「情シスとしてやらないこと」を決め、自分の判断を正解にする DeNA IT本部本部長 金子氏に聞く情シスキャリアをアップデートする【第3回】

DeNA IT本部で本部長を務める金子俊一氏は、従業員2500人以上の組織でシャドーITを排除する体制を構築した。さらに、全社AI戦略をけん引する立場にある。行動の判断軸は何か。

2026年03月19日 05時00分 公開
[成澤綾子TechTargetジャパン]

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 従業員数2500人以上。ITを中心に大規模かつ多角的な事業を展開する組織でありながら、“シャドーIT”がほぼ存在しない状態を実現しているディー・エヌ・エー(以下、DeNA)。それを可能にしたのが、同社IT本部で本部長を務める金子俊一氏だ。

金子氏 DeNAの金子氏

 金子氏は「やらないことを決める」ことによって、300人以上もの組織を統括し、変革を推進してきた。その根幹にあるのは「選択を正解にしていく」というリーダーとしての確固たる決意だ。成果につなげるためのマネジメント指針、情報システム部門(以下、情シス)が身に付けるべき経営層との“共通言語”など、金子氏が“組織を動かす情シス”になるために不可欠な要素を明かす。

スピードと戦術で社内価値を拡大

 従業員の増加で組織や事業規模が拡大し、各部門が個別最適を追求した結果、情シス担当者が社内のデバイスやシステムを把握しきれなくなるケースは珍しくない。いわゆる“シャドーIT”が発生しやすい状況だ。このような状況では、情報漏えいやセキュリティコストの増大が情シスの課題として挙がりがちだ。

 しかし、日本有数のメガベンチャーであるDeNAにおいて、シャドーITは「びっくりするほどない」と金子氏は語る。同氏が情シス、インフラチームなどを統括する立場に就任したのは2020年。IT資産を管理する独自のシステムを構築し、調達機能をIT部門に集約して予算管理やオペレーションを一手に担うことで、約1年で現在の水準を実現し、維持し続けている。このスピード感と安定性は、金子氏がインフラ領域で成功した手法を応用し、ライフサイクル管理の構築を最優先したことで可能となった。

写真 DeNA IT本部の組織図

 情シスは企業に欠かせない存在だが、その成果は見えにくい。しかし金子氏のように、業務の優先度を見極め、経営層と従業員の両方が変化を実感できる改革を進めれば、IT部門の価値を明確に示すことができる。

やらないことを決める決断力、正解にする覚悟

 7部門で構成されるIT本部のマネジメントにおいて、金子氏は「何をやらないか」を最も重視しているという。

 「管掌範囲が増えるほど、優先順位を付けなくてはいけないことも増えていきます。限られた経営資源の中で最大限のリターンを得るために、『やらないことだけ決める』という考え方を基本としています」(金子氏)

 経営にも現場にも寄り過ぎないフラットな視点で数字を把握し、必要なリソースを試算した上で、見込まれるリターンが大きいものから優先的に着手する。「やらないことを決めると、やることはおのずと決まります」(金子氏)

 従業員の思いが詰まった提案の場合、「いずれリソースにゆとりができたら」と提案リストにストックしてしまう場合がある。しかし、金子氏は明確なロジックと意志を持って「やらない」と決断し、リストから除外する。しかし、部門内はもちろん社内から反発の声は上がらないという。「基本的にロジックで動く会社なのが功を奏しています」(金子氏)

 施策を推進する際にも、金子氏は「AにもBにも対応できるように」といった曖昧な指示はしない。判断の責任をメンバーに転嫁することになるからだ。

 「マネジメントをする立場の人間には、『自分の選択を正解にする』という強い覚悟が必要だと考えています。未来を100%言い当てることが不可能である以上、ロジックで選んだ道が正解になるよう100%の力を注ぐしかありません」(金子氏)

 選択を正解にするために尽力しながらも、週次から月次に開催されるステアリングコミッティ(運営委員会)と予算管理で数字を確認し、想定と異なる事態に陥った場合には潔く別の手段を探る。IT組織のトップとして活躍するには、ロジックに基づく決断力と責任を恐れない強さ、変化に対応する柔軟さが必要だ。

AI戦略をけん引する全社横断IT組織のケイパビリティー

 人工知能(AI)の登場と急速な普及は、IT業界に根本的な変革をもたらした。今やAIの活用レベルの差が、企業間格差になりかねない状況だ。情シスなど社内ITを担う部門にとっては、AI導入や活用を推進することで新たなスキルを身に付け、革新的な価値を生み出すチャンスだ。

 DeNAは「AIオールイン」を掲げ、全従業員がAIを使いこなす“AIネイティブ化”によって、生産性の向上、既存事業の競争力強化、AIを核とした新規事業の創出を目指している。そこで、旗振り役として白羽の矢が立ったのが、金子氏が率いるIT本部だ。

 「AIの活用戦略と新規事業の開発は経営課題として継続的に議論してきました。AIオールインを掲げるタイミングで執行体制を明確にするに当たり、社内システムやインフラ、セキュリティまで管掌範囲を広く持ち、全体を俯瞰して推進できる私が任命されました」(金子氏)

 全社を挙げての大規模な取り組みにおいて、IT本部が特に注力しているのが、生産性の向上だ。「業務量を半分に、生産性を倍に」という目標のもと、あらゆる業務の効率化に取り組み、全社横断でケイパビリティを提供する組織として、AI戦略をけん引している。

経営視点と共通言語でキャリアの壁を突破する

 情シスや社内ITの担当者の中には、エンジニアのバックグラウンドを持つ人もいる。そのような立場の人が経営層に技術的な相談をされた場合、「どの程度技術について詳しく話していいのだろうか」と悩む場合がある。

 「自分たちの取り組みが企業の利益やコストにどう関連するか、経営層に俯瞰的かつ具体的に説明できなければ、成果が出ても評価されにくい。エンジニアほど技術に詳しくない経営層が理解しやすいように『コスト・利益・期間』といった共有しやすいトピックに寄せて成果を伝える努力は不可欠です」(金子氏)

 「取り組み前と取り組み後のバグの減少数」「機能を維持したまま削減できたサービスの利用料」「システム改善による開発スピードの短縮」など、成果を数字で表し、経営層に評価されることが、組織内での信頼と影響力に影響する。

 その企業が売り上げ重視のフェーズか、成長やスピード重視のフェーズかなど、経営状況によって評価される成果は変化する。技術的に優れたシステムをつくるだけでなく、収支の動向にもアンテナを張ることが、経営層からの信頼に直結する。

 元エンジニアなら技術を、経理出身なら数字の強さを。自分の過去の経験をてこに課題を解決し、経営視点で語る能力が、情シスという枠を飛び越え、キャリアの壁を突破する鍵となる。

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