「GUI操作のPC」はもう限界? 本当は何が必要なのかこれから求められる「生産性ツール」とは【後編】

生産性ツールが次々と登場しているものの、現場への業務負担は改善されていないようだ。マルチタスクで頭がパンク寸前な現代人が救われるには何が必要なのか。

2024年10月18日 08時00分 公開
[Adrian BridgwaterTechTarget]

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 本記事は、ジェフ・シュチェパンスキー氏と、プログラミングQAサイトの「Stack Overflow」のOBチームが共同で執筆した寄稿を基にしたものだ。シュチェパンスキーはワークスペースオーケストレーションツールのベンダーReframe Technologiesの創業者兼CEOを務めており、過去にはStack Overflowと、「X」(旧Twitter)が2021年に買収したチャットアプリケーションベンダーSphereでCOO(最高執行責任者)を務めた経歴を持つ。

 「グラフィカルユーザーインタフェース」(GUI)搭載のデスクトップPCの登場は、コンピューティング分野における画期的な飛躍だった。これはコンピュータでのマルチタスクを容易にし、業務の生産性向上に大いに貢献した。

 しかし現代の仕事は、当時は想像できなかったほど複雑化している。企業はさまざまなアプリケーションを導入し、従業員はデスクトップで何十個ものタブ(Webブラウザなどの画面)を開いている。その結果、便利なはずのコンピュータが、従業員の認知能力に過大な負荷をかけてしまっている。

現代人に本当に必要なのは単なる「GUI操作のPC」じゃない?

 これまでのコンピューティングの進化を振り返ると、技術中心のアプローチが採用されてきた。しかし近年では、技術と同様に脳科学の知見も重要なことが明らかになってきている。Reframe Technologiesが提唱するのが「人間中心のアプローチ」だ。これは単なる生産性向上を目指すのではなく、人間の創造性を生かしてビジネスに価値を作り出すことを目的としている。

 「収穫漸減(ていげん)の法則」という用語がある。これは、労力(投資)を追加しても、ある点を超えると得られる成果(利益)は徐々に減少する、という経済原理だ。対照的に、人間の創造力はうまく活用すればするほどビジネスを変革する可能性を秘めている。こうした人間の創造性を引き出せるようなツールを開発すべきだ、とシュチェパンスキー氏は主張する。

 同氏は「これからの時代、技術的な観点から一歩離れて、人々がツールに求める要素を考えることが重要だ」と話す。「業務に集中するにはどうしたらいいだろうか」「次に何をすべきか」「タスクにどう優先順位を付けようか」「チームとどう連携すべきか」――こうした人間的な悩みを、ソフトウェアで解決することは難しい。

 こうした人間的な課題を技術の枠組みに統合し、コラボレーションを強化することが今後重要となるとシュチェパンスキー氏は考える。つまり、メール作成といった従来のタスクを単に技術で置き換えるのではなく、技術を通じて人間の能力を引き出すということだ。

 「認知的過負荷」という言葉があるが、これはたくさんの物事を同時に考えたり、処理する情報量が多過ぎたりすると、頭が疲れてしまうということだ。米国国立衛生研究所(NIH)はこの現象を「テクノストレス」と表現している。技術の進化によってマルチタスクが可能になった結果、技術を使う側の人間が疲れ過ぎてしまうという、本末転倒の事態を招きかねない。

 単に見栄えが良いだけのアプリケーションやユーザーインタフェース(UI)を作るだけでは、この問題は解決できない。人間とコンピュータがどのように一緒に働くか、その関係性を根本的に見直すことが不可欠だ。「人間がコンピュータと一緒に働くべき」だと言われるが、本来は「コンピュータが私たちと一緒に働くべき」だ。シュチェパンスキー氏はそう指摘する。

 Reframe Technologiesが掲げる目標は、職場や働き方をより人間らしく、効率的で、人間のニーズに合ったものに変えることだ。ただ生産性を高めるだけではなく、人間の強みや想像力をうまく生かして、より充実した職場環境を作り出す。そのために、生産性を再定義する必要があると同社は考える。

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