クラウドやAI技術の進展により、ストレージでもさまざまな変化が起きている。メインフレームからクラウドまで対応する製品群を展開してきたIBM。長年の実績を持つ同社の最新ストレージ戦略を整理する。
今回の「ストレージサプライヤープロフィール」では、ストレージに加え、サーバやクラウドサービスなどのIT分野で長い歴史を持つIBMを紹介する。同社は近年、長引く収益減少に直面する中で、事業構造の再構築に本格的に取り組んできた。その成果は、クラウドサービスの強化、コンテナ技術の導入、「as a service」モデルの拡充といった形で表れている。本稿は、IBMという企業の概要と起源に触れた上で、主なストレージ製品群を整理し、さらにクラウドやコンテナ技術、ストレージの購入モデルに対する同社の最新アプローチを解説する。
IBMは企業のITシステムを支える存在として、ストレージ分野を含め、IT全般において圧倒的な影響力を持つ。その歴史は1911年にさかのぼる。当時の社名は「Computing-Tabulating-Recording Company」で、1924年に現在の「International Business Machines」(IBM)へと改称された。初期はパンチカードによる記録システムを手掛け、続いて電動タイプライターや計算機など、事務機器の分野で業界をけん引した。
1960年代以降は、メインフレーム(大型汎用機)とパーソナルコンピュータ(PC)の両分野で市場をけん引し、現代のITの基盤を築いた。だがその後、PC市場では新興企業に押されるようになり、同社は徐々にコンシューマー向け製品から撤退。企業向けIT製品とサービスに経営資源を集中するようになった。
近年における象徴的な転機は、2019年のRed Hat買収だ。買収額は340億ドル(約3兆7000億円)に上り、Red Hatが持つLinux技術と、クラウドインフラ構築を支える「OpenStack」や、分散ストレージソフトウェアである「Ceph」の技術群がIBMに加わった。
IBMは2025年現在、他のストレージサプライヤーと比べてどのような立ち位置にあるのか。市場調査会社IDCがまとめた2023年の「外部ストレージシステム売上高ランキング」によると、IBMは売上高14億6800万ドル(約2130億円)、市場シェア4.7%で8位にランクインしている。上位には、1位から順にDell Technologies、Huawei Technologies、米Hewlett Packard Enterprise、Lenovo、NetApp、Pure Storageといった企業が名を連ねている。この順位は、IBMのストレージ事業における売上と市場シェアが相対的に低下傾向にあることを示している。2021年第2四半期(4〜6月期)には、市場シェア4.7%で5位タイ、2022年には7位で市場シェア4.4%だった。
IBMはテクノロジー企業を含む他の大企業の中で、長期的な低迷期にある。1980年、IBMは米ビジネス誌Fortuneが発表する企業ランキング「Fortune 500」で米国企業の第8位にランクインしていた。当時のトップ30に、他のテクノロジー企業は1社も存在しなかった。その後、IBMの順位は徐々に下がり、2023年には65位となった。上位にはAmazon.comやAppleなど、IT業界を代表する企業が多数名を連ねている。
とはいえ、IBMが依然として巨大企業であることに変わりはない。2024年末時点での売上高は628億3000万ドル(約9兆1350億円)、従業員数は約27万7000人に上る。かつて2012年には46万6995人を抱えていた。英国では2万1000人の従業員と125カ所の事業所を展開している。
IBMは多様なストレージ製品を展開しており、特にフラッシュストレージ分野からテープまで、ユースケースやパフォーマンス要件に応じて幅広いラインアップをそろえている。
IBMのフラッシュストレージ製品群「IBM Storage FlashSystem」には、5000、5200、7300、9500といったシリーズがあり、それぞれHDDやストレージプロトコルNVMe(Non-Volatile Memory Express)接続のSSDなどを搭載したストレージ製品となっている。実効容量は、エントリーモデルの5000シリーズで約0.5PB(ペタバイト)、ハイエンドの9500シリーズでは最大4.5PBに達する。
2025年には、新たに「IBM Storage FlashSystem C200」シリーズがラインアップに加わった。大容量のQLC(クアッドレベルセル)型のフラッシュメモリ搭載SSDを採用し、アーカイブ用途などコスト効率を重視した用途に最適化されている。なお、IBM Storage FlashSystemは、データの階層化や移行、レプリケーション、スナップショットといった機能をクラウドと連携して利用できる。これらの機能は、IBMのストレージ仮想化ソフトウェア「IBM Storage Virtualize」によって実現されている。
IBMのフラッシュストレージ「IBM Storage DS8000」シリーズは、メインフレーム「IBM zSystem」と、同社のサーバ「IBM Power Systems」で稼働するOS「IBM i」の利用者を主な対象としている。IBM Storage DS8000シリーズには2つのモデルがあり、基本モデルの「DS8A10」は最大3.69PB(ペタバイト)、上位モデルの「DS8A50」は最大7.37PBの容量を持つ。
IBMによれば、IBM Storage DS8000シリーズの可用性は99.999999%(8ナイン)だ。データの完全暗号化やランサムウェア(身代金要求型マルウェア)対策としての不変コピー「Safeguarded Copy」、自動階層化、災害復旧機能などの高信頼性機能を備える他、ハイブリッドクラウドでの接続、IBM製サーバおよびメインフレームとの密接な連携、コンテナ環境においてストレージを管理・接続するための共通インタフェース仕様「CSI」(Container Storage Interface)での接続など、広範な機能を提供している。
「IBM Storage Scale」は、ファイルストレージとオブジェクトストレージに対応するスケールアウト型ストレージ製品だ。IBMの分散ファイルシステムソフトウェア「Spectrum Scale」を基盤として動作する。「OpenStack Swift」や「Amazon Simple Storage Service」(Amazon S3)と互換性のあるAPIを採用している。
「IBM Storage Fusion」は、コンピューティングとストレージ、ネットワーク機能を一体化した「ハイパーコンバージドインフラ」(HCI)型のシステムだ。仮想化環境やクラウドネイティブアプリケーションに最適化された構成であり、コンテナ基盤として「Red Hat OpenShift Kubernetes」を採用している。
IBMはテープストレージ(以下、テープ)分野で長年の実績を持ち、物理テープや仮想テープの製品群を展開してきた。「IBM TS」シリーズ」でテープ製品を提供しており、テープ規格「LTO」(リニアテープオープン」の最新版にも対応している。
IBMは、エントリーレベルやミッドレンジ向けのブロックストレージから、大容量、高性能、メインフレーム接続に対応するシステムまで、幅広いストレージ製品を展開しているベンダーだ。あらゆるワークロードに対応可能な製品ラインアップを持つ点が特徴だと言える。
特に、メインフレームとの接続を必要とするハイエンド用途に対応できるベンダーは限られる。他のストレージベンダーと同様、IBMはAI技術のユースケースやフラッシュストレージ、ハイブリッドクラウド、クラウドネイティブアプリケーション、コンテナ技術の活用といった分野に注力している。
IBMは、ハイブリッドクラウドやマルチクラウドに対応するクラウドストレージ分野に多額の投資を行っている。その戦略の中核を担うのが、分散ストレージ基盤「Red Hat Ceph Storage」と、Kubernetesをベースにしたコンテナアプリケーション基盤「Red Hat OpenShift」だ。これらは、コンテナやクラウドネイティブアプリケーションに最適化された構成で、拡張性の高いストレージ基盤を実現する。
パブリッククラウドにおいてブロックストレージやファイルストレージ、オブジェクトストレージといった各種のストレージサービスを提供していることもIBMの特徴だ。包括的なクラウドインフラを自社で保有している点において、IBMはストレージアレイベンダーの中でも特異な存在だと言える。
IBMのクラウドストレージサービスは、用途に応じた3つの主要な方式を提供している。「IBM Cloud File Storage」は、ファイル共有プロトコル「NFS」(Network File System)によるファイル共有を提供するサービス。ブロックストレージサービスの「IBM Cloud Block Storage」は、ボリュームをワークロード間で切り離し(デタッチ)したり再接続(アタッチ)したりすることができ、企業向けアプリケーションやデータベース、高頻度のトランザクション処理などを対象としている。オブジェクトストレージサービスの「IBM Cloud Object Storage」は、画像や動画、ログファイルなどの非構造化データに適している。
IBMのSTaaS(Storage as a Service)は、オンプレミスのデータセンターとクラウドの両方を横断して利用できるストレージサービスだ。導入時には、現在のニーズに応じた基本容量と、それに対して最大50%の追加容量(成長分)があらかじめプリインストールされており、必要に応じてすぐに利用を開始できる。これらの容量は、基本分と追加分を含めて単一の料金体系で提供されるのが特徴だ。
3段階の料金モデルが用意されている。いずれもレイテンシ(最大50マイクロ秒)と可用性(99.9999%)は共通だが、最小容量や容量1TB当たりのIOPS(1秒当たりの入出力数)、スループット(データ転送速度)などの仕様差に応じて料金が設定されている。
「IBM Storage Utility」の利用モデルでは、導入時点で基本容量の200%分があらかじめ提供され、実際の使用量に応じて課金される。このモデルでは、ストレージ監視・分析ツール「IBM Storage Insights」による容量監視と、あらかじめ余裕を持って導入される追加容量によって、容量不足による運用トラブルを回避できる。
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