SSD、HDDが売れなくなった「語られざる理由」ストレージ市場に起きた想定外【前編】

SSDやHDDを手掛けるストレージベンダー各社の売上高は、2022年から2023年にかけて急落した。AI技術の台頭でストレージの需要は大幅に改善するとの見方があったが、それは読み違えだった。どういうことなのか。

2024年06月25日 07時00分 公開
[Adam ArmstrongTechTarget]

 SSDやHDDを扱うストレージベンダーは、需要の変化に翻弄(ほんろう)されている。2022年から2023年にかけて、ストレージベンダー各社の売上高が急落した。2023年以降は、AI(人工知能)技術の台頭によってストレージの売上高は大きく回復するとの見方があったが、状況はむしろ悪化した。何が理由なのか。

SSDもHDDも売れなくなったのはなぜか

 ストレージ需要の減少は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(感染症の世界的な流行)期間中に、企業がHDDとSSDを過剰に購入したことに起因する。その特需が終わると、IT業界の景気が悪化した。Microsoftをはじめ、HDDとSSDを大口で購入するIT企業が数千人といった規模で従業員を解雇した。

 そうした中でも、2023年に入ると幾つかのストレージベンダーが業績回復の兆しが見えてきたという見通しを発表した。しかしストレージ市場低迷は極めて深刻だった。

 2022年末に約3000人の従業員を解雇していたHDDベンダーSeagate Technology(以下、Seagate)の2024年第1四半期(2023年7〜9月期)の売上高は、14億5400万ドルにとどまった。これは前年同期の売上高20億3500万ドルから、約29%も減少したことになる。SeagateのCEO、デイブ・モズレー氏は「今回の業績悪化は典型的なダウンサイクルよりも長い」と語った。

 2023年は生成AIがIT業界を賑わせ続けることになったが、この流行がストレージベンダーの業績を支えるまでには至らなかった。企業が生成AIの試験的な運用を本番運用に切り替える動きが広がってくれば、ストレージの需要も高まってくるはずだ。だが、AI技術の需要とストレージの需要の関係はそう単純ではなかった。

 2023年、ストレージベンダーは革新的な新製品をほとんど発表しなかった。Seagateのエグゼクティブバイスプレジデント兼チーフコマーシャルオフィサーであるバンセン・テー氏は、「生成AIの爆発的な普及に起因している」とその背景を語る。企業は、設備投資の予算を重点的にAI技術に振り向けることになった。資金が集中的にAI技術へと向かうことになり、ストレージの売り上げの回復が遅れたのだとテー氏は分析する。

 AI技術によるストレージへの影響はそれだけではない。AI技術の処理向けに設計された「AIサーバ」は、データ読み書きを高速に処理するSSDを搭載する。調査会社Gartnerのリサーチバイスプレジデントを務めるジョセフ・アンスワース氏は「AIサーバ向けSSDの容量はそれほど多くはないので、それがストレージ容量の需要を押し上げることにはならなかった」と語る。

 AIサーバは、演算処理もデータの読み書きも高速に実行する必要があり、そのためのデバイスを搭載する。AIサーバは汎用(はんよう)サーバに比べて高額だ。「AIサーバがより多く売れれば、汎用サーバがより多く売れ残るという結果につながる」とアンスワース氏は語る。汎用サーバはAIサーバよりも多くのストレージ容量を搭載する傾向にあるため、汎用サーバが売れなければ、結果としてはストレージ容量の需要を抑制する結果になってしまう。

 「AIモデルを学習する際には大量のストレージ容量が必要になるが、推論の際はそれほど大量のストレージは必要はない」とアンスワース氏は語る。一方でAI技術の運用にコストがかかり、結果としてストレージに振り向けられることが見込めたはずの企業のIT予算は、ことごとくAI技術に奪われることになったのだ。


 AI技術が継続的に使われ続ければ、結果的にストレージの需要を押し上げることになると考えられる。次回以降はHDD市場の状況を分析するとともに、AI技術の普及がストレージの需要を押し上げる可能性を探る。

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