なぜAWSによる「VMware Cloud on AWS」の販売が終了に? Broadcomの狙いはVMware事業方針の変更がどう影響したのか

Broadcomが、「VMware Cloud on AWS」のAWSを経由する販売を終了した。この動きは、Broadcomの買収に伴うVMware事業の方針の変更が関係している。同社の狙いと、AWSやユーザー企業の反応を説明する。

2024年06月25日 05時00分 公開
[Tim McCarthyTechTarget]

 Broadcomは、「VMware Cloud on AWS」のAmazon Web Services(AWS)と同社のリセラーを通じた販売を終了した。これにより、同サービスを販売するのはBroadcomだけとなった。VMware Cloud on AWSは、AWSのベアメタルインスタンス(物理サーバ)にVMware製品で仮想マシンを構築し、ユーザー企業専用のインフラとして利用できるようにするサービスだ。1年分または3年分のAWSとの契約期間がまだ残っているユーザー企業は、その期間が終了するまでは引き続きAWSから料金が請求される。

「VMware Cloud on AWS」の販売経路を変更したBroadcomの狙い

 Broadcomの広報担当者によると、AWSとVMwareが共同で提供するVMware Cloud on AWSは、VMwareが管理するプライベートクラウドサービス「VMware Cloud Foundation」(VCF)に準じたハイパースケールクラウド製品だ。VMware Cloud on AWSはAWSでVCFの機能を利用可能にするために、管理にはAWSが提供する管理ツールではなくVMwareの「VMware SDDC Manager」を使う必要がある。

 Broadcomの最高経営責任者(CEO)のホック・タン氏は、2024年5月6日のブログ記事でこの変更内容を明らかにした。同氏によれば、BroadcomはVMwareのさまざまな製品や機能を、価格と課金方式を定めたサブスクリプションサービスとして再編しようとしている。今回の発表もその目標に沿った施策だという。

 しかし「『VMware Cloud on AWSが廃止されるかもしれない』という誤った報道が、このサービスを長年利用してきたわれわれの顧客に不必要な懸念を抱かせている」とタン氏は述べる。

 Broadcomは上で述べたVMware事業の目標達成に向けた取り組みを進めているが、買収に伴う事業転換への消費者やユーザー企業からの否定的な反応への対処に追われている。

 タン氏はブログ記事で「AWSやサードパーティーのリセラー経由でVMware Cloud on AWSを購入した顧客は、BroadcomまたはBroadcomの認定リセラーを通じて、ライセンスの契約内容の見直しやインフラの拡張ができるようになる」と説明している。

 「今回タン氏が書いたブログ記事には、VMware Cloud on AWSが完全に廃止される可能性があると考えていた、VMwareとAWSのユーザー企業の疑念を晴らそうという狙いがある」。Gartnerでアナリストを務めるシド・ナグ氏はそう指摘する。ナグ氏は、たとえサービスが存続したとしても、VMwareの既存の顧客が他の仮想化ベンダーの代替サービスを検討する可能性はあると予測する。「タン氏は人々が抱いている誤解を解消しようとしている。ブログ記事の意味することは、Broadcomがサービスを提供し続けるということだ。しかしユーザー企業の、自分たちがVMwareと築いてきた関係が続くかどうかという懸念は消えていない」と語った。

クラウドに力を入れるBroadcom

 AWSの声明によると、同社はVMware Cloud on AWSのサポートは継続するものの、販売は終了する。同社は声明で次のように説明する。「残念ながらVMware Cloud on AWSのリセラーとしての業務は終了したが、今後もBroadcomと緊密に連携してサービスを提供する」と述べる。AWSはVMware Cloud on AWSを含めたクラウドサービスを、ユーザー企業が自社に合った形で活用できるよう引き続き支援する意向だ。

 調査会社IDCのアナリストを務めるゲイリー・チェン氏は、2017年に発表されたVMware Cloud on AWSは、VMware製品とAWSサービスとのより緊密な連携を実現したと説明する。VMwareの製品をクラウドサービスで実行する機能は、Microsoftの「Azure VMware Solution」やGoogleの「Google Cloud VMware Engine」、Oracleの「Oracle Cloud VMware Solution」といった他ベンダーのサービスでも利用できる。これらAWS以外のサービスでは、それぞれのクラウドベンダーが管理と請求業務を担っているため、同様の変更が実施される可能性は低いと、チェン氏は見ている。

 BroadcomはVMwareの合併に必要な法的な承認を得たことで、サブスクリプションサービスを中心とした戦略の検討や実行に時間をかけられるようになったとチェン氏は話す。

 同氏は次のように指摘する。「Broadcomは事業方針の変更をためらわない企業だ。しかもすぐに変更に取り掛かる。VMwareの買収はしばらく前から計画されており、彼らは事業計画の分析に長い時間をかけていた」

 AWSはこの状況を見過ごしているわけはない。同社は「AWS VMware Migration Accelerator」を2024年末まで割引価格で提供している。これはVMware Cloud on AWSのワークロード(アプリケーション)をAWSの仮想マシンサービス「Amazon EC2」に移行するサービスだ。「AWSは今後もVMwareのユーザー企業を獲得しようとするはずだ」とチェン氏は見解を述べる。

 米TechTargetの調査部門Enterprise Strategy Groupのアナリスト、スコット・シンクレア氏によると、今回のVMware Cloud on AWSの購入先の変更に対するユーザー企業の不信感は、過去にBroadcomが実施した買収が影響しているという。同社はCA TechnologiesやSymantecの買収後、買収先の従業員の削減や製品ラインアップの変更を実施した。「VMware Cloud on AWSのユーザー企業はAWSではなく、Broadcomと交渉しなければならなくなった。同サービスに否定的な見方が生まれるのは仕方ない」とシンクレア氏は言う。

 チェン氏によれば、一部のユーザー企業は、VMwareの事業方針の転換に対してまだ態度を決めかねているという。VMwareの仮想化技術を利用し続けるのであれば、VMwareが過去にリセラーやパートナー企業に対して取っていた“無干渉”という姿勢の変化に合わせる必要が生じる。「Broadcomは顧客を直接管理することを好む傾向にある。これまでVMwareはパートナー企業による販路を重視し、干渉することはなかったが、Broadcomはユーザー企業を自社で管理し、関与を深めたいと考えている」(チェン氏)

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