市場の乱高下がIT予算に与える影響【後編】
暗号資産やレアアース市場に振り回されない 危機に強いIT調達の“新常識”
予測不能な現代の市場において、正確なIT予算を弾き出すことは困難だ。価格の乱高下を織り込んだ対策を取るために、倒産リスクを抱えるベンダーを見極め、経営層と連携して危機を乗り切るためのアプローチとは。
レアアースや工業用金属、暗号資産など、ハードウェアの供給網を支える市場の価格変動がかつてないほど激しさを増している。従来の「予測可能なセオリー」に基づいたIT予算の策定はもはや通用しない。調達コストの高騰やベンダーの倒産リスクが現実味を帯びる中、IT部門のリーダーであるCIO(最高情報責任者)は、ただ市場が落ち着くのを受動的に待つわけにはいかない。財務部門からのシビアな要求と供給制約の板挟みになりながらも、自社のシステムを守り抜く必要がある。
本稿は、予測不能な市場において、破綻しない予算計画と供給網を構築するために、CIOがいま直視し、実行に移すべき具体的なアクションを解説する。
CIOが取るべき4つの行動
併せて読みたいお薦め記事
連載:市場の乱高下がIT予算に与える影響
価格の変動にどう対処するか
2026年の価格変動の度合いを完全に予測することは難しいが、CIOはただ受動的に構える以上の対策を打つことができる。目の前の状況を乗り切るためには、今すぐ打つべき足元の対策、継続的なリスクの監視、中長期的な調達戦略の見直しといった、多角的なアプローチを並行して進めなければならない。
今すぐすべき対策
CIOが直ちに実行すべきこととしては、以下の項目がある。
- サプライチェーンに潜むリスクと価格変動リスクの把握
- どのカテゴリーのハードウェアがレアアースを最も多く使用しているか、素材の価格高騰に耐えられない(利益率が低い)ベンダーはどこかを特定する。
- ベンダーの「財務体力」の評価
- 商品価格の変動がさらに半年続いた場合、どのベンダーが資金繰りの危機に陥るかを評価する。
- 自社システムに潜む「暗号資産リスク」の洗い出しと文書化
- 導入しているサードパーティーサービスが、暗号資産市場の動向からどのような影響を受けるかを整理し、リスクの相関図を作成する。
- 価格変動条項を設けた調達契約の再交渉
- 注文を確定する前に、価格調整の仕組み、代替の調達手段となる権利、部品の代替承認を契約に組み込む。
継続的に注視すべき動向
目下の対策に加え、CIOは以下の項目を追跡し続ける必要がある。
- 中国政府のレアアース輸出政策の変更
- 中国のレアアース輸出に関する決定は、数週間のうちに世界の供給体制を塗り替える恐れがある。
- ベンダーのM&A(合併、買収)と破産申請
- 商品価格の変動が利益率を圧迫すると、業界再編が加速する。
- 暗号資産の流動性に影響を与える、米連邦準備制度理事会(FRB)などの中央銀行の政策転換
- 金利引き下げは、暗号資産に関連するサービス事業者を介して連鎖的な倒産を引き起こす可能性がある。
- AI(人工知能)およびEV(電気自動車)分野の需要予測
- これらの分野の成長が鈍化すれば、調達部門の想定よりも早くレアアースの供給不足が解消される可能性がある。
取締役会に報告すべきリスク
CIOの重要な役割は、リスクを理解して管理することだ。以下の事項については、取締役会への報告を検討する。
- 安定した価格を前提とした調達戦略のリスク
- 現在の契約は、商品費用が予測可能であることを前提としている可能性が高い。その前提はもはや成り立たない。
- ベンダーが収益の柱としている不安定な収益源の未把握
- 暗号資産のリスクを抱えるサービス事業者は、経営問題が表面化するまでそれを開示しない可能性がある。
- 単一部品の費用予測のみに基づいた資本計画による錯覚
- 「一部の部品が安くなったから全体の予算も浮く」と単純計算すると、別の部品の高騰を見落とし、予算額を見誤る錯覚に陥る。
次の一手として狙うべき戦略的機会
リスクが存在する一方で、積極的な行動を取ることで見いだせるビジネス上の機会もある。
- ベンダーが確実な買い手を必要としている間に、戦略的パートナーシップを確立する
- 先行き不安に直面しているサプライヤーは、大量購入の確約に対してより良い条件で交渉に応じてくれる見込みがある。
- サプライチェーンが集中している部品を備蓄する
- 重要な予備部品は、価格が高騰する前に手に入らなくなる恐れがある。
- 新技術への予算をレジリエンスの強化に振り向ける
- 市場が荒れることで、どのIT投資が「好景気」を前提としたものであり、逆にどの技術が現場に「不可欠な価値」をもたらしているのかが浮き彫りになる。
サプライチェーンリスク管理ツールベンダーAPEX AnalytixのCIOを務めるビシャル・グローバー氏は、次のように主張する。「目標は完璧な予測を立てることではなく、価格が変動することを前提とした『変化に強い資金計画』を練り上げることだ。そのために、どこに予備費を積み、どこに代替の調達先を確保しておくべきかを見極める必要がある」
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
TechTarget発 先取りITトレンド
米国TechTargetの豊富な記事の中から、最新技術解説や注目分野の製品比較、海外企業のIT製品導入事例などを厳選してお届けします。
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
SNS認証や多要素認証も数分で実装、IDaaS基盤でデジタルビジネスはどう変わる? -
製品レビュー
「電子帳簿保存法対応」実践術:タイムスタンプ付与などの要件の手軽な実現方法 -
事例
「大企業のデジタル化」成功事例集【コクヨ、九州電力、ヨネックスなど21社】 -
製品資料
“顧客管理の課題”を簡単に解決する方法とは? -
製品資料
契約管理の“あるある課題”をノーコード開発で解決するためのポイント
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
-
2
Oracle巨大ITプロジェクトはなぜつまずいたのか 8年で導入1割、追加で170億ドル
-
3
Microsoft製品でここまで自動化できる 情シスがやめられる手作業10選
-
4
「技術屋」で終わらないために 情シスが今取るべき認定資格5選
-
5
Synologyがエンタープライズ向けユニファイドストレージを投入 その実力は
-
6
脱VMwareの最適解 NTTデータと日立製作所が示す国産仮想化基盤
-
7
継続利用は4割どまり M365 Copilotが「効く業務」と期待外れの境界
-
8
「VMwareのコスト」に悩んでいるユーザー企業に送る、VMwareを残す・捨てる基準
-
9
自宅のWi-Fiが「遅い」「途切れる」本当の原因は? Dellが推奨する鉄則
-
10
IBM iのブラックボックス化を打破 資産継承と進化を実現する「IBM Bob」の実力
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
AIエージェントで多様な日常業務を効率化するための入門ガイド
-
2
AIが「わざわざ使うツール」になっていない? 業務で自然に使う導線にする秘訣
-
3
JR西日本ITソリューションズが「監視業務の属人化」を解消した方法とは?
-
4
5回聞くだけじゃ足りない? トヨタ式「なぜなぜ分析」の正しい実践方法
-
5
「脱Excel」か「Excel快適化」か? 現場にやさしい業務改善の進め方
-
6
インシデント対応工数を約3割削減、東京ガスの事例に学ぶ監視体制刷新のコツ
-
7
「結局、一部の人しか使わない」 AI活用が業務に定着しない根本的な理由
-
8
AIエージェントで成果は出る? 調査結果に見る費用対効果の実態
-
9
PostgreSQLの「機能」「性能」「運用」「拡張性」に関する悩みの解消法
-
10
ゼロトラストにおける「IDaaSの課題」と補完すべき重要機能とは?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー