AIワークロードの処理能力を強化したMicrosoft新PCブランド「Copilot+ PC」は成功するのか。専門家は幾つか重要な要素が足りていないと指摘する。何が欠かせないのか。
AI(人工知能)技術の活用が進む中、Microsoftは2024年5月、AIワークロード(AI技術関連の処理やタスク)の処理能力を向上させるNPU(Neural network Processing Unit)搭載のPCブランド「Copilot+ PC」を発表した。それに伴い、Acer、ASUSTeK Computer、Dell Technologies、HP、Lenovo、Samsung Electronicsといった主要PCメーカーは、2024年6月にCopilot+ PCを発売した。
企業はMicrosoftのこうした動きに期待を寄せている一方、一部のアナリストは、Copilot+ PCには普及する上で重要な“あるもの”が欠けていると指摘する。何が足りないのか。
Copilot PC+は、搭載するSoC(統合型プロセッサ)に要件を設けている。IntelとAMD(Advanced Micro Devices)は、2024年6月時点でその要件を満たすCopilot PC+用のプロセッサを準備中だ。現状のCopilot+ PCには、Qualcomm製のArmアーキテクチャ採用CPU「Snapdragon X Elite」が搭載されている。
要件を満たすSoCとして、Intelは2024年7〜9月期に、同社がコードネーム「Lunar Lake」と呼ぶCopilot+ PC用CPUを出荷すると発表した。Microsoftを含む各PCメーカーは、Armアーキテクチャ採用CPUのCopilot+ PC開発に取り組んでおり、Microsoftの新製品は「Surface」シリーズのラインアップに加わる見込みだ。
アナリストによると、Copilot+ PCの発表は企業の間で好評を博している。AIワークロードはPC製造業界の関心をかき立てており、PCメーカーと半導体メーカーの協力も企業の目を引いたという。
AdobeやZoom Video Communicationsなどのアプリケーションベンダーは、Armアーキテクチャ採用CPUで稼働するアプリケーションを提供している。Salesforce傘下のSlack Technologiesも、2024年6月にコラボレーションツール「Slack」のベータ版を公開した。サブスクリプション型オフィススイート「Office 365」に含まれる、「Microsoft Teams」「Microsoft PowerPoint」「Microsoft Outlook」「Microsoft Word」「Microsoft Excel」などのアプリケーションは、Armアーキテクチャ採用CPUでも動作する。
このような盛り上がりに対して、「Copilot+ PCのスタートは堅調だが、Microsoftが企業向けPC市場で成功するためにはさらなる努力が必要だ」と言うアナリストがいる。具体的には、以下の2つが欠かせないという。
コンサルティング会社J. Gold Associatesの主席アナリストであるジャック・ゴールド氏によると、オフィス向けの大口契約を獲得するために重要になる点は、PCの販売価格が1000ドルを切ることだ。2024年6月時点で市場に出回っているCopilot PC+の価格は約1000ドル以上で、ゴールド氏は「かなりの高額であり、安くはない」と話す。現状のCopilot PC+はプロシューマー(先進技術に興味がある消費者)や専門家、長時間持つバッテリーを必要とする外回りの従業員といった層向けの製品だと同氏は考える。
この価格帯でのライバルは、Appleのノート型デバイス「MacBook」だ。MacBookは、Appleが独自設計したArmアーキテクチャ採用のSoC「M」シリーズを搭載する。MicrosoftはCopilot+ PCについて、1回の充電でローカルストレージ内の動画を連続22時間再生可能なバッテリーを搭載すると主張している。
MicrosoftはAppleに対してAI戦略の面で一歩先を行っている。Appleは2024年6月開催のイベント「World Wide Developers Conference」(WWDC)で、AIワークロードを扱うデバイスに関する戦略を発表したばかりだ。
「優れたバッテリー駆動時間と演算能力を理由にMacBookを求める人にとって、Copilot+ PCはその代替になり得る」。市場調査会社TECHnalysis Researchのプレジデント、ボブ・オドネル氏はそう指摘する。
次回は、Copilot+ PCが普及する上でのさらなる課題を専門家の声と共に紹介する。
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