DWHの選択で避けて通れないのが、オンプレミスとクラウドの比較検討だ。コストやスケーラビリティ、セキュリティなど、企業が注意すべき7つの観点で長所と短所を比較する。
分析ツールのためにデータを大量に保管、処理するために、データウェアハウス(DWH)は欠かせない存在だ。DWHの形態としては、従来型のオンプレミスとクラウドの2つの選択肢がある。導入する前に知っておきたい、オンプレミスDWHとクラウドDWHの長所と短所を詳しく見ていこう。
オンプレミスDWHの大きな課題は、データと処理に関する自社の要件を満たすハードウェアとソフトウェアを備えるシステムを、企業自身が構築しなければならない点だ。こうしたシステムの構築は、システム管理者やデータベース管理者が、ベンダーと協力して進めることになる。ただしそうしたシステムは概して複雑で、専任の運用管理部門が必要になることがほとんどだ。増え続けるデータと処理に対処するためにオンプレミスシステムを拡張することには、コストと時間がかかることも課題になる。
クラウドDWHはインフラ管理にまつわるこうした課題を解消する一方で、IT管理プロセスの変更が必要になるなど、新たな課題をもたらす可能性がある。本稿はオンプレミスDWHとクラウドDWHの長所と短所を複数の観点から比較する。
オンプレミスのデータセンターにDWHを導入して運用するコストは、クラウドDWHの従量料金制に比べて一般的にかなり高くなる。クラウドベンダーがデータベースを管理するDwaaS(Data Warehouse as a Service)は特にそうだ。だが現在データセンターを保有している企業にとっては、さまざまな要因を考慮する必要があるため、オンプレミスDWHとクラウドDWHのコスト比較は単純ではない。
クラウドサービスが登場した当初のセールスポイントは、IT運用にかかるコストを削減できることだった。だがクラウドサービスを導入した企業は、コスト削減が必ずしもクラウドサービスの利点ではないことにすぐに気づいた。クラウドDWHは、サーバやソフトウェアを自社で購入する必要はない。しかしコンピューディングやメモリ、ストレージといったリソースを使用するコストは、オンプレミスDWHを運用するよりも増える可能性がある。DWHのワークロードが予期せず増加し、コストが膨れ上がることもあり得る。
オンプレミスDWHとクラウドDWHの比較時は、DWHを運用するために必要な人件費も考慮しなければならない。オンプレミスDWHの場合、コンピューティングやOS、ストレージ、データベースの保守要員が必要だ。一方でクラウドDWHは自社で保守する必要が完全になくなるわけではないものの、オンプレミスDWHよりは低くなる傾向にある。
その他、以下のコストはクラウドサービスの利用料金に含まれている。こうしたコストはオンプレミスDWHとクラウドDWHの比較において見落としがちだ。
これらの要素は利用状況によっては料金が高くなる場合があるものの、設備投資や運用コストはベンダーが負担する。
クラウドDWHの市場競争は激しい。ベンダーは自社サービスを競合他社のサービスよりも優位なポジションに押し上げるために、機能強化やイノベーションを継続的に実施している。その恩恵としてクラウドDWHユーザーは、コンピューティングインフラからDWHソフトウェアまで、次々と提供されるさまざまな機能を活用できる。
これに対してオンプレミスDWHは、企業が自社でシステムの更新やソフトウェアのインストールといった運用管理業務を実施することになる。そのため、クラウドDWHに比べて新機能の利用開始までに時間がかかりやすい。
BIやレポーティングといった基本機能に加え、以下をはじめとする高度なデータ分析関連機能を提供している点も、クラウドDWHのメリットだ。
システムのスケーラビリティ(拡張性)は、処理負荷の増加に対処する際の助けとなる。パフォーマンスのチューニングや設定変更だけでは増加するデータの処理ができなくなった場合や、新しいデータソースの追加に伴ってデータ量が増加した場合に、ストレージやメモリ、処理能力を増強する必要が出てくる。
オンプレミスDWHのスケーリングは手間がかかる作業だ。サーバにCPUやメモリを増設することで対処できる場合でも、システム管理者が筐体を開けてCPUやメモリを交換したり追加したりしなければならない。増設できない場合は、より大きなハードウェアを導入することになる。複数のノード(サーバ)を使ってクラスタを構成することも可能だが、ハードウェアやソフトウェアの導入、システム運用管理のコストが急増する恐れがある。
容易にスケーリングできる点はクラウドDWHの強みだ。以下に具体的なクラウドDWHと、それぞれが備えるスケーリング機能の例を挙げる。
DWHのパフォーマンスを最適化する際、オンプレミスDWHでは、ハードウェア、OS、データベースを監視するために、それぞれに個別のツールが必要になることがある。クラウドDWHは、クラウドベンダーが提供する専用の監視ツールやアドバイザリーツールを利用できるので、より一元的な情報収集が可能だ。
ただしクラウドDWHにも幾つかの問題点がある。大容量のデータを入出力する必要がある場合や、データのやりとりに時間制限がある場合、データ転送が難しくなる可能性がある。クラウドDWHのパフォーマンスに問題があり、スケーリングが選択肢にない、またはスケーリングで問題が解決しない場合、ユーザー企業が単独で対処することは現実的ではない。クラウドベンダーと協力して、根本原因を特定する必要がある。
リソースの過剰な使用に関する制約も問題だ。オンプレミスかクラウドかにかかわらず、不適切なクエリによる消費リソースの急増は発生する。クラウドDWHの場合、処理を強制的に停止させられる可能性がある。リソースの使用量が継続的に増加すると、より高額なプランへのアップグレードを余儀なくされることにもなりかねない。
オンプレミスDWHは、ユーザー企業がシステムを完全に制御し、全面的な責任を負う。クラウドDWHはベンダーとユーザー企業が責任を分担する。特にマネージドDWaaSを用いる場合は管理権限の一部をベンダーに委譲することになる。
この責任分担は利点と見ることもリスクと見ることもできるが、ほとんどの企業はリスクとメリットの組み合わせだと見なす。主要なクラウドベンダーは最低限の稼働率を保証するサービスレベル契約(SLA)を提供しており、これがシステム管理の委譲への懸念を軽減することにつながる。
オンプレミスDWHの場合、ユーザー企業はハードウェアからソフトウェアまで、システム全体のセキュリティに関する責任を負う。一方でクラウドDWHの場合、セキュリティの責任をクラウドベンダーと共有するが、全ての責任を委ねるわけではないことには注意が必要だ。クラウドベンダーと企業で責任を分担する「責任共有モデル」を採用するのであれば、ユーザー企業も一部のセキュリティ対策を実施しなければならない。
責任分担の範囲は、クラウドDWHの利用形態ごとに異なる。マネージドDWaaSを使用する場合や、インフラのみIaaS(Infrastructure as a Service)を使用する場合などだ。データの機密度に基づく分類とそれに応じた保護、アクセス権限、エンドポイントセキュリティなどは、一般的にはユーザー企業の責任だ。
オンプレミスDWHとクラウドDWHのセキュリティ対策における原則は共通だ。クラウドDWHを選択する利点としては、セキュリティコストをクラウドベンダーと分担できる点、クラウドベンダーのセキュリティ機能を活用できる点がある。クラウドベンダーは自社サービスのセキュリティ強化に注力しており、そのための対策機能を活用できることは大きなメリットだ。
先述の通り、クラウドDWHの利点の一つは、システムとその運用管理に関する責任をクラウドベンダーが負うことだ。ただし業界の規制やコンプライアンス、自社のセキュリティ基準を順守する必要がある企業にとって、これは課題になる場合がある。
セキュリティと同様に、コンプライアンスもユーザー企業とクラウドベンダーの共同責任だ。クラウドベンダーは通常、米国医療保険の相互運用性と説明責任に関する法令「HIPAA」、欧州連合(EU)における個人情報保護のための規則「GDPR」(一般データ保護規則)などの規制に関する第三者監査報告書や証明書を提供する。ユーザー企業はそれらの情報も踏まえつつ、自社の監査要件に基づいて、DWHが規制に準拠していることを確認するためにベンダーと協力して必要な証拠を収集する必要がある。必要な証拠を見つけるのに時間がかかる場合があるが、コンプライアンス順守に要するコストをクラウドベンダーと分担できるというメリットは、手間を上回るはずだ。
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