもパブリッククラウドであっても、Kubernetesクラスタが構成されていれば同じように実行できることを意味します。
もう少し具体的に説明してみましょう。Kubernetesを活用する際は、アプリケーションをコンテナイメージ(アプリケーションの実行に必要な要素をまとめたファイル)としてカプセル化し、アプリケーションの実行方法をマニフェスト(Kubernetesクラスタのリソース構成の定義)としてコード化します。これらのコンテナイメージやマニフェストは、標準化されたKubernetesクラスタであれば、オンプレミスでもクラウドでも、同じようにアプリケーションを実行できます。こうした「可搬性」のメリットがあることから、Kubernetesはハイブリッドクラウドやマルチクラウドでのアプリケーション運用を実現する要素としてとして注目されているのです。
通信事業者のデータセンターにおいてネットワークやサーバの運用を経験後、ネットワンシステムズに入社。帯域制御やWAN高速化製品、仮想化関連製品を担当後、主にクラウドや仮想インフラの管理、自動化、ネットワーク仮想化の分野に注力している。
データセンターネットワークの他、マルチクラウド向けのハードウェアやソフトウェアの最先端技術に関する調査・検証、技術支援などを担当。注目分野は「Kubernetes」。放送システムのIP化に向けた技術調査・検証も担当している。
IaaS(Infrastructure as a Service)をはじめとしたクラウド基盤技術および管理製品を担当。コンテナ技術を中心とした開発・解析基盤の構築から運用、コンテナに関連した自動化技術や監視製品の技術検証などに注力している。
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