vSphere、Hyper-V、KVM――進化する「仮想化のいま」を見直す仮想マシンとコンテナを徹底解説【第4回】

仮想マシン(VM)を支える仮想化技術は進化を続け、選べるツールの幅も広がってきた。自社に最適な製品を見極めるために、代表的な仮想化製品の特徴を知っておこう。

2025年07月22日 05時00分 公開

 仮想化の仕組みが進化し、使い方や提供方法も多様化してきたことで、選べるツールの幅も広がっている。その中で、クラウドでの運用を前提とした設計思想「クラウドネイティブ」や、軽量な実行環境を提供するコンテナが注目を集めるようになったが、「仮想マシン」(VM)も依然として企業ITのインフラに欠かせない存在だ。仮想化環境の見直しや新たな要件への対応を迫られる企業にとって、今どのツールを選ぶべきかは重要な検討課題になっている。仮想化の代表的な選択肢と、それぞれの特徴を整理しておこう。

vSphereからOSSまで、主要仮想化ツールの選択肢

 以下は代表的な仮想化ツールの選択肢だ。

VMware vSphere

 企業にITインフラとして広く利用されているVMwareのサーバ仮想化製品群だ。2023年11月の買収以降はVMwareのブランドの下でBroadcomが提供している。仮想マシン上で最新のアプリケーションからレガシーな業務システムまで幅広く実行できる。拡張性に優れ、コンテナオーケストレーター「Kubernetes」にも対応しており、仮想マシンとコンテナの統合管理を支援する機能も備える。高性能なインメモリデータベース「SAP HANA」を使用するアプリケーションなど、処理負荷の高い業務システムの運用にも適している。

Hyper-V

 Microsoftが提供する、OS「Windows」上で仮想マシンを作成・管理できるハイパーバイザーだ。同社のサーバOS「Windows Server」に標準で組み込まれているため、Windows環境との親和性があり、同環境での仮想化運用に適している。仮想マシンのライブマイグレーション(稼働中の仮想マシンを無停止で別ホストへ移動)や負荷分散、レプリカ(複製)といった高可用性や運用の安定性を支える機能も備えており、企業の継続的なシステム運用やリソース最適化に対応する仮想化基盤として活用できる。

Red Hat OpenShift Virtualization

 Red Hatが提供する仮想化機能。オープンソースのハイパーバイザー「KVM」(Kernel-based Virtual Machine)を基盤としている。コンテナオーケストレーター「Kubernetes」ベースのアプリケーション構築・運用プラットフォーム「Red Hat OpenShift」で仮想マシンを実行できる。企業向けLinuxディストリビューション「Red Hat Enterprise Linux(RHEL)」との親和性も高く、ミッションクリティカルなアプリケーションやリソース集約型のワークロード(アプリケーションやその処理タスク)にも対応できる。

Amazon Elastic Compute Cloud(Amazon EC2)

 Amazon Web Services(AWS)が提供するクラウド型仮想マシンサービス。同社の同名クラウドサービス群で仮想マシンを作成、管理できる。プロセッサ性能やメモリ容量、GPU(グラフィックス処理装置)といった多様な要件に応じて最適化されたインスタンスタイプが用意されており、用途によって柔軟に構成することが可能だ。「Amazonマシンイメージ」(AMI)を使うことで、必要なOSやアプリケーション構成をあらかじめ定義した仮想マシンを迅速に展開でき、環境の標準化やスケールアウトも容易になる。

オープンソースの仮想化ツール

 オープンソースでは以下のような仮想化ツールが代表的な選択肢になる。多数のオープンソースのハイパーバイザーや管理ツールが、仮想化市場でその地位を確立しつつある。

  • KVM(Kernel-based Virtual Machine)
    • Linuxのカーネル(OSの中核ソフトウェア)が標準でサポートしているハイパーバイザー機能。Red Hatの仮想化基盤など商用製品にも採用されている。Nutanixが提供する商用ハイパーバイザー「AHV」(Acropolis Hypervisor)もKVMを基に開発されている。
    • KVM自体はコマンドライン操作が中心だが、他の管理ツールと組み合わせることで本格的な仮想環境を構築できる。
  • oVirt
    • KVMをベースにしたオープンソースの仮想基盤管理ツール。WebベースのGUI(グラフィカルユーザーインタフェース)を備えており、仮想マシンやネットワーク、ストレージの管理を一元化できる。Red Hatが開発に関与している。
  • Proxmox Virtual Environment(Proxmox VE)
    • KVMとコンテナ仮想化(LXC:Linux Containers)を統合的に管理できるオープンソースプラットフォーム。GUI操作に対応し、バックアップやクラスタリング、ライブマイグレーションなどの機能も備える。中小規模の企業や教育機関などでも広く活用されている。

仮想マシンの展開

 仮想マシンの展開方法は、使用する仮想化ツールによって異なる。それぞれの製品には、仮想マシンの作成や初期設定、リソース割り当てを支援するウィザード(ガイド形式の補助機能)やテンプレートなどの機能が用意されており、仮想化環境の立ち上げを簡素化できるようになっている。

 例えばVMware vSphereでは、仮想マシンをゼロから作成することも、「テンプレート」や「クローン」といった既存の定義を基に展開することも可能だ。作成手順は「新規仮想マシンウィザード」というガイド形式の補助機能によって案内され、初心者でも容易に操作できるようになっている。

 Red Hat OpenShift Virtualizationの場合はまた異なる。例えば、Linux搭載の仮想マシンを作成する場合は、以下の手順を実行する。

  1. 空の仮想マシンを作成する
  2. 仮想ストレージを追加する
  3. 仮想ネットワークインタフェースカード(NIC)を追加する
  4. ゲストOSをインストールする
  5. 仮想マシンをコンテンツ配信ネットワークに登録し、必要なサブスクリプションに接続する(「Red Hat Enterprise Linux」の場合)
  6. 必要なゲストエージェントまたはドライバをインストールする

 仮想マシンの展開方法は仮想化ツールごとに異なるので、事前にドキュメントを確認する必要がある。

仮想化を活用するクラウドサービス

 クラウドサービスでは、仮想化技術が広範囲に活用されている。ユーザー自身が必要な仮想マシン(VM)をセルフサービスで展開できる機能や、利用量に応じて課金する「従量課金」などの仕組みと組み合わせることで、柔軟なリソース運用を可能にしている。

 オンプレミス環境では、新しいプロジェクトやユーザーの要望に応じて、管理者が手動で仮想マシンを作成するのが一般的だ。これに対してクラウドサービスでは、エンドユーザーがセルフサービスのポータルからインスタンス(仮想マシン)を選び、必要なCPUやメモリなどのリソースを指定するだけで、物理機器に触れることなく仮想マシンを即座に立ち上げられるようになっている。

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