VMware製品のライセンス体系変更に仮想化ソフトウェア市場が揺れているが、VMware製品からの乗り換えは本当に現実的な選択肢なのか。現場の声から移行の可能性を探る。
BroadcomによるVMwareの買収とそれに伴うVMware製品のライセンス体系の変更や製品戦略の転換は、さまざまな企業にとってのインフラ再考のきっかけとなった。VMwareの仮想化ソフトウェア「VMware vSphere」(以下、vSphere)に代わる製品は本当にあるのか――。この疑問は依然として付きまとうが、サーバ仮想化市場の競合ベンダーやそのパートナー企業の間では、「財政面ではインフラ移行は現実的な判断だ」という声も強まっている。その実態はどうなのか。VMwareの競合製品を提供するベンダーを中心とする現場の声を聞いた。
VMware製品を取り巻く市場で混乱が広がる中、乗り換えの受け皿となり得る製品を打ち出したベンダーの一社がRed Hatだ。同社は2025年1月、コンテナ管理ツール群「Red Hat OpenShift」(以下、OpenShift)から仮想マシン(VM)の運用管理機能を切り出し、サーバ仮想化製品として「Red Hat OpenShift Virtualization Engine」(以下、OpenShift Virtualization Engine)の提供を開始した。
OpenShift Virtualization Engineへの移行は、ユーザー企業にどのような価値をもたらし、どこまで現実的なのか。Red Hatが2025年5月に開催したイベント「Red Hat Summit」でロードマップセッションに参加したRed Hatパートナー企業によると、OpenShiftとvSphereの長期的な開発方針には違いがあり、今後もそれは両製品の方向性に影響する。だが、だからといって「VMwareの顧客がOpenShiftから得られる価値がない」と言い切るのは行き過ぎだ。
「VMware製品を完全にリプレースできる製品はない、という意見も理解できる。しかし、何百万ドル規模の契約を結んでいる政府機関が、いま2倍以上のコスト増に直面しているのも紛れもない事実だ」。バージニア州ハーンドンに拠点を置くIron Bow Technologiesで、最高戦略オフィスのフィールドCTO(最高技術責任者)を務めるウンベルト・ピーニャ氏はそう語る。同社は政府機関との取引がある、Red Hatの販売パートナーだ。
セッション後にInforma TechTargetのインタビューに応じたピーニャ氏は、「これは技術の問題ではなく、財務上の判断に関わるものだ」と語った。vSphereから仮想マシンを完全移行できない企業であっても、一部を移行することでコスト削減ができる余地を見つけられれば、Broadcomをけん制し、結果的に何か利益につながる要素を見つけられる可能性がある。
Red Hatは仮想マシンの運用管理機能を切り出すことで急速に追い上げを図っているが、ピーニャ氏はさらに一歩進んだ改善を期待している。それは、複数のクラスタにまたがり、名前空間でグループ化された仮想マシンとコンテナリソースが混在する環境を、OpenShift Virtualization EngineでもvSphereのようなGUIベースの管理スタイルに近い形で扱えるようにすることだ。
ピーニャ氏はロードマップセッションの質疑応答で、「仮想マシンとコンテナを論理的にグループ化して管理するにはどうすればよいか」と質問した。これに対する回答は、オープンソースのプロジェクトを活用する選択肢はあるが、現時点では簡単に実現できるわけではないというものだった。
ほとんどの企業が管理ツール「VMware vCenter」で実施していることの一つが、フォルダ機能の活用だ。VMware vCenterのUI(ユーザーインタフェース)は、見た目がOS「Windows」のファイル管理ツール「Windows Explorer」に似ていて、データセンター、クラスタ、仮想マシンという階層構造になっている。これはOpenShift Virtualization Engineにはない特性だとした上で、ピーニャ氏は「クラウドにはそれがある」とも指摘した。
VMwareとBroadcomがもたらした混乱が、Red HatやNutanix、クラウドベンダーなど一部の競合ベンダーにとって追い風になっているのは確かだ。実際Red Hatは顧客数がこの1年間で178%成長したというデータも公表しているが、これについては疑問を呈するアナリストもいる。「Red Hatの財務面のプラスがそれほど増えていないのは、私にとっては驚きだ」と、調査会社HyperFrame ResearchのCEO、スティーブン・ディケンズ氏は語る。
Red Hatのソフトウェアの売り上げ成長率は、過去数四半期は最高で17%ほどだった。ディケンズ氏は、仮にVMwareの巨大な顧客基盤から多くがRed Hatに流れているのだとすれば、その程度の成長率には届いているはずだとした上で、「それが今は14%まで下がっている」と指摘する。確かにRed Hatの成長は続いている。だが仮想化分野でそれほどの大きな地殻変動が本当に起きているのだとすれば、過去のより高かった成長率に戻っていないのはなぜなのか」と同氏は疑問を呈する。
Red Hatとしても、移行を見込んでいるのは一部の顧客層だ。同社のCEO、マット・ヒックス氏は「われわれのよりどころになるのは、OpenShiftにすでに慣れ親しんでいる顧客層だ」と語る。そうした顧客は、Red Hatの製品を使うに当たって新たに学ぶことが少なくて済む。さまざまな企業が大きな変化を強いられる中で、同社にとっての成長の機会が広がっていることは確かだ。だが成長の大部分を占めると期待できるのは、すでにOpenShiftに慣れ親しみ、規模拡大の一環として仮想化機能を追加しようという顧客層なのだ。
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