ストレージの需要低迷が2022年ごろから顕著になり、HDDベンダーを直撃した。ベンダー各社の業績が悪化しただけではなく、さまざまな異変が見られる。HDD業界で何が起きているのか。
HDDベンダーはストレージ需要の低迷にあおられ、2022年ごろから苦戦を強いられてきた。販売不振でベンダー各社の業績が悪化しただけではなく、業界の至る所でさまざまな“不穏な出来事”が見られる。HDD業界は崩壊へと向かっているのか。この先には何があるのか。現状を探る。
2023年は、さまざまなデータを自動で生成するAI(人工知能)技術である「生成AI」がIT業界を賑わせた。ストレージに向かうとみられていた企業の資金の一部は、AI技術向けに使われることになった。ただしHDDベンダーの販売不振の理由は、予算がAI技術に回されたことだけではない。
HDDベンダーであるSeagate Technology(以下、Seagate)とWestern Digitalの売上高は、2022年から2023年にかけて減少を続けていた。この業績低迷の理由の一つは、特需の終わりだ。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(感染症の世界的な流行)期間中に、企業がHDDとSSDを過剰に購入した反動として、ストレージの需要が減少した。その後は、主要ITベンダーが業績低迷を理由にストレージの調達を減らした。
HDD業界には嵐のような変化が巻き起こっている。2023年3月には、HDD市場の一角を占める東芝が、株式の非公開化を発表した。同年4月には、SeagateがHuawei TechnologiesにHDDを供給していたとして、米国商務省の輸出管理規則に違反していることが発覚。商務省はSeagateに3億ドルの罰金を科した。
2023年10月には、Western Digitalが2社に分社化することを発表した。一方の会社はHDD事業、もう一方の会社はNAND型フラッシュメモリ事業に特化する。この計画は、2024年下半期に実行に移されるとみられる。
HDD市場の失速は、関連業界をも混乱させた。東京に本社を置くレゾナック・ホールディングスは2023年9月、HDD用のアルミニウム基板を製造する台湾拠点の事業を終了すると発表した。これについてコンサルティング会社Coughlin Associatesのプレジデント、トーマス・コフリン氏は、「HDD需要の低迷を考えれば、驚くことではなかった」と語る。SeagateとWestern Digitalの生産には、大きな影響は出ないとコフリン氏はみている。
市場調査会社Futurum Groupのシニアアナリストを務めるデイブ・ラッフォ氏は、HDDベンダーが抱える問題は、主要顧客がAmazon Web Services(AWS)やMicrosoftといった大手クラウドベンダーになっていることだと指摘する。ほんの一握りしかない大口の顧客への依存度が高くなるほど、その顧客の購買が減った場合の打撃は大きくなる。「クラウドベンダーが購入を一時やめれば、HDDベンダーの売り上げに大きな穴ができる」とラッフォ氏は説明する。
実際、クラウドベンダーは不定期に大量にストレージを発注して、その後はしばらく買い控えることがある。クラウドベンダーが2020年と2021年に大量にストレージを発注したことは、まさにそれに該当する例だ。
HDDの販売が不振に陥ったことで、市場ではHDDの価格が下落する傾向が目立った。極端な見方をすれば“HDD業界の終焉(しゅうえん)”を予兆するもののようにも受け取れるが、HDDベンダーは自社のHDD事業の先行きについて明るい見通しを示している。
SSDの最大容量が徐々に増大するという、HDDベンダーにとっては脅威になり得る動向もある。それでも「企業のデータの大部分がSSDではなくHDDに保存されている」という状況が、HDDベンダーの自信を裏付ける事実となっているのだ。
調査会社IDCのHDDリサーチディレクターを務めるエド・バーンズ氏は、クラウドベンダーの需要低迷は続きつつも、2024年に需要は持ち直すとみている。「希望の光は見えている」とバーンズ氏は語る。
先に触れた通り、AI技術が台頭したことで一時的に投資がストレージではなくAI技術に向かう傾向が見られた。だがAI技術の活用が広がるほど、今後はHDDの需要を押し上げる可能性がある。AI技術による学習においては、学習のためのデータをできるだけ安価に保存できるストレージが必要になるからだ。
次回はSSD市場の状況と、AI技術がストレージの需要増をもたらす可能性を探る。
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