転職を希望するのであれば、まずは書類選考を通過できる履歴書の作成が必要だ。採用担当者が重点的に見ているポイントや、「駄目な履歴書」になってしまうNG行為を紹介する。
転職を考えているのであれば、まずは書類選考を通過できる履歴書を作成することが必要だ。IT業界で転職をする際にも、まず履歴書が必要になることに変わりはない。採用につながる履歴書を作成するには、どのような点に注意すればよいのか。採用担当者が重点的に見ているポイントや、履歴書を作成する際にやってはいけない“NG事項”10個を紹介する。
企業の採用活動で一般的に使われているのが、求人への応募者の受付から選考、内定といった応募者ごとの採用プロセスを一元管理できる採用管理システム(ATS:Applicant Tracking System)だ。人工知能(AI)技術を使って履歴書の事前審査や面接を実施するATSもある。
採用担当者はATSをカスタマイズして、特定のキーワードやフレーズ、学歴や職歴、スキルといった条件を基に応募者をふるいに掛けたり、履歴書に優先順位を付けたりすることができる。
ATSによる履歴書の審査が終わると、採用担当者はATSの審査を突破した履歴書に目を通し、応募者の望ましい特徴だけでなく、採用の支障となる要素がないかどうかを確認する。履歴書の作成ツールを提供するWebサイト「ResumeLab」が2024年4月に公開した記事「How to Write a Resume According to Science in 2024」によると、ResumeLabが実施した調査では、採用の決定権を有する担当者の64%は1通の履歴書を3〜6分で確認すると答えた。この調査は、採用担当者や人事の専門家、採用部門の管理職506人を対象に、委託先の調査会社OnePollが実施した。
「読み始めてから30秒以内に応募者の経歴が明確に伝わる履歴書が望ましい」こう語るのは、ヘルスケアなどの業界で人事部門の責任者と人材管理の専門家として20年以上の経験を持つロビン・パト氏だ。
デザインツール「Canva」を提供するCanvaは、米国や英国、ドイツなど8カ国の採用担当者5000人に対し、企業の採用担当者が応募者を評価する際に履歴書で着目する点や、ビジュアルコミュニケーションを活用した履歴書の魅力の高め方について調査を実施。2024年1月に調査結果を公開した。その結果、採用担当者の57%は「文字だけの履歴書よりも画像やグラフィックデザインなどの視覚的要素を含んだ履歴書を好む」と回答した。71%は「文字だけの履歴書は2029年までに淘汰(とうた)される」と答えた。
履歴書とカバーレター(自己PRや志望動機を記載した送付状)は、将来自分の雇用主になる可能性がある人物に自分の専門性を紹介するためにある。これに対し、ビジネス向けSNS「LinkedIn」のプロフィールとアクティビティー欄は、専門家の人脈に自身が加わるためのものだ。LinkedInは求職活動を進めるための重要なツールの一つになる。専門家としてふさわしくないプロフィール写真を使用すると、不利益を被る恐れがあるとパト氏は注意を促す。
スタートアップ(先進的なアイデアで急成長する企業)の人材獲得と人事に詳しい人材コンサルタントのマーク・サビーノ氏によると、LinkedInのプロフィールは履歴書ほど改まったものではないが、求職者の経歴を理解するのに役立つと説明する。ニュースやコメントといった投稿からは、その人物の業務への姿勢や人脈を把握できるという。
採用につなげるための履歴書を作成するために、注意したいポイントを以下にまとめる。
特定の業界や職種に特化しておらず、どのような業務にも一般的に必要とされるようなスキルや経歴を羅列しているだけの履歴書や、なぜその職種に応募しているのかを説得する力に欠ける履歴書を何度も見てきたと、パト氏とサビーノ氏は口をそろえる。
「履歴書を作成する時、これまでの業績を列挙して自分を売り込みたい気持ちになりがちだ。しかし履歴書に書く内容は、応募する職務によって変えることが重要だ」(パト氏)
採用担当者は、応募者のスキルと求人内容が合致するかどうかを確認している。応募者は“特徴のない履歴書”から脱却するために、まず職務経歴や各職務での業績、スキルや資格といった情報を網羅した履歴書のたたき台を作成した後、応募しようとしている職務について企業が記載した職務記述書を分析するのがよい。その後職務記述書からキーワードや専門用語を見極め、その職務に合わせた履歴書を作成すべきだ。
連絡先情報が不足した履歴書を手にすることもあるとパト氏とサビーノ氏は話す。応募する過程でカバーレターや応募フォームに連絡先情報を記入したとしても、履歴書にも名前や電話番号、メールアドレスを必ず記載する。LinkedInのアカウント名を含めるのも一つの手だ。
年齢や婚姻状況、家族の個人情報や写真、趣味や好みなど、求人内容とは無関係な情報を履歴書に入れると、採用担当者が履歴書を読むための集中力を削ぐ可能性がある。ただしこれらの情報を企業が求めた場合は、指示に従って提供することが重要だ。
パト氏は、履歴書のたたき台には過去10年分の職務経歴を含めることを推奨する。清書するときに、職務記述書の内容に合わせて、選考で有利に働きそうな職務経歴や業績を見極めて記載することが重要だと指摘する。業績を定量化したり、可能な場合は数値化したりすると、業績を具体的に理解しやすくなる。職務記述書に記載されているスキルに関係する実務経験がある場合は、その内容も書いておきたい。
履歴書にはこれまで経験した役職や職務、入社日や業績を列挙するものだ。しかしこうした情報だけでは採用担当者や採用責任者が知りたい情報を提供できているとは言えない。採用担当者が知りたいのは、例えば業務の中でどのようなツールを導入したか、どのような技能が上達したか、応募者の業務が組織目標やミッションの達成に貢献したかといった情報だ。業績を定量化した上で、これらの情報を記載しておく。
履歴書を作成する目的は、自分の強みを知り、それを採用担当者や採用責任者と共有することだ。履歴書の作成に行き詰ったら信頼できる同僚の意見を聞き、自分が持つ影響力や強みは何か理解を深めてみよう。職務経歴を書き終わったら、取得した認定資格や注目されやすい技術スキルの習得、受講した講座といった職務外での学習状況についても触れ、スキルの構築や学習に意欲的であることを示す情報も含める。
ResumeLabが2023年10月に公開した記事「The Truth about Lying to Get a Job」によると、頻繁に履歴書に虚偽の記載をしたことがある応募者は70%に上ることが分かった。ResumeLabは2023年8月、米国の採用担当者1900人を対象にこの調査を実施した。就職後に虚偽の記載が発覚した場合、場合によっては解雇につながる可能性がある。
サビーノ氏によると、テキストや画像を自動生成する「生成AI」(ジェネレーティブAI)を活用した痕跡があり、虚偽の情報を含む履歴書を目にする機会は増加傾向にあるという。目立つ履歴書を作成するために全力を尽くすことは大切だが、履歴書には正しい情報のみを記載すべきだ。日付や役職、学位といった情報が正確かつ誠実に自分の状態を表しているようにしたい。
採用担当者が初めて履歴書を確認する際、1ページ目の冒頭部分を確認し、それ以降は見出しと小見出しを見るだけで、詳細を細かく見てはいないことがある。1ページ目の上半分に書いた経歴の要約や希望職種に目を通し、スキルや職歴まで読み進めてもらうことができなければ、採用される確率は低くなる可能性がある。
履歴書の1ページ目の冒頭に経歴要約や希望職種を、同ページの分かりやすい位置にスキルと、最低でも直近5年分の職務経歴を箇条書きで含めることが重要だ。
図表や画像、テキストボックス、ヘッダやフッターにテキストを挿入した場合、ATSがテキストを読み取れない場合がある。ATSがテキストを読み飛ばした結果、履歴書が採用担当者の目に触れる機会を逃す可能性は高まる。
ファイル形式は文書作成ツール「Microsoft Word」やPDFを使用する。履歴書作成ツールを提供する「Jobscan.co」を運営するJobscanや、人材関連企業リクルートの子会社で、オンライン求人情報サイト「Indeed」を運営するIndeed.comなどの求人サイトはATSと互換性があるフォーマットのサンプルを提供している。Jobscanは履歴書スキャンサービスも提供している。このようなサービスを使って、作成した履歴書の情報をATSが適切に読み取れるかどうか確認することも可能だ。
例えば「学歴」を「学習経歴」と書くなど、履歴書の主要なキーワードを一般的ではない単語で記載したり、記載する情報の順番が一般的な履歴書の構成とは異なっていたりすることがある。その場合、ATSの処理に時間がかかったり採用担当者が困惑したりする。「経歴」「希望職種」「スキル」「職歴」「学歴」といった一般的なキーワードを使用し、正確で説得力を持つ情報を記載したい。
サビーノ氏は「その履歴書を最後まで確認する価値があるかどうか、採用担当者は履歴書を見て5秒で判断できる」と話す。採用担当者がほしい情報にスムーズにたどり着けるようにして、続きを読みたいと思わせる履歴書を作成するためには以下のポイントに配慮したい。
履歴書の文章にスペルミスや文法の誤り、抜け漏れがあると、採用担当者は応募者が必要条件を満たしているかどうか不安に感じる可能性がある。流行語を乱用したり、不適切な言葉を使用したりすれば、採用担当者は履歴書を読むのを止めてしまう場合がある。履歴書の提出前に第三者に校正を依頼することもできるが、文書作成ツールの校正機能や、生成AIサービスを使って自分で校正することも一つの手だ。第三者に履歴書の校正を依頼すれば、履歴書の全体的な印象を教えてもらうこともできる。
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