開発者から支持を集めるも、普及度は主要言語に及んでいない「Rust」。しかしGoogleやMicrosoftなどのIT企業は、すでに重要システムへの導入を進めている。慣れ親しんだ「C」「C++」ではなくRustを選んだ決定打は。
開発者向けQ&Aサイト「Stack Overflow」の年次開発者調査「2025 Stack Overflow Developer Survey」(注)で、プログラミング言語「Rust」は「最も称賛された言語」の座に輝いた。実際の利用率では「JavaScript」「Python」といった定番の言語に後れを取り、14位となっているにもかかわらず、なぜこれほどまでに開発者に好まれているのか。
※注:調査は2025年5〜6月に約4万9000人の開発者を対象として実施された。ここでの「称賛された」(admired)とは、現在その言語を使用している開発者が、将来も使い続けたいと希望していることを意味する。
なぜ現場の開発者はこれほどRustを支持し、MicrosoftやGoogleといった巨大企業が、既存の膨大な資産を抱えながらもRustへの移行を急いでいるのか。その背景には、レガシーな言語では防ぎ切れない脆弱(ぜいじゃく)性と、Rustがもたらす「システム開発における3つの決定的なアドバンテージ」がある。それは日々の開発効率だけでなく、企業の長期的なセキュリティ戦略も左右する要素だ。
Rustには、システム開発に適した以下の3つの要素がある。
Rustは、安全性、速度、並行性を重視して設計されたモダンなプログラミング言語だ。2010年にMozillaによって開発されて以来、特に「失敗が許されないシステム」で価値が認められてきた。
安定性とパフォーマンスが求められる低レベル言語(ハードウェアに近い層を扱う言語)での開発において、Rustは有力な選択肢だ。システムの陳腐化を防ぎ、技術戦略上の優位性を確立する鍵になるからだ。一般的な用例としては以下がある。
OS「Linux」の開発プロジェクトやMicrosoftを含め、複数の開発チームがRustを導入し、成功を収めている。最近の採用例を以下に挙げる。
Linuxカーネル(OSの中核機能)の開発者は、メモリ関連のバグを減らすため、2021年にカーネルモジュールやドライバの開発にRustを導入する準備を始めた。処理速度が重要なOSであるLinuxにおいて、主要コンポーネントの一部がRustで実装されている事実は、Rustの重要性を示している。
Microsoftも、基幹ソフトウェアにおけるメモリの脆弱性を減らすためにRustを使用している。Microsoftのクラウドサービス群「Microsoft Azure」のプロジェクト、ファームウェア、ハイパーバイザー「Hyper-V」などの低レベルプログラミングで、従来のC++による開発からの移行が進行中だ。RustはMicrosoftのシステム開発環境の中核を担っている。Windowsの著名な専門家であるマーク・ルシノビッチ氏は、「新規プロジェクトではC++を使用せず、Rustで開発すべきだ」と公言した。
チャットツールの「Discord」は、その高いパフォーマンスと並行処理能力を活用するため、従来の言語で記述された一部のソースコードをRustに置き換えた。
GoogleのモバイルOS「Android」の開発チームは、Rustを採用した結果、バグの発生数が減少し、開発サイクルの効率が向上したことを報告している。
他のプログラミング言語と同様、Rustのメリットはプロジェクトの特性によって異なる。OSやドライバのような低レベルプログラミングのシナリオに最適であり、こうした領域で活動する企業に技術的および戦略的な利点をもたらす。
すでにRustは十分に成熟したプログラミング言語であり、技術的な優位性は広く認知され、ツールや学習リソースも充実している。開発者は以下のメリットにRustの価値を見いだすはずだ。
Rustはガベージコレクション(メモリの自動解放機能)を使うことなく、アプリケーションの安全性を確保できる。これによって、従来のシステムプログラミング言語で頻発するコンパイル時のバグを排除し、実行時エラーの減少とダウンタイム(システムの停止時間)の短縮につながる。
Rustで記述されたソースコードは、CPUが直接実行できる「ネイティブマシンコード」にコンパイルされるため、Pythonなどのインタープリタ型言語(実行前にソースコードをコンパイルしない言語)よりも優れた最適化と実行速度を実現する。この性能は、OS、ドライバ、ゲームなどの高負荷プロジェクトにとって不可欠であり、高価なクラウドコンピューティングリソースの節約にも役立つ。
Rustはコンパイル時に並行処理の問題を検出、警告する。開発者はテスト前に問題を修正できるため、手戻りが減り、開発時間を短縮できる。
強力な型システムによって、効率的なAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)開発が可能になり、実行時のエラー削減に貢献する。これはRustの処理性能と安全性能をさらに強化する。
Rustは、多忙な開発チームの生産性を支える便利なツールを提供している。例として以下が挙げられる。
これらのツールは品質に定評があり、開発に伴う手間やストレスを軽減する。開発環境としては、JetBrainsが開発したRust専用IDE(統合開発環境)「RustRover」や、MicrosoftのIDE「Visual Studio Code」と拡張機能「rust-analyzer」の組み合わせが一般的だ。
Rustを支えるコミュニティーは小規模ながらも強力だ。主な支援団体である「The Rust Foundation」には、Amazon Web Services(AWS)やGoogle、Microsoft、Meta Platformsなどの大手ITベンダーが参加している。これはRustが長期的かつ安定的な投資対象であることを保証するものだ。
次回は、Rustを導入すべきかどうかを判断するポイントを解説する。
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