Windowsカーネルにプログラミング言語Rustが導入された。Rustが選ばれた背景を解説するとともに、IT担当者の業務にどのような影響があるのかを探る。
2015年にバージョン1.0が登場したオープンソースのプログラミング言語「Rust」は、OS、ゲーム、ファイルシステム、VR(仮想現実)エンジンなど幅広いソフトウェア開発に採用されている。2023年には、MicrosoftがOS「Windows」のカーネルにRustを導入したことを発表した。本稿は、WindowsのカーネルにRustが採用された理由と、それがIT担当者の業務に与える影響について解説する。
カーネルは長らく「C」および「C++」で記述されてきた。しかし近年、Microsoftはあらゆるハードウェアやプラットフォームにまたがる開発体制を推進し、その一環でRustの導入に至った。
Microsoftは2023年4月にこの変更を発表し、同年5月の「Windows 11 Insider Preview」アップデートで初めてRustによるソースコードを導入した。以降、全ての更新プログラムにRustのソースコードが含まれている。
Rustは、Windowsが長年抱えてきたカーネルの課題に対する直接的な改善策を提供する。具体的には以下のようなメリットが挙げられる。
Rustの最大の特徴の一つは、「メモリ安全性」を重視した設計だ。Windowsは長年にわたり、Null参照、バッファオーバーフロー(一時記憶領域があふれてプログラムの不具合が起きること)、不正なメモリアクセスなど、メモリ関連のエラーに悩まされてきた。Rustは、こうしたエラーを言語レベルで未然に防ぐ仕組みを備えており、システムのクラッシュやセキュリティ侵害、アプリケーションエラーのリスクを軽減できる。
Rustはコンパイル(ソースコードを実行可能ファイルに変換する作業)時にメモリ安全性のチェックを実施することで、プログラム実行前にエラーを検出できる。これはCやC++よりも高い信頼性につながる。特にシステムの中核を担うカーネルにおいてトラブルを未然に防ぐことは、システム全体の安定性を向上させる上で重要だ。
現代のソフトウェアにおいて、複数の処理(スレッド)を並行処理するマルチスレッド処理が不可欠だが、スレッド同士の競合やデッドロック(処理が進まなくなる状態)といった問題が付き物だ。
Rustはプログラムの設計段階で、並行処理におけるエラーを回避する。これにより、高い処理速度を実現しつつ、OSやアプリケーションの障害リスクを大幅に減らすことができる。
Rustを採用しているのはMicrosoftだけではない。Amazon.com、Meta Platforms、Dropbox、Mozilla、Cloudflare、Coursera、Discordなどの主要IT企業もRustの採用を進めている。つまり、MicrosoftがRustを選んだのはリスクの高い先行投資ではなく、既に業界で実績がある堅実な選択だと言える。
WindowsのカーネルがRustで書き換えられると聞いて、不安を感じるIT担当者も少なくないだろう。いつから実装されるのか。セキュリティ上の問題はないのか。どう備えればよいのか。自分の仕事は楽になるのか、それとも大変になるのか――こうした疑問が浮かぶはずだ。
結論から言えば、こうした懸念に対して過度に心配する必要はない。Rustは既に「Windows 11」に実装されており、安全性や互換性に関して問題は確認されていない。IT担当者が特別な準備をしたり、操作を大きく変えたりする必要は基本的にない。
Windowsカーネルの全てがRustに置き換えられるわけではないが、今後も重要な部分から段階的にRustに置き換えられる計画で、これにより性能およびセキュリティの両面で改善が期待されている。
「Linux」のカーネルがバージョン「6.1」以降Rust移行に踏み切ったのと同様、新たに追加されるカーネルはRustベースでの開発が進む可能性が高い。カーネル周辺の開発に関わる担当者にとって、Rustの知識が今後ますます重要になるだろう。
Microsoftは今後もRustの採用範囲を広げながら、セキュリティ強化、メモリ安全性の向上、全体的な性能改善を目指していく。この動きは、システム全体の信頼性を高め、ITインフラの運用負荷を軽減することで、管理者にとっても大きな恩恵となるはずだ。
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