「生成AI」の活用前に知っておくべき“限界とリスク”データセンターは生成AIでどう変わるのか【中編】

生成AIの導入は、業務を効率化するメリットをもたらすだけでなく、セキュリティやデータセンターに影響を与える可能性がある。具体的にはどのようなメリットとリスクが考えられるのか。

2023年11月22日 05時00分 公開
[Fleur DoidgeTechTarget]

関連キーワード

人工知能 | データセンター | 機械学習


 入力された指示を基に、テキストや画像、動画を生成する「生成AI」(ジェネレーティブAI)ツールには、ユーザー企業の業務を効率化する存在としての期待が集まっている。ただし生成AIを利用することで新たに生じる懸念もあるため、生成AIに適した用途や、導入の際に対処すべき課題を見極めることが欠かせない。具体的にはどのような影響が生じるのか。エンジニアの業務やセキュリティ、データセンターの設計などに関して考慮すべき点を考えてみよう。

生成AIの影響はセキュリティやデータセンターにも その限界とリスク

 OpenAIのチャットbot型生成AIツール「ChatGPT」をソースコードのレビューに利用する事例は既に存在している。英国のセキュリティベンダーNCC Groupでチーフサイエンティストを務めるクリス・アンリー氏は、こうした用途では問題点を特定することに役立つ可能性はあるが、完全には信頼できないと考えている。「セキュリティの問題につながる欠陥を見逃したり、注目すべき部分を間違えたり、誤って架空のバグを見つけたりするなど、生成AIツールは事実とは異なる結果を出力する可能性がある。こうした事態は企業にとっては望ましくない」(同氏)

 ただしこうした点は、「ほとんど脅威にはならない」とアンリー氏は補足する。一般的に、重要なアプリケーションの開発に生成AIツールを利用することは現時点ではほとんどない。生成AIツールは不適切なソースコードを提案することがあるが、こうしたソースコードは意図した通りに動作しないため、即座に問題が発覚すると考えられる。「ソースコードは歌や演劇の台本、散文などとは異なり、『おおむね正しい』では許されない」と同氏は話す。

 生成AIツールはコーディング作業の全てを担うのではなく、熟練したエンジニアの作業効率や生産性を高めるために使われるようになる可能性が高い。「生成AIツールを使うことで生産性が10%でも高まることは、組織にとっては良い影響と言える」とアンリー氏は説明する。

 エンジニアが使い慣れていないライブラリ(プログラムの部品群)にある機能を使ったり、データをある形式から別の形式に変換したりするなど、生成AI技術は細かい技術的な作業に適している。アンリー氏によれば、生成AIツールはドキュメントや資料の参照といった作業を自動化することにも使える。「当社の顧客は、カスタマーサポートや自社内の業務プロセスの自動化など、何らかの形でAI技術を利用するようになっている」(同氏)

 ただし大規模なAIアプリケーションをユーザー企業のデータセンターで運用したり、社内ネットワークに接続したりするのであれば注意が必要だ。例えば大量の学習データを保管するストレージが攻撃されると、そのデータで学習した生成AIツールの制御ができなくなったり、悪用されたりする恐れがある。

 AIモデルを標的にして学習データの取得を狙う攻撃には、以下のような手法がある。

  • メンバーシップ推論攻撃
    • 学習データだと推定されるデータをAIモデルに入力し、その応答結果から学習データに含まれるデータを特定する
  • モデル反転攻撃
    • データの入出力を繰り返すことで、盗みたい学習データに近づける

生成AIアプリケーションがインフラに与える影響は

 生成AIを採用することで、データセンターに必要な処理能力や消費電力が以前よりも増える可能性がある。そうした事態を受けて、ユーザー企業はリソース消費を分散させるために、クラウドサービスに置いているシステムやデータの一部をオンプレミスインフラに移そうとすると考えられる。一方でエンドユーザーのスマートフォンやPCで生成AIアプリケーションを実行する場合、プライバシーやコンプライアンス(法令順守)に関わる問題が発生するリスクには注意が必要だ。

 法律事務所Gowling WLGでデータ保護やサイバーセキュリティ部門の共同責任者を務めるジョセリン・ポーリー氏は次のように話す。「既に容量の問題が発生しているデータセンターを拡張することは課題をより大きくする可能性があるが、ハードウェアや冷却方法の見直し、サーバ密度の向上によって解決できる可能性がある」


 後編は、生成AI技術がデータセンターに与えるリスクと、これらのリスクを回避するためのヒントを取り上げる。

Computer Weekly発 世界に学ぶIT導入・活用術

米国TechTargetが運営する英国Computer Weeklyの豊富な記事の中から、海外企業のIT製品導入事例や業種別のIT活用トレンドを厳選してお届けします。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

鬮ォ�エ�ス�ス�ス�ス�ス�ー鬯ィ�セ�ス�ケ�ス縺、ツ€鬩幢ス「隴取得�ス�ク陷エ�・�ス�。鬩幢ス「�ス�ァ�ス�ス�ス�、鬩幢ス「隴主�讓滂ソス�ス�ス�ス鬩幢ス「隴趣ス「�ス�ス�ス�シ鬩幢ス「隴乗��ス�サ�ス�」�ス�ス�ス�ス

事例 INFINIDAT JAPAN合同会社

IOPSが5倍に向上&コストも80%削減、エクシングが選んだ大容量ストレージとは

カラオケ業界が直面するデータ増に対応すべく多くのストレージを試し続けた結果、4社27台の製品のメンテナンスに悩まされていたエクシング。この問題を解消すべく、同社は大容量かつコスト削減効果に優れた、新たなストレージを導入した。

製品資料 プリサイスリー・ソフトウェア株式会社

データソート性能向上でここまで変わる、メインフレームのシステム効率アップ術

メインフレームにおけるデータソート処理は、システム効率に大きく影響する。そこで、z/OSシステムおよびIBM Zメインフレーム上で稼働する、高パフォーマンスのソート/コピー/結合ソリューションを紹介する。

事例 INFINIDAT JAPAN合同会社

従来ストレージの約8倍の容量を確保、エルテックスが採用したストレージとは

ECと通販システムを統合したパッケージの開発と導入を事業の柱とするエルテックスでは、事業の成長に伴いデータの容量を拡大する必要に迫られていた。そこでストレージを刷新してコスト削減や可用性の向上などさまざまな成果を得たという。

製品資料 日本ヒューレット・パッカード合同会社

空冷だけではなぜ不十分? データセンターの熱負荷対策をどうする

CPUやGPUの性能向上に伴い、データセンターでは今、発熱量の増加にどう対応するかが課題となっている。特に高密度なサーバ環境では、従来のファンやヒートシンクに頼るだけでは熱管理が難しい。こうした中、企業が採用すべき手段とは?

製品資料 Dropbox Japan株式会社

ファイルサーバをアウトソーシング、「クラウドストレージサービス」の実力

中堅・中小企業の中には、IT担当者が社内に1~3人しかいないという企業も少なくない。そのような状況でも幅広い業務に対応しなければならないIT担当者の負担を減らす上では、ファイルサーバをアウトソーシングすることも有効だ。

鬩幢ス「隴主�蜃ス�ス雜」�ス�ヲ鬩幢ス「隰ィ魑エツ€鬩幢ス「隴趣ス「�ス�ス�ス�シ鬩幢ス「�ス�ァ�ス�ス�ス�ウ鬩幢ス「隴趣ス「�ス�ス�ス�ウ鬩幢ス「隴趣ス「�ス�ソ�ス�ス�ス雜」�ス�ヲ鬩幢ス「隴趣ス「�ス�ソ�ス�スPR

From Informa TechTarget

お知らせ
米国TechTarget Inc.とInforma Techデジタル事業が業務提携したことが発表されました。TechTargetジャパンは従来どおり、アイティメディア(株)が運営を継続します。これからも日本企業のIT選定に役立つ情報を提供してまいります。

「生成AI」の活用前に知っておくべき“限界とリスク”:データセンターは生成AIでどう変わるのか【中編】 - TechTargetジャパン サーバ&ストレージ 鬮ォ�エ�ス�ス�ス�ス�ス�ー鬯ィ�セ�ス�ケ�ス縺、ツ€鬯ョ�ォ�ス�ェ髯区サゑスソ�ス�ス�ス�ス�コ�ス�ス�ス�ス

TechTarget鬩幢ス「�ス�ァ�ス�ス�ス�ク鬩幢ス「隴趣ス「�ス�ス�ス�」鬩幢ス「隴乗��ス�サ�ス�」�ス雜」�ス�ヲ 鬮ォ�エ�ス�ス�ス�ス�ス�ー鬯ィ�セ�ス�ケ�ス縺、ツ€鬯ョ�ォ�ス�ェ髯区サゑスソ�ス�ス�ス�ス�コ�ス�ス�ス�ス

ITmedia マーケティング新着記事

news046.png

「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年4月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。

news026.png

「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年4月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...

news130.jpg

Cookieを超える「マルチリターゲティング」 広告効果に及ぼす影響は?
Cookieレスの課題解決の鍵となる「マルチリターゲティング」を題材に、AI技術によるROI向...