高速で壊れない「SAN」がいつも正解とは限らない? 裏目に出る企業の条件メリットと致命的な欠点

SAN(ストレージエリアネットワーク)の長所には、処理の速さ、拡張性、耐障害性などが挙げられるが、当然ながら欠点も存在する。特に中小規模の企業にとっては、導入費用と仕組みの複雑さが大きな懸念事項になる。

2026年06月23日 05時00分 公開
[Damon GarnTechTarget]

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 企業向けの大規模なデータ管理において、SAN(ストレージエリアネットワーク)は重要な役割を担ってきた。圧倒的な処理の速さ、シームレスな拡張性、耐障害性など、SANがもたらす恩恵は計り知れない。

 しかし、これほど優れた技術であっても、導入すれば全てが解決する「魔法のつえ」ではないのが現実だ。当然ながら重大な欠点も存在する。「他社が使っているから」「性能が良いから」という理由だけで導入に踏み切ると、自社の要件に合わず、無駄なIT投資に終わる危険性さえある。

 SANはあらゆる企業にとって常に最適な選択肢とは限らない。本稿は、SANの強力なメリットと企業が直面しやすい致命的なデメリット、自社に本当に適しているかどうかを見極めるための具体的な判断基準を解説する。

SANの主なメリット

 主なメリットは以下の通りだ。

  • 処理が速い
  • 拡張が容易
  • 耐障害性を備える
  • 物理ドライブを有効活用できる

 SANを利用する最大のメリットの一つは、NAS(ネットワーク接続ストレージ)といった競合技術を上回る性能を発揮する点にある。NASはネットワークベースのストレージ機器であり、データのやりとりには一般的なLANを経由する。通常、NASは安価に構築でき、物理ドライブ1台だけで稼働するものもあるほど構成がシンプルだ。ただしネットワーク帯域幅の制限を受けやすいため、通信が遅くなる傾向がある。それでも、小規模なシステム構成においては、ファイルサーバや汎用(はんよう)的なデータ保管庫としてよく選ばれており、バックアップ用途でNASを活用する企業も少なくない。ただし近年は、スケールアウト型アーキテクチャやストレージインタフェース規格「NVMe」(Non-Volatile Memory Express)の採用によって、高いスループットと低遅延を実現するものも登場している。

 これに対してSANは、企業向けストレージのために設計された専用ネットワークだ。データをLAN経由で送るのではなく、高速転送するための専用のファイバーチャネル接続を利用することが一般的だ。既存のイーサネットを活用できる「iSCSI」(Internet Small Computer Systems Interface)や、フラッシュストレージの性能を最大化する「NVMe-oF」(NVMe over Fabrics)といったインタフェース規格も登場している。サーバはSAN内のストレージ機器に対して、ブロックレベルで直接データにアクセスする。その結果、NASなどの類似技術ではかなわないほどの処理性能を引き出すことができる。

 SANは容易に拡張できるように設計されているのも特徴だ。スイッチや物理ドライブを追加するだけで、容量を増やすことができる。ただし、全社規模のストレージとして使えるように拡張性を確保しようとすると、多額の費用負担が発生する可能性には注意したい。

 物理ストレージの無駄を省き、効率的に利用できる点も大きなメリットだ。サーバに直接HDDをつなぐDAS(直接接続型ストレージ)を考えてみよう。各サーバは独自のドライブを持ち、そこは個別のファイルシステムで管理されている。1つのサーバが将来どれだけの容量を必要とするかを正確に見積もることはほぼ不可能であるため、大半のケースで割り当てた容量の一部が使われずに無駄になってしまう。逆にSANは、全体のストレージ容量を1つの「プール」として扱い、要求に応じて必要な分だけ割り当てる仕組みを持つ。これによって、確保した空き容量が使われないまま放置される事態を防ぐことができる。

 総じてSANは、高い性能が継続して求められ、一瞬の停止も許されないミッションクリティカルなシステムでの運用を想定して作られている。そのため、通常は多層的な冗長性を備えている。例えば経路上の1つのスイッチが故障しても、通信は自動的に別の正常なスイッチに迂回(うかい)されるため、システム全体のダウンを回避できる。

SANのデメリット

 高性能を誇る半面、SANには主に2つのデメリットが存在する。1つ目は、非常に高額であることだ。冗長性と高性能を兼ね備えたハードウェアは、その構造上どうしても単価が跳ね上がる。さらに費用を押し上げているのは初期投資だけではない。運用を開始してからの継続的な保守費や管理費も計算に入れておく必要がある。

 2つ目は、システム構成の複雑さだ。SANの構築、管理、保守には、高度な専門知識が必要になる。そのためSANを導入する企業は、社内のIT担当者に特別なトレーニングを受講させるか、専任のストレージ管理者を新たに雇用するなどの対策を迫られる。

 費用と複雑さに関する具体的な課題は以下の通りだ。

  • 高額な初期費用(設備投資)がかかる
  • 容量の拡張に伴って追加費用が発生する
  • 構成が複雑なため、初期設定やトラブルシューティングが難航しやすい
  • 導入や保守を担う優秀な専門人材を確保するための人件費がかかる
  • 構成ミスによって単一障害点が生まれるリスクがある
  • 特定の独自ハードウェアや通信規格に縛られるベンダーロックインの危険性がある

 大半の企業において、堅牢(けんろう)なSANがもたらす恩恵はこれらの懸念事項を十分に上回る。しかし、長期的な運用体制の維持やトラブルシューティングの難しさは、導入前に把握しておくべきだ。将来的な拡張を見据えた予算確保も極めて現実的な課題になる。

導入を決定するための指針

 一元化された超高速なストレージと可用性を実現するとはいえ、SANが常に正解とは限らない。まずは自社の事業上の目標を明確にし、解決すべき実際の課題を特定することから始めよう。次の問いを立てると状況を整理しやすい。

  • 自社のミッションクリティカルなアプリケーションは、遅延の許されないストレージアクセスに依存しているか
  • システムの停止は、財務上あるいは運用上、絶対に避けなければならないものか
  • 急速な事業成長に伴い、必要なストレージ容量が爆発的に増える見込みはあるか
  • 個人情報保護法や各種業界ガイドラインなど、厳格なデータ保管の規則がインフラ選定の要因になっているか
  • 企業として、データの保管場所を強力に一元管理するガバナンス体制を敷く必要があるか

 以下の条件を満たす場合、SANは有効な選択肢となる。

  • 大規模なデータベース、仮想化システム、決済などのトランザクション処理を稼働させる場合
  • 24時間365日の無停止稼働を実現する場合
  • 大規模な仮想化クラスタを管理する場合
  • 高い可用性と災害復旧(DR)を必要とする場合

 一方で、以下の基準に当てはまる場合は、導入を見送るのが賢明な可能性がある。

  • 処理負担が軽く、特定の部門内だけで完結する小規模なシステムである場合
  • 主な目的が社内でのファイル共有である場合
  • クラウドネイティブなアプリケーションが大半を占める場合
  • 予算(初期の設備投資や月々の運用費)に厳しい制限がある場合

一般的な用途

 データベースのホスティングは、代表的なSANの用途の一つだ。ほとんどのミッションクリティカルなアプリケーションは、裏側で動くデータベースに依存している。高速なストレージネットワークは、データベースが求める水準の処理能力を安定して供給し、同時に内部の重要なデータを保護する役割を果たす。

 仮想マシン(VM)のシステム構成においても、SANは広く利用されている。そもそもサーバの仮想化は「物理サーバは大抵の場合処理能力を持て余しているため、複数の仮想的なサーバでコンピューティングリソースを共有すれば機器の購入費を削減できる」という考え方に基づいている。しかしその裏を返せば、VM同士が限られた処理能力を奪い合うことになり、放置すれば大本の物理サーバ(ホスト)がパンクしてしまう。この競合はストレージの処理回数(IOPS)に顕著に表れる。IOPSの上限が、1台のホストに収容できるVMの最大数を決定づけてしまうからだ。

 ここでSANを導入し、ストレージの負荷をローカルの機器から外部の専用ネットワークに逃がすことで、ホストに同居できるVMを増やすことができる。多層的な耐障害性を備えたストレージ網を利用することで、VM自体が障害から素早く立ち直る力も向上する。

 SANは仮想デスクトップインフラ(VDI)を運用する企業にとっても恩恵がある。VDIの仕組みは仮想サーバに似ているが、稼働させるのはサーバ用OSではなく「Windows 11」などのデスクトップ用OSだ。大規模なVDIでは、数百から数千もの仮想デスクトップが同時に動くことがある。企業の成長や人員増加に合わせて仮想デスクトップを滞りなく追加できるSANは、VDIにとって理想的なストレージシステムだと言える。

SANを使わない理由

 さまざまな長所がある一方で、あえてSANの採用を見送るべき明確な状況も存在する。まず、機器の購入や構築、日々の保守に充てる予算が不足している企業にとって、SANは身の丈に合わない選択だ。導入するだけの資金的余裕があったとしても、その出費がIT予算全体に与える影響を精査しなければならない。もし、自社にとって優先順位が高く、多額の資金を投じるべきITプロジェクトが他にあるならば、ストレージの刷新は見送るべきだ。

 オンプレミスシステムとクラウドサービスを組み合わせたハイブリッドクラウドや、「原則としてクラウドサービスの利用を優先する」というクラウドファースト戦略を推進している企業にとっても、物理的な大規模ストレージの導入は方針にそぐわない。近年では、サーバとストレージを一体化したハイパーコンバージドインフラ(HCI)や、クラウドストレージサービスといった代替手段が台頭している。これらは管理の手間が少なく、シンプルな運用を可能にする。アプリケーションを軽量なコンテナとして動かしたり、システムが状態を保持しない(ステートレス)設計を採用したりしている先進的な開発プロジェクトも、SANの恩恵を受ける可能性は極めて低い。

 自社のインフラがそもそも高度なストレージネットワークを必要としていないケースも不向きだ。社内で数台のサーバしか稼働していない規模であれば、高価な専用ネットワークを構築する意義は薄い。

 システムを適切に運用できるだけのIT人材が不足している場合も、あえて複雑な構成を持ち込むことは避けるべきだ。専用ネットワークの運用管理には相応の専門知識が要求される。自社にそうしたノウハウがないのであれば、NASやクラウドなど、身の丈に合った別のストレージ手段を選ぶ方がはるかに賢明だ。

 ストレージ製品の選定に限らず、優れたITの意思決定が「技術的な優劣」だけで決まることはめったにない。最終的には、以下の要素のバランスを総合的に判断することが求められる。

  • システムに求める性能
  • 許容できる障害リスク
  • 導入費用および運用にかかる手間
  • 企業としての運用の習熟度
  • 企業が描く長期的なビジネス戦略

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