「SSDがあればHDDは要らない」といった声が聞かれる中、今後のHDDの強みや用途をどう評価すべきなのか。HDDの基本性能と適した用途を、今あらためて確認しよう。
HDDには複数の性能指標があるが、その中で広く比較可能で再現性が高い指標となっているのが「連続データ転送速度」だ。連続データ転送速度は、HDDの外周部で達成できる転送速度を示し、大容量ファイルの連続読み込みや書き込みとの相性の良さから重要視される。そのため、HDDの評価や順位付け、ベンチマークは、主に連続データ転送速度を基準に実施される。
もう一つの指標が、1秒当たりのデータの入出力回数を意味する「IOPS」だ。HDDは機械的にヘッド(読み書き装置)を移動させる構造のため、IOPSは総じて低く、比較も容易ではない。それでもHDDの応答性を測る上で欠かせない指標となっている。
SSDの進化を受け、「HDDはもはや不要になる」といった声も聞かれる中で、実際にはHDDの性能や適した用途を今後どう見るべきなのか。東芝デバイス&ストレージの欧州子会社Toshiba Electronics EuropeでHDD事業開発のシニアマネジャーを務めるライナー・カエセ氏に聞いた。
HDDを、記録媒体の先頭のデータから順番にアクセスする「シーケンシャルアクセス方式」主体で運用する場合、評価の主軸となるのは毎秒のデータ転送量(MBps)だ。連続データ転送速度はディスクの回転数とトラック内データ密度に左右される。
例えば、5400RPM(RPM:ディスクの1分間当たりの回転数)で動作するHDDは、外側(外周)で170〜180MBps程度の連続データ転送を実現できる。内周部で読み書きを続けると転送速度は約100MBpsまで落ち込むが、これは極端な例だ。現在主流の7200RPMモデルでも、連続転送速度はやはりデータ密度によって変化する。
2015年頃には、4TB、6TB、8TBクラスのHDDはデータ密度が低く、連続データ転送速度も約120MBpsにとどまっていた。24TBといったより大容量のモデルが登場している2025年現在では、連続データ転送速度は300MBpsを超える。内周部での読み書きでは200MBps台まで落ち込むものの、平均すると約250MBpsとなる。
IOPSに関しては、HDDにとっては苦手な性能で、SSDに大きく劣る。ただしSSDとHDDをデバイス単体で比較するのは適切ではない。HDDは4台、8台、12台、場合によっては数百台を束ねて使うケースが多い。そのため単体では見劣りしても、台数をそろえれば必要なパフォーマンスを確保できるからだ。
IOPSは、HDDが読み取りまたは書き込み対象のトラック(円状のデータ領域)をどれだけ迅速に特定できるか、さらにそのトラック内で目的ブロック(データ管理の最小単位)を探し出す速度によって決まる。
HDDは機械的な構造を持つため、トラックとブロックの探索には時間を要する。現代のHDDでは、典型的なIOPSが1秒当たり約200〜220件の小さなファイルを読み取る水準にとどまる。IOPS性能を引き出すには、システムの構成も鍵となる。
比較可能な測定では、一般に4KBという極小ブロックを読み書きし、I/Oキュー(処理待ち行列)の深さを16に設定してドライブに負荷を与える。ドライブは複数ブロックへのリクエストを受け取り、まず該当トラックを見つけた後、そのトラック内で目的のブロックを探し出さなければならない。この探索処理により、IOPSは1秒当たりおおむね220件に制限される。
HDDに最も適した用途は、連続したデータを読み書きするタイプのシーケンシャルな処理だ。ビデオストリーミングやバックアップデータなど、さまざまな種類のシーケンシャルな処理がHDDに向いている。
一方で、データの読み書きがよりランダムな場合、単一のHDDでは処理が遅くなる傾向にある。ランダムアクセスが多い場合、大規模なシステムでは以下のような手法が一般的だ。
HDDには書き換え回数による劣化がほとんどないという重要な特性がある。この特性により、HDDはビデオデータや監視映像データの保存に最適であり、場合によっては唯一適したストレージ媒体であるとも言える。こうした用途では頻繁な上書きが発生するが、これはSSDでは対応が難しい。
読み書きのワークロードがシーケンシャルであればあるほど、HDDはより適しており、そのメディアからより高いパフォーマンスを引き出せる。
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