クラウド一辺倒に陰り? なぜオンプレミス回帰が起き「HCI」が注目されるのかインフラ戦略の新たな選択肢とは

クラウドサービスからオンプレミスインフラにシステムやデータを戻すオンプレミス回帰。その動きの背景にある問題と、オンプレミスインフラでなぜ「HCI」が有効な選択肢の一つになるのかを解説する。

2025年09月16日 05時00分 公開
[そらのすけ雨輝ITラボ(リーフレイン)]

 近年、クラウドサービスの導入を進める動きが広がる一方で、一部ではオンプレミスインフラにシステムやデータを戻す「オンプレミス回帰」の動きも見られるようになっている。特に欧米の企業を中心にオンプレミス回帰の例が挙がっている。

 クラウドサービスには、手軽に導入できることや、柔軟にリソースの拡縮ができるスケーラビリティ(拡張性)、運用管理の負担軽減といったさまざまなメリットがある。そうしたメリットを享受する中で、なぜ一部の企業はオンプレミスへの回帰を選択するのか。クラウドサービスの利用が拡大するにつれて、企業は幾つかの課題に直面することになった。

企業が抱えるクラウドの課題、オンプレミス回帰の背景

 クラウドサービスは従量課金制が基本であるため、利用コストが増大しやすい点に注意が必要だ。特にストレージ容量の拡大やデータ転送量の増加に伴い、利用期間の長期化と共に月額費用が膨らみ、TCO(総所有コスト)がオンプレミスインフラで運用する場合を上回るケースがある。

 クラウドサービスで運用するアプリケーションによっては、処理速度や応答時間への不満が発生するケースも散見される。クラウドサービスはネットワークを経由して利用することになるため、リアルタイム性が求められる処理には不向きな場合がある。

 以上のようなクラウドサービスならではの課題に加えて、セキュリティやガバナンスの観点からも、重要なデータを外部のインフラに預けることへの懸念が高まっている。

 こうしたクラウドサービスの課題が明らかになるとともに、オンプレミスインフラへとシステムやデータを回帰させる動きが注目を集めている。オンプレミス回帰への注目度の高まりは、クラウドサービスとオンプレミスインフラの最適なバランスを再考する機運が高まっている証左といえるだろう。

オンプレミス回帰によって注目される「HCI」とは

 クラウドサービスからオンプレミスインフラへの移行を計画する企業の現実的な選択肢の一つとなるのが、 「ハイパーコンバージドインフラ」(HCI)だ。HCIは、従来のオンプレミスインフラの課題を解決しつつ、クラウドサービスのような運用のしやすさを目指せるインフラだ。

 HCIは、サーバ、ストレージ、ネットワークを単一の筐体(きょうたい)に統合し、サーバ仮想化ソフトウェアとソフトウェア定義ストレージ(SDS)を活用することで、従来の3Tier(3層)型インフラと比べて、シンプルな構成のオンプレミスインフラを実現する。従来の3層型では、各コンポーネントを別々に構成管理する必要があり、ベンダー混在による非効率さも問題となっていた。一方、HCIではあらかじめ統合されたハードウェアとソフトウェアを使用するため、導入、拡張、運用が簡素化されるという利点がある。

 管理のインタフェースも統合されており、一元的なコンソールからサーバ、ストレージ、ネットワークといったインフラ全体の管理が可能だ。これにより、運用管理の手間が削減され、IT担当者の負担が軽減する。

HCIのメリット

 HCIがオンプレミス回帰の有力な選択肢として注目されるのは、その導入によって以下に示すようなメリットを享受できるためだ。

コストを抑制できる

 HCIはサーバ、ストレージ、ネットワークのインフラを統合することで、ハードウェアの台数や設置スペースを削減できる。その結果、電力使用量や冷却コストの抑制につながり、全体のTCOを大幅に低減することが可能だ。統合管理によって保守や運用にかかる人件費も抑えられる。

 初期費用こそかかるものの、その後は固定的な運用コストで済むため、利用期間の長期化でコストが増大する不安はない。これは継続利用ともに増大する可能性があるクラウドコストに対する利点となる。従来の3層型インフラと比べてもHCIの初期費用は安価になる傾向がある。

セキュリティ対策に専門知識を必要としない

 クラウドサービスではクラウドベンダーがインフラやそのセキュリティ対策を管理しており、データを完全に自社の管理下に置けないという点に懸念を抱く企業もある。特に、厳格なコンプライアンス(法令順守)要件や データ主権(データの制御や管理に関する権利)が求められる業界では、データを自社内で完全にコントロールできるオンプレミスインフラへのニーズは根強い。

 オンプレミスでHCIを使うことで、物理的にデータを自社の管理下に置けるようになる。これは3層型のインフラでも同様だが、3層型の場合は各コンポーネントに異なるセキュリティ対策が必要であり、専門的な知識と継続的な運用が不可欠だった。HCIは、統合された管理ツールから一元的にセキュリティポリシーを設定・適用できるため、各コンポーネントの専門知識がなくとも適切なセキュリティ対策を講じやすくなる。クラウドサービスにおける設定ミスやアクセス制御の複雑さに起因するセキュリティインシデントのリスクを低減しつつ、オンプレミスインフラならではの強固なセキュリティを、より少ない運用負荷で実現できる点がHCIの強みだ。

拡張性と可用性が高い

 クラウドサービスは必要な時に必要なだけリソースを増減できる点が魅力だが、HCIにもそれに近しい特性がある。ビジネスの成長やニーズの変化に合わせて、必要な時にノード(サーバ)を追加するだけで、コンピューティングリソースとストレージリソースを拡張できる。

 加えて、HCIは複数のノードが連携して動作する構成であるため、単一障害点のリスクを低減できる。ノードの一部に障害が発生した場合でも、他のノードがその処理を引き継ぐことで、システムの停止を防ぎ、業務継続性を確保できる。これは、クラウドベンダーの障害対応に依存せず、自社でシステムの可用性をコントロールしたい企業にとって重要なメリットだ。

管理がしやすい

 クラウドサービスはWebインタフェースを通じて手軽にリソースを管理できる点が評価されているが、HCIもそれに近い直感的な管理体験を提供する。HCIは、サーバ、ストレージ、ネットワークを単一の管理ツールから操作できる。複雑な設定やトラブルシューティングから解放され、担当者は企業のIT部門としてより中核の業務に集中できるようになる。パッチ(修正プログラム)適用やバージョンアップも、統合された管理ツールを通じて効率的に実施できる。

オンプレミス回帰とHCIの導入に注目

 クラウドサービスの利便性は疑う余地がない一方で、その利用が拡大するにつれて、コストの肥大化、セキュリティとコンプライアンスの課題などの問題が顕在化してきた。クラウドサービスとオンプレミスインフラは、もはやどちらか一方を選ぶという二元論ではなく、それぞれの特性を理解し、アプリケーションやビジネス要件に応じて最適な配置を検討する「ハイブリッド」の時代へと移行している。オンプレミスにおいてクラウドサービスの良さを取り入れられるHCIは、今後のインフラ戦略における欠かせない選択肢の一つだといえる。

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