博物館が進める800TBのストレージ刷新 “ITで文化財を守る”仕組みとは?博物館のDX推進【前編】

ニュージーランドのオークランド戦争記念博物館は、ストレージの刷新によって、400万点を超える収蔵品の保護、文化を保護するデータ活用に乗り出している。どの製品を導入し、どのような効果を得ているのか。

2025年03月27日 05時00分 公開
[Stephen WithersTechTarget]

 ニュージーランドのオークランド戦争記念博物館(Auckland War Memorial Museum)は、400万点以上の所蔵品と世界有数のマオリおよび太平洋諸島民族の工芸品を所蔵する博物館だ。デービッド・マクリントック氏がテクノロジーおよびデジタル部門長に就任した2019年当時、同博物館のITインフラは未整備の状態で、システムの連携が取れておらず、セキュリティポリシーや災害復旧(DR)機能が欠けていた。

 そうした状態から脱却するために、オークランド戦争記念博物館は新たなストレージを導入し、デジタルトランスフォーメーション(DX)を実現した。膨大な所蔵品をデジタル化したデータの取り扱いなど、さまざまな課題にどう対処できるようになったのか。

800TBのストレージで実現した“職員を安心させる”仕組み

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 セキュリティとバックアップのニーズを満たすために、オークランド戦争記念博物館はDell Technologiesのストレージ製品「PowerScale」を3拠点に導入した。同博物館のストレージ需要は年々増加しており、主要拠点とバックアップ拠点で合計800TBのストレージ容量を実現することを計画している。

 拠点の一つはオークランドから離れた場所にあり、1PBのアーカイブデータを保有する。その中には主要な文化的資料の改変不可能な複製データもある。マクリントック氏は、今回のシステム刷新でリスク分散やデータセキュリティ強化が実現したことで、「組織の関係者に大きな安心を提供できた」と述べる。

 一部のマオリおよび太平洋諸島民族の工芸品、人骨などの機密性の高い収蔵品は、一般公開が制限されている。オークランド戦争記念博物館は、こうした品目が金銭的価値をはるかに超える文化的価値を持つことを認識しており、文化的に重要なアーカイブデータの管理、利用、保存に関する決定権を、その文化の代表者が制御できる「デジタル主権」を重視する。これを受けて、マオリおよび太平洋諸島民族の視点を取り入れたデータガバナンスの拡張を検討している。

 マクリントック氏がオークランド戦争記念博物館におけるデジタル化の取り組みについて語った際、「データは土地である」という考え方が登場した。これは、ニュージーランドへの移住者が先住民の土地や文化を侵略して植民地化した「過去の過ち」を、IT領域でも繰り返すべきではないという意味だ。

 世界中の先住民は自らの文化的データを大手IT企業に委ねることに慎重な姿勢を示している。一方でこの考え方を実現すれば、情報の閲覧を制限することにつながる。

 ギャラリー、図書館、アーカイブ、博物館(GLAM)分野の組織には十分な資金があるわけではないが、豊富な資料を有する。「ニュージーランドが新たな歴史カリキュラムを導入した今、われわれのアーカイブデータを教育分野で活用できる可能性がある」とマクリントック氏は指摘した。

ストレージ刷新による効果

 オークランド戦争記念博物館はこれまで、信頼性に不安のある外部委託のテープバックアップを利用していた。今回のストレージ刷新によってその必要性がなくなり、クラウド型バックアップサービス「Dell APEX Backup Services」へのスムーズな移行を成功させた。

 PowerScaleが搭載する保護機能「Ransomware Defender」を活用することで、ファイル名の一括変更などの不正行為を防止し、ストレージシステムのセキュリティ強化も実現した。ストレージ管理を省力化することによって、オークランド戦争記念博物館はビジネス継続性とデータの整合性に焦点を当てた堅牢なサイバーセキュリティ体制を確立した。

 古いストレージは処理速度などの面でデジタル化チームの作業を遅らせる要因になっていたが、今回の刷新によって作業効率が上がり、「デジタル化を推進する」というCEOの目標に合致するものとなった。収蔵品のデータ化は、展示スペースの節約や劣化しやすい展示品の取り扱い制限の緩和につながり、オークランド戦争記念博物館とその収蔵品をより広い層に利用してもらえるようにすることに役立つ。

 「最適なデータストレージシステムを導入することで、オークランド戦争記念博物館はDXの目標を実現する体制が整った」(マクリントック氏)


 次回は、博物館が推進するAI(人工知能)プロジェクトを紹介する。

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