負担が減るはずの「自動化」を“業務の足かせ”にしないための実践方法自動化とオーケストレーションの違い【中編】

IT運用の効率化を目的に、定型作業の「自動化」や、複数の作業を連携させる「オーケストレーション」を取り入れる選択肢が広がっている。これら2つの手法を取り入れ、成功させるためのポイントとは。

2025年07月03日 05時00分 公開
[Stephen J. BigelowTechTarget]

 IT部門の生産性向上や業務効率化を図る手段として、「自動化」と「オーケストレーション」の活用は広がっている。スクリプトを使ったり、ソフトウェアを駆使したりすることで反復的な作業を省力化することや、システム運用を一元的に制御し、業務のスピード向上に役立つのがメリットだ。

 だが、すべての業務に無条件で自動化やオーケストレーションの適用ができるわけではない。技術的な制限や、人的リソースが導入に当たっての課題として立ちはだかることもある。そこで本稿では、自動化とオーケストレーションのメリットだけでなく、導入における注意点や制限、導入を成功させるためのベストプラクティスをまとめる。

自動化とオーケストレーションを“業務の足かせ”にしない

 多忙なIT部門にとって、自動化とオーケストレーションはもはや不可欠な存在だ。両テクノロジーに対応するためのさまざまな手法やツールが存在するが、その導入成果を最大化するには、幾つかの基本的なベストプラクティスを押さえておくことが重要になる。

明確な目標を設定する

 自動化やオーケストレーションを導入する前には、何を達成したいのか、目標をしっかりと検討しておく必要がある。自動化とオーケストレーションの適用範囲は広く、使い方も多岐にわたるため、目標を明確にしておくことが重要だ。

 例えば、IT運用のダウンタイムを減らしてプロセスを高速化したいのか、ビジネス全体のワークフローを最適化したいのかによって、適用すべき手法は異なる。いずれの取り組みであっても、事前に明確な目標を定めておくことで、取り組みの効果を客観的に評価しやすくなる。

実用性を考える

 すべてのタスクやワークフローが自動化に適しているわけではない。中には構造が複雑で、簡単には自動化できないものもある。適しているのは、よく繰り返され、処理に時間がかかり、エラーが起こりやすいタスクだ。ただし、必要以上に自動化を進めると、後々メンテナンスが難しくなる「技術的負債」を抱えるリスクもあるため、注意が必要だ。

早期の成功体験を模索する

 自動化やオーケストレーションは、プロジェクトの規模や複雑さによっては、導入や運用が非常に困難になることがある。最初から難易度の高いプロジェクトに挑むのではなく、まずは規模が小さく、構成がシンプルなプロジェクトから始めるのが効果的だ。そうすれば担当者やチームはツールの使い方や運用の流れを実践的に学ぶことができ、徐々により大きなプロジェクトへとステップアップしやすくなる。

適切なツールを選ぶ

 自動化やオーケストレーションの分野には、さまざまなツールや手法が存在する。それぞれに独自の機能や強みがある。自社のビジネスニーズを把握した上で、コストやパフォーマンス、機能、将来性といった観点でバランスが取れたツールを選定することが重要だ。

 選んだツールが実際に期待通りに動作し、既存システムと適切に統合できるかどうかを確認するためには、「概念実証」(PoC)のプロジェクトを実施することが推奨される。初期段階でのこの検証が、後々の大きな利益や失敗回避につながる可能性がある。

見直しとアップデートを定期的に実施する

 自動化やオーケストレーションのプロセスを確立することは、出発点に過ぎない。真の価値を引き出すには、その後も継続的に監視をし、最適化と更新のサイクルを回す必要がある。多くの場合、ワークフローの一部をアップデートするだけでも、動作がより効率化され、変化するビジネス環境や新たな要件により的確に対応できるようになる。

自動化とオーケストレーションの課題

 自動化とオーケストレーションの手法はこれまでに十分に確立され、実績がある。IT部門に欠かせないテクノロジーではあるが、幾つか考慮すべき制限も存在する。注意が必要なのは以下の点だ。

  • 準備
    • タスクを確実に自動化するには、技術上と業務上の目標を明確に理解する必要があるが、目標の策定、レビュー、検証、アップデートには時間も労力も必要になる。
  • スキル
    • 通常、スクリプトを作成してメンテナンスするには、開発や運用に関する知識とプログラミングのスキルが必要になる。
  • 複雑さ
    • 自動化されるタスクはシンプルで単純なものばかりではなく、極めて複雑で、適切に実装するには幅広い専門知識を要するものもある。
  • 柔軟性
    • 自動化では速度と効率が向上することと引き換えに、変化するビジネスニーズや不測の事態への素早い対応が難しくなるなど、柔軟性が犠牲になる。
  • ベンダーロックイン
    • 自動化の実行には、特定のツールが必要になることが多い。それが特定ベンダーに依存している場合、ツールのバージョンアップや新ツールへの移行を経る中で、結果として特定ベンダーから容易には乗り換えられない状態に陥るリスクがある。

オーケストレーションの課題

 自動化と同様、オーケストレーションにも、導入にするに当たって慎重に評価すべき制限事項がある。

  • 準備
    • オーケストレーションは大掛かりで複雑なワークフローやプロセスを制御する。そのためには、まずオーケストレーションの仕組みを構築する前に、ビジネスのニーズと目標を詳細に理解しておくことが不可欠になる。
  • スキル
    • オーケストレーションツールはサードパーティー製のものが多い。ツールを選ぶ際は、プログラミングを含めてツール間の細かな差異を把握するための幅広い知識とスキルが求められる可能性がある。
  • 複雑さ
    • オーケストレーションでは、ワークフローの作成を簡略化するためのシンプルなドラッグアンドドロップの手法を使用することも可能だ。だがワークフローは非常に複雑なことがある上、ビジネスにとって失敗が許されない重要なものであれば、その構築は熟慮され、十分に検証が実施されなくてはならない。
  • 統合
    • オーケストレーションツールは基本的には既存のシステムに統合できるように設計されている。だが企業固有のユースケースに合わせて設計されているとは限らない。統合時の食い違いは、オーケストレーションを実行する際に問題を引き起こす恐れがある。
  • 柔軟性
    • ワークフローやプロセスをいったんオーケストレーションで構築すると、後からの変更は非常に困難になることが多い。オーケストレーションは変更によって全体のバランスが崩れる恐れがあるため、新たな要件への対応が難しくなるなど柔軟性を欠く可能性がある。
  • ベンダーロックイン
    • オーケストレーションツールは基本的にはサードパーティー製だ。そのツールのバージョンアップや新製品への切り替えなどを経て、ツールの変更が困難になり、特定ベンダーに依存する状態に陥りやすい。

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