クラウドからオンプレミスへの回帰を模索する動きが静かに広がっている。性能やセキュリティ以外にもさまざまな要因から、企業はより適切で現実的なインフラの選択肢を求めている。
Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft、Googleなどのクラウドサービスが台頭して以来、「クラウドこそが次世代ITの理想」とされる風潮が続いてきたが、その理想は揺らいでいる。クラウドベンダーに依存することのリスクや、コストといったさまざまな理由から、一部ではオンプレミスに回帰(脱クラウド)する動きが起きているのだ。
実際に脱クラウドを成功させた例をまとめた第2回「DropboxやXはなぜ『脱クラウド』『オンプレミス回帰』に踏み切ったのか?」に続き、本稿は企業のITインフラのより本質的な部分を見直す理由から、脱クラウドが誘発されている動向を解説する。
脱クラウドに対しては、慎重な意見もある。調査会社Forrester Researchのシニアアナリストであるダリオ・マイスト氏は、脱クラウドに成功した例はあくまでもレアケースで、一般的ではないと語る。Forrester Researchの2024年の調査によると、パブリッククラウドでホストされているアプリケーションの32.62%がクラウド外へ移行中だったが、そのほとんどは運用環境全体ではなく、一部のワークロード(アプリケーションやその処理タスク)だけだった。移行の理由としては1位がアプリケーションのパフォーマンス向上で、2位がセキュリティの懸念だった。
「実際のところ、脱クラウドオンプレミス回帰が全体の流れとまでは言えない。脱クラウドは技術的に困難で、移行のメリットが投資を上回らないことも多い。移行中の企業でも、コストの最適化というより、先進的な機能の実装が目的だ」。マイスト氏はそう語る。
完全な脱クラウドが難しい場合の選択肢としては幾つか挙がっている。現実的な選択肢として、プライベートクラウド、ハイブリッドクラウドがあり、さらに特定地域におけるデータ保護の要件を順守できるように、リソースを特定の境界内に限定して提供する「ソブリンクラウド」も浮上している。
一方で、英国のクラウドベンダーCivoのCEOであるマーク・ブースト氏は、完全な脱クラウドは技術的に困難であることを認めつつも、一般的に思われているよりは難易度が低いと指摘する。「移行を必要以上に恐れるのは、クラウドベンダーによるロックイン戦略の影響だ。慎重な計画が必要だが、自動化技術とAI(人工知能)技術の進歩により、移行はどんどん容易になっている」
企業向けAIサービスを提供するDomino Data Labの最高執行責任者(COO)であるトーマス・ロビンソン氏は、ベンダーロックインに対する懸念の高まりを指摘する。「単一のクラウドベンダーに過度に依存すると、コストが上昇し、レジリエンス(障害発生時の回復力)と柔軟性は低下する。専門知識を持つ人材の確保や規制の順守も難しくなる」
デジタルオペレーションレジリエンス法(DORA)や、米国のクラウド法(CLOUD Act:Clarifying Lawful Overseas Use of Data Act)といった法律の施行を受けて、規制当局、特に欧州の規制当局は、データプライバシーと運用リスクの懸念に対処するために、大手クラウドサービスのデータ独占への監視を強化している。ロビンソン氏は、こうした規制強化が進めば、クラウドコストが急騰する可能性があると警告し、対策の必要性を指摘する。
「規制がますます進む中、選択肢の確保のために、先見の明のある企業はハイブリッドクラウドやマルチクラウドを視野に入れた技術、人材戦略を採用している。単なるコスト削減のためでなく、アジリティー、レジリエンス、コントロールの権利の確保が目的だ」とロビンソン氏は語る。
大規模な脱クラウドはまだ起きておらず、多くの企業が最適な選択肢を模索中だ。Nutanixのハイパーコンバージドインフラ(HCI)、プライベートクラウドサービス「VMware Cloud Foundation」(VCF)、IBMのマルチクラウドツール群、Hewlett Packard Enterprise(HPE)のオンプレミスインフラ向けサービス群「HPE GreenLake」などが選択肢として浮上している。一方で、フランス政府が推進するデジタル主権に対するイニシアチブ「Cloud de Confiance」などの動きを受けて、代替としてソブリンクラウドの勢いも強まっている。
Google、Amazon Web Services(AWS)、Microsoftといったハイパースケーラーも、欧州のデータ主権に関する規制強化に対応しようとソブリンクラウドを提供している。複数のリージョンにリソースを分散させたり、データの保存先や転送先を特定地域内にとどめる「データローカライゼーション」を実行できたりと、ユーザー企業のデータをコントロールする権利の拡大に取り組んでいる。
次回は、公正競争の観点から見た場合の米国のクラウドベンダーの評価と、今後の選択肢について解説する。
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