「ParrotOS」とは? プライバシー保護と開発効率を両立できるLinuxセキュリティ特化のLinuxを比較【後編】

サイバー攻撃への備えは必須だが、日常業務でのプライバシーや開発効率も犠牲にできない――。そうした悩みを解消し得るLinuxディストリビューションが「ParrotOS」だ。その設計思想と、具体的な機能とは。

2025年07月28日 05時00分 公開
[Damon GarnTechTarget]

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Linux | OS | セキュリティ


 現代のシステムを支えるOS「Linux」の中には、セキュリティに特化したディストリビューション(配布パッケージ)がある。具体的には、「Kali Linux」「ParrotOS」といったディストリビューションが有力だ。本稿はそのうち、プライバシー保護や開発プロセスでのセキュリティ確保といった要件に応えるParrotOSに焦点を当て、その多彩な機能と、背景にある設計思想を解説する。

ParrotOSとは?

 2013年に公開されたParrotOSは、プライバシー、セキュリティ、開発という3つの分野を軸にしたディストリビューションで、それぞれの分野ごとに特化したエディションがある。多様なハードウェアと仮想マシン(VM)で動作し、他のディストリビューションと同様、カスタマイズ性と自由度が特徴だ。

機能とツール

 ParrotOSは以下をはじめ、セキュリティ専門家やプライバシーを重視するエンドユーザーにとって魅力的な標準機能を複数備える。

  • セキュリティを強化したカーネル(OSの中核ソフトウェア)
  • プライバシーを重視したデフォルト設定
  • ディスク暗号化
  • 開発者用ツール

 Kali Linuxと同様に、ParrotOSにも豊富なプライバシーおよびセキュリティツールがプリインストールされており、2025年7月時点でその数は600を超える。以下はその一例だ。

  • エクスプロイト(脆弱性悪用プログラム)検証ツール「Metasploit Framework」
  • Webアプリケーションの脆弱性スキャンツール「Burp Suite」
  • 無線LANのセキュリティ評価ツール「Aircrack-ng」
  • パケットキャプチャーツール「Wireshark」
  • パスワード解析ツール「John the Ripper」
  • インターネット接続匿名化ツール「AnonSurf」

エディション

 ParrotOSには、特定のニーズに合わせて調整された、さまざまな種類のエディションがある。エンドユーザーはまず大まかな特化分野(カテゴリー)を選んでから、エディションを選ぶことになる。主なカテゴリーは以下の3つだ。

  • Live
    • ParrotOSの全機能を備える。
    • 通常のインストールだけではなく、外部メディアから直接実行することもできる。
    • エディションとしては「Security」「Home」「HTB」がある。
  • Virtual
    • 「VMware vSphere」「Oracle VirtualBox」「UTM」といった仮想化ソフトウェアで作成したVMに最適化されている。
    • エディションとしてはSecurity、Homeがある。
  • IoT
    • 小型コンピュータ「Raspberry Pi」などのIoT(モノのインターネット)デバイスで動作する。
    • エディションとしてはSecurity、Home、「Core」がある。

 以下の導入形態も利用可能だ。

  • Dockerイメージ
    • コンテナ管理ツール「Docker」向けのイメージ(アプリケーションと実行環境をまとめたもの)。これを基にしてコンテナを起動できる。
    • エディションとしてはSecurity、Home、Coreがある。
  • Debian変換スクリプト
    • インストール済みのLinuxディストリビューション「Debian」を、ParrotOSに変換するスクリプト。
    • エディションとしてはSecurity、Home、Coreがある。
  • WSL
    • 「Windows」で実行できるLinux「Windows Subsystem for Linux」(WSL)への導入が可能なエディション。

 各エディションの概要は以下の通りだ。全てのエディションはプライバシー強化、セキュリティ、開発向け機能を搭載する。

  • Security
    • 侵入テスト向けに設計されており、それに適したツール群を搭載する。
  • Home
    • 日常的な使用を想定し、プライバシーと開発に重点を置いている。
    • 追加で侵入テストツールをインストールすることも可能。
  • HTB
    • 「Hack The Box」(HTB)は、侵入テストの学習教材を提供するオンラインサービス。
    • ParrotOSの特別版である「Pwnbox」を使用し、HTBが提供する演習用マシンを攻略して支配下に置くためのツールを提供する。
  • Core
    • 基本的なパッケージ(機能群)のみを含み、自由にシステムを構築できる。

インストールと運用

 ParrotOSは複数のインストール方法を提供している。エンドユーザーは希望するバージョンのインストーラーをダウンロードし、インストール先の物理マシンまたはVMでインストーラーを起動して、インストールウィザードの指示に従う。公式ドキュメントは、以下の導入方法についての手順を説明している。

  • 標準インストール
  • 他のOSとのデュアルブート
  • Raspberry Piへのインストール
  • VMへのインストール
  • Dockerイメージを用いたインストール

 ParrotOSには多様なエディションや稼働システムの形態があり、ハードウェア要件もさまざまだ。他のLinuxディストリビューションと同様、ParrotOSは標準的なハードウェアや比較的古くなったハードウェアでも動作する。

ドキュメントとコミュニティー

 インストールと導入に関する、整理された公式ドキュメントが存在する。Linuxの標準セキュリティモジュール「AppArmor」、NVIDIA製GPU(グラフィックス処理装置)用のドライバー、スクリーンキーボードのカスタマイズ機能など、OSの主要コンポーネントに関する設定情報も含まれる。

 その他の情報源としては、ParrotOSの公式ブログや、ソースコードが公開されているリポジトリが挙げられる。パッケージ、バグ、今後の新機能などの情報を確認しておこう。

何ができるのか

 エディションごとに利用できる機能は異なる。SecurityエディションはKali Linuxに近く、セキュリティ専門家に適する。権限昇格、データ管理、ソフトウェア管理、ネットワーク設定といったLinuxの基本的な操作に習熟していることが前提になる。Homeエディションは一般利用を目的としたエンドユーザーに最適で、特にLinuxに不慣れな場合は、日常的な作業の出発点として使うことができる。

 ParrotOSは開発者向けのディストリビューションとしても有用だ。さまざまな開発者向けツールが組み込まれており、特にプライバシー設定は、セキュリティが重視される状況でアプリケーションを開発する人々にとって力を発揮する。

どちらを選ぶべきか

 Kali LinuxやParrotOSを使いこなす鍵は、目的に合った最適なツールを見つけ出すことだ。この点において、Kali Linuxは侵入テストという1つの目的に特化しており、その役割を的確に果たす。ParrotOSのSecurityエディションは、競合する存在だ。一方でHomeエディションは、プライバシー設定や追跡防止機能を一般ユーザーや開発者に提供するという特徴を持つ。

 ディストリビューションを選ぶ際は、まず「侵入テストやセキュリティ監査がしたいのか、それとも追跡を避けたい一般ユーザーなのか」という自身の目的を明確にすることが重要だ。

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