Windowsに「AI」と「MCP」を組み込むMicrosoft、その真の狙いWindowsへのAI統合が本格化

Microsoftは、年次開発者イベント「Build 2025」でWindowsへのAI技術の全面的な統合を打ち出した。AI開発基盤「Windows AI Foundry」とは何か、「MCP」をWindowsに統合した狙いについて解説する。

2025年06月17日 05時00分 公開
[Cliff SaranTechTarget]

 Microsoftは、2025年5月19日(現地時間)に開催した年次開発者イベント「Build 2025」で、クライアントOS「Windows」へのAI技術の本格的な組み込みを打ち出した。

 Windows開発者は、WindowsのAI PCブランド「Copilot+ PC」を動かすハードウェア非依存のAIエンジンにアクセスできるようになり、独自の訓練データを使用してAIエンジンを調整し、自身のアプリケーションに統合する際に最適化することが可能になる。

 本稿はMicrosoftが発表したAI開発基盤「Windows AI Foundry」と、「MCP」をWindowsに統合したMicrosoftの狙いについて解説する。

AIで広がるWindowsアプリケーションの可能性

 Build 2025の初日、Microsoftは「Windows AI Foundry」を発表した。これは、AI開発全体を支援する統一された信頼性の高い基盤として、モデル選定から最適化、ファインチューニング(特定用途向けの小規模データセットを用いた調整)、クライアントおよびクラウドへのデプロイ(展開)までをカバーするものだ。

 Windows AI Foundryは、WindowsのAI推論エンジンである「Windows ML」(ML:機械学習)へのAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)を介したアクセスを提供し、以下のような言語および視覚タスクに対応している。

  • テキスト分析
  • 画像説明
  • 文字認識
  • カスタムプロンプト(独自のAIへの指示)
  • オブジェクト消去

 Windows MLは、AIモデルの相互運用性を実現する「ONNX Runtime」エンジンを利用して、PC上のAI向けチップを活用するためのハードウェア非依存なインタフェースだ。ゲーム開発者がグラフィックス処理技術群「DirectX」APIを使ってGPU(グラフィックス処理装置)にアクセスするのと同様に、Microsoftはチップパートナーと協力して互換性を確保している。

 AdobeはWindows MLのAPIの活用を検討しているソフトウェア企業の一つだ。AdobeのシニアMLコンピュータサイエンティストであるフォルカー・レルケ氏は、次のように述べる。「動画編集ソフトウェア『Adobe Premiere Pro』や映像加工ソフトウェア『After Effects』は、テラバイト級の映像データと高負荷のML処理を扱っている。異種デバイス間で一貫した性能を提供する信頼性のあるWindows ML APIがあれば、大きな障害が取り除かれ、優れた新機能をより迅速に提供できる」

 Microsoftは「低ランク適応」(LoRA:Low-Rank Adaptation)機能も提供している。これはCopilot+ PCに内蔵されているMicrosoftのローカル言語モデル「Phi Silica」に対して、開発者のカスタムデータを用いたファインチューニングに利用されるものだと、MicrosoftのWindows + Devices部門コーポレートバイスプレジデントを務めるパバン・ダブルリ氏は説明する。

 セマンティック検索(検索文の意味や意図を理解した検索)とナレッジ検索(社内データ検索)のためのAPIも提供されており、自然言語検索やRAG(検索拡張生成)をWindowsアプリケーションに組み込むことが可能となる。

 Windows AI Foundryにより、開発者は独自のAIモデルを使って、Advanced Micro Devices(AMD)、Intel、NVIDIA、Qualcomm Technologiesといった半導体ベンダーのチップセット上でデプロイすることも可能になる。

MCPをWindowsに統合

 Microsoftは、Windowsに組み込まれたAIを開発者に開放するに当たり、AI技術ベンダーAnthropicが提唱した「Model Context Protocol」(MCP)をWindowsに統合している。この標準プロトコルにより、AIエージェントがネイティブWindowsアプリケーションとシームレスに接続できるようになる。「Windowsアプリケーションは、PC上にインストールされたAIエージェントのスキルや能力を拡張するための特定の機能を公開できるようになる」とダブルリ氏は述べる。

 Build 2025の基調講演では、MicrosoftのCEOサティア・ナデラ氏が、MCPがAIエージェントによる業務フローの連携を実現する可能性について言及した。「全ての業務アプリケーションがMCPサーバとして機能するようになれば、あらゆる役割や業務プロセスにおいて、AIエージェントがワークフローを自律的に調整できるようになるだろう。このような機能は次世代のワークフローや業務自動化を担う開発者にとって、画期的な変化をもたらすと確信している」(ナデラ氏)

<翻訳・編集協力:雨輝(リーフレイン)>

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