AIプロセッサ“覇権争い”を激化させる「NPU」とは何なのか?AMD、NVIDIA、Intelの攻防【前編】

半導体ベンダー各社が相次いでAI技術の利用を想定したプロセッサ新製品を発表している。AI PC向けとしては、各社はNPUの重要性を強調している。NPUはどのような役割を持っているのか。

2024年07月14日 08時00分 公開
[Bridget BotelhoTechTarget]

 人工知能(AI)技術の市場動向が、半導体ベンダーの収益や評価に大きな影響を及ぼし始めている。AIプロセッサ市場をけん引してきたNVIDIAの存在が、それをよく示している。同社の株価は、生成AIツールが台頭してから劇的に上昇した。

 AIプロセッサ市場で存在感を示すのは、NVIDIAだけではない。MicrosoftがPC新ブランドとして「Copilot+ PC」を発表したことで一段と注目が集まることになった「AI PC」の市場でも、複数の半導体ベンダーがしのぎを削っている。

 AI PC市場で戦う半導体ベンダーは、いずれも「NPU」(ニューラルプロセッシングユニット)の重要性を強調している。AI PC向け新製品を発表したAdvanced Micro Devices(AMD)も、この動きの中心にいる半導体ベンダーの一社だ。NPUはどのような役割を持つのか。まずはAMDの発表から、改めてNPUの重要性を考えてみよう。

AIプロセッサの覇権を左右する「NPU」とは何か?

 AMDのCEO、リサ・スー氏は、2024年6月に台湾で開催されたカンファレンス「COMPUTEX TAIPEI 2024」の基調講演で、「業界にとってとてつもなく楽しみな時代が始まろうとしている」と語った。IT分野に限らず、さまざまなビジネス分野を見ても、AI技術の活用は何よりも優先して取り組むべき事項の一つとなっている。「AIにより、事実上全てのビジネスが変容し、生活の質が向上し、コンピューティング市場のあらゆる部分が作り替えられる」とスー氏は語った。

 半導体ベンダー各社がCOMPUTEX TAIPEI 2024で売り込んだのは、生成AIのさまざまなワークロード(コンピュータやシステムで実行する処理や作業)を実行できる、演算性能と電力効率の高さを特徴とするプロセッサだ。それはNVIDIAが注力しているような、データセンター向けのGPU(グラフィックス処理装置)だけに限らない。

 半導体ベンダー各社にとってこれからチャンスが訪れる分野の一つがAI PCだ。AI PCとは、AI関連の処理を実行するための専用プロセッサを搭載するPCを指す。AMDやIntelが、AI専用プロセッサであるNPUを搭載する新たなプロセッサをCOMPUTEX TAIPEI 2024で披露した。

 こうした半導体ベンダーが発表するプロセッサ搭載のデバイスを、ユーザー企業が一般的に採用するようになるのはいつ頃なのか。米TechTargetの調査部門Enterprise Strategy Group(ESG)のアナリスト、ゲイブ・クヌート氏は、「1年半から2年ほど先に、導入の機運が本格的に高まる可能性がある」と語る。ユーザー企業のPCの更改サイクルは3〜5年程度が一般的だ。それを加味すると、次期公開のタイミングでAI PCの導入を検討するユーザー企業が出てくる可能性がある。

 クヌート氏は、ユーザー企業のPC更改サイクルが一巡する中で、どのようなPCが最も一般的なPCとして定着するのかが見えてくるだろうと指摘する。「AI PCの導入が目立ってくれば、そこから弾みが付いて3〜5年後には全てのPCがなんらかのAI機能を搭載する時代を迎えている可能性がある」(同氏)

AI PCの鍵は「NPU」

 AMDのスー氏は、NPUを搭載したSoC「AMD Ryzen AI 300」を紹介し、AIワークロードを効率的に処理するにはNPUが重要である点を強調した。AIワークロードとは、具体的には例えば以下のようなタスクだという。

  • リアルタイム翻訳
  • コンテンツの自動生成
  • 意思決定を支援するカスタマイズされたデジタルアシスタント

 Gartnerによると、AI関連のタスクをNPUがバックグラウンドで継続的に実行することで、デバイス面では以下のような利点が見込める。

  • 稼働時間を延ばす
  • 静音性を上げる
  • 発熱を抑える

 スー氏の基調講演では、MicrosoftのWindowsデバイス担当バイスプレジデントであるパバン・ダブルリ氏が登壇。Microsoftが新たに発表したAI PCブランド「Copilot+ PC」を動かすためには、NPU内蔵プロセッサの処理性能が重要であると強調した。

 ダブルリ氏は、オンデバイスAI(デバイスでAIワークロードを実行すること)の利点は、応答時間の短縮、プライバシーの向上、コストの削減などにあると説明し、NPU搭載によってAIワークロードに最適化した処理を実行する重要性を強調した。

 ただしCopilot+ PCが2024年6月に発売した時点では、同PCシリーズにAMD Ryzen AI 300は搭載されていない。2024年末などしばらくしてから搭載になる見込みだが、2024年6月の発売時点で搭載されるのはQualcommのArmプロセッサ(Armアーキテクチャを採用したプロセッサ)のみだ。

 IntelもCopilot+ PC向けの新プロセッサ「Lunar Lake」(開発コードネーム)を発表してるが、Copilot+ PC発売時点では搭載されず、搭載は2024年内になる見込みだ。


 次回は、IntelのAIプロセッサの戦略も含めて、AI PC分野での半導体ベンダーの争いが激しくなりつつある現状を紹介する。

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