半導体ベンダー各社が相次いでAI技術の利用を想定したプロセッサ新製品を発表している。AI PC向けとしては、各社はNPUの重要性を強調している。NPUはどのような役割を持っているのか。
人工知能(AI)技術の市場動向が、半導体ベンダーの収益や評価に大きな影響を及ぼし始めている。AIプロセッサ市場をけん引してきたNVIDIAの存在が、それをよく示している。同社の株価は、生成AIツールが台頭してから劇的に上昇した。
AIプロセッサ市場で存在感を示すのは、NVIDIAだけではない。MicrosoftがPC新ブランドとして「Copilot+ PC」を発表したことで一段と注目が集まることになった「AI PC」の市場でも、複数の半導体ベンダーがしのぎを削っている。
AI PC市場で戦う半導体ベンダーは、いずれも「NPU」(ニューラルプロセッシングユニット)の重要性を強調している。AI PC向け新製品を発表したAdvanced Micro Devices(AMD)も、この動きの中心にいる半導体ベンダーの一社だ。NPUはどのような役割を持つのか。まずはAMDの発表から、改めてNPUの重要性を考えてみよう。
AMDのCEO、リサ・スー氏は、2024年6月に台湾で開催されたカンファレンス「COMPUTEX TAIPEI 2024」の基調講演で、「業界にとってとてつもなく楽しみな時代が始まろうとしている」と語った。IT分野に限らず、さまざまなビジネス分野を見ても、AI技術の活用は何よりも優先して取り組むべき事項の一つとなっている。「AIにより、事実上全てのビジネスが変容し、生活の質が向上し、コンピューティング市場のあらゆる部分が作り替えられる」とスー氏は語った。
半導体ベンダー各社がCOMPUTEX TAIPEI 2024で売り込んだのは、生成AIのさまざまなワークロード(コンピュータやシステムで実行する処理や作業)を実行できる、演算性能と電力効率の高さを特徴とするプロセッサだ。それはNVIDIAが注力しているような、データセンター向けのGPU(グラフィックス処理装置)だけに限らない。
半導体ベンダー各社にとってこれからチャンスが訪れる分野の一つがAI PCだ。AI PCとは、AI関連の処理を実行するための専用プロセッサを搭載するPCを指す。AMDやIntelが、AI専用プロセッサであるNPUを搭載する新たなプロセッサをCOMPUTEX TAIPEI 2024で披露した。
こうした半導体ベンダーが発表するプロセッサ搭載のデバイスを、ユーザー企業が一般的に採用するようになるのはいつ頃なのか。米TechTargetの調査部門Enterprise Strategy Group(ESG)のアナリスト、ゲイブ・クヌート氏は、「1年半から2年ほど先に、導入の機運が本格的に高まる可能性がある」と語る。ユーザー企業のPCの更改サイクルは3~5年程度が一般的だ。それを加味すると、次期公開のタイミングでAI PCの導入を検討するユーザー企業が出てくる可能性がある。
クヌート氏は、ユーザー企業のPC更改サイクルが一巡する中で、どのようなPCが最も一般的なPCとして定着するのかが見えてくるだろうと指摘する。「AI PCの導入が目立ってくれば、そこから弾みが付いて3~5年後には全てのPCがなんらかのAI機能を搭載する時代を迎えている可能性がある」(同氏)
AMDのスー氏は、NPUを搭載したSoC「AMD Ryzen AI 300」を紹介し、AIワークロードを効率的に処理するにはNPUが重要である点を強調した。AIワークロードとは、具体的には例えば以下のようなタスクだという。
Gartnerによると、AI関連のタスクをNPUがバックグラウンドで継続的に実行することで、デバイス面では以下のような利点が見込める。
スー氏の基調講演では、MicrosoftのWindowsデバイス担当バイスプレジデントであるパバン・ダブルリ氏が登壇。Microsoftが新たに発表したAI PCブランド「Copilot+ PC」を動かすためには、NPU内蔵プロセッサの処理性能が重要であると強調した。
ダブルリ氏は、オンデバイスAI(デバイスでAIワークロードを実行すること)の利点は、応答時間の短縮、プライバシーの向上、コストの削減などにあると説明し、NPU搭載によってAIワークロードに最適化した処理を実行する重要性を強調した。
ただしCopilot+ PCが2024年6月に発売した時点では、同PCシリーズにAMD Ryzen AI 300は搭載されていない。2024年末などしばらくしてから搭載になる見込みだが、2024年6月の発売時点で搭載されるのはQualcommのArmプロセッサ(Armアーキテクチャを採用したプロセッサ)のみだ。
IntelもCopilot+ PC向けの新プロセッサ「Lunar Lake」(開発コードネーム)を発表してるが、Copilot+ PC発売時点では搭載されず、搭載は2024年内になる見込みだ。
次回は、IntelのAIプロセッサの戦略も含めて、AI PC分野での半導体ベンダーの争いが激しくなりつつある現状を紹介する。
米国TechTargetの豊富な記事の中から、最新技術解説や注目分野の製品比較、海外企業のIT製品導入事例などを厳選してお届けします。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
業務効率を高めて生産性を向上させるために、多くの企業がITシステムの導入を進めている。しかし、自社の業務に合わないITシステムを導入してしまっては、逆に生産性が低下する可能性も高い。この問題をどう解決すればよいのだろうか。
システム運用の効率化を目的にクラウドシフトを進める中で、高いレベルの可用性と性能を確保することが求められたオーケー。そこで採用されたのが、あるオブザーバビリティプラットフォームだ。その仕組みや実力を、詳しく解説する。
IT人材を非効率なシステム運用業務から解放し、デジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みにシフトするには、SoR領域の業務を自動化する必要がある。事例が示す成功のカギとは?
システム運用の自動化に取り組む企業が増えているが、ほとんどが個人管理の域であり、局所的な自動化にとどまっているという。本資料では、関係者間の情報伝達を含む広範囲な自動化を実現する上で有効なソリューションについて解説する。
業務ごとに最適なシステムを導入したいが、連携の難しさが課題となっていた目黒区。しかし、ある共通基盤を活用することで、オールインワンの限界を打ち破り、柔軟なIT環境を構築することができた。その成功事例を紹介する。
いまさら聞けない「仮想デスクトップ」と「VDI」の違いとは
遠隔のクライアント端末から、サーバにあるデスクトップ環境を利用できる仕組みである仮想デスクトップ(仮想PC画面)は便利だが、仕組みが複雑だ。仮想デスクトップの仕組みを基礎から確認しよう。
「サイト内検索」&「ライブチャット」売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、サイト内検索ツールとライブチャットの国内売れ筋TOP5をそれぞれ紹介します。
「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年5月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。
「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...