開発環境の準備に潜む“時間泥棒”
「調達半年、設定に丸1日」のPC準備 トヨタはAWSでどう脱却した?
エンジニアを迎えるたびに発生するPC調達と環境構築の泥沼。PC調達に半年、初期設定に丸1日を費やしていたトヨタ自動車は、この苦境をある手法で脱却した。どのようにしてトラブルを解消したのか。
ソフトウェア開発の内製化や高度化に伴い、エンジニア人材の採用・育成はますます重要になっている。そこでIT部門や現場の受け入れ部門を悩ませるのが「開発環境の準備」だ。
トヨタ自動車のパワートレーン電子開発部は、数百人規模のエンジニアを対象とした「ソフトウェアブートキャンプ」の運営において、同様の壁に直面していた。従来、研修参加者は初日に各自のPCに20種類以上の開発ツールを個別にインストールする必要があり、環境構築だけで丸1日を費やしていたという。
さらに深刻だったのは、数百台に及ぶPCの機種や性能、導入時期がばらばらだったことだ。その結果、「手順書通りに設定しても正常に動作しない」というトラブルが頻発した。インストラクターはカリキュラムの進行を止め、個別のトラブルシューティングや調整に忙殺され、本来の教育業務が阻害される“時間泥棒”の被害に遭っていた。研修要件を満たす高性能PCの調達自体に約6カ月を要することも、運用上の大きな足かせになっていた。
この「環境構築の泥沼」から脱却するため、トヨタ自動車は個別PCへの依存を捨て、受講者全員が同一の環境ですぐに学習を開始できるデスクトップサービス(DaaS)の構築へと踏み切った。
手順書通りでも動かない「環境依存トラブル」をどう断ち切るか
併せて読みたいお薦め記事
DaaSのメリット
トヨタ自動車は、「Amazon Web Services」(AWS)を活用し、ソフトウェアエンジニア向けのクラウド型統合開発環境を構築した。2026年6月17日、AWS社が発表した。研修参加者が即座に利用できる標準化されたシステム構成を整備したことで、従来は丸1日を要していたセットアップ作業を不要にした。今後は実開発業務への展開も進め、オンボードの迅速化と開発生産性の向上を両立させる。
トヨタ自動車は近年、車両の高機能化や高度化に伴い、制御ソフトウェア開発を担うエンジニア人材の育成を強化している。同社のパワートレーン電子開発部は、開発環境の整備と併せてソフトウェアブートキャンプと呼ばれるエンジニア研修の運営を支援してきた。ところが参加者の増加に伴い、トレーニング用システムを安定して提供するための運用負荷削減が急務になっていた。
従来、研修参加者は初日に各自のPCに20種類以上のツールを個別にインストールする必要があり、環境構築だけで丸1日を費やしていた。数百台に及ぶPCの機種や性能が異なっていたため、手順通りに進めても正常に動作しないケースもあった。インストラクターが個別対応に追われ、カリキュラム運営以外の業務負荷が増大していたほか、研修に必要な性能を満たすPCの調達や管理も大きな負担だった。そこで同社は受講者全員が同一の環境ですぐに学習を開始できる仕組みを目指し、クラウド型DaaSの検討を開始した。
複数の概念実証(PoC)を経て、トヨタ自動車は安全な研究開発環境を管理できるオープンソースのWebポータル「Research and Engineering Studio on AWS」(RES on AWS)の採用を決めた。選定に当たり、AWS社が提供するサービスの機能や品質だけではなく、同社の立場に立って課題解決を支援するAWS社のチームの伴走型サポートも決め手になった。導入に向けては、クラウドインフラの構築を自動化するツールやマシンイメージの管理機能を活用し、仮想デスクトップ構成の標準化を進めた。
この新システムの導入によって、200人を超えるエンジニアがツール設定に時間を取られることなく、初日からスムーズにトレーニングに集中できるようになった。従来は約6カ月を要していた高性能PCの調達自体が不要になり、受講者は仮想デスクトップを起動してから約10分で開発環境を利用できるようになった。これによって、これまで丸1日かかっていた環境設定作業が、ツールの基本的な使い方を習得する約2時間のオリエンテーションのみに短縮され、研修準備のリードタイムが削減された。インストラクターも個別トラブルへの対処から解放され、受講者への支援業務に注力できている。
2026年6月現在は、クラウドインフラ内に次世代のモデルベース開発(MBD)環境を構築し、パワートレーン部門やコアエンジニアリング部門の製品開発に同環境を展開する準備を進めている。研修と実業務で同一のツールやインフラを利用することで、エンジニアが開発業務へとスムーズに移行できる一貫したインフラづくりを目指す。
トヨタ自動車パワートレーン電子開発部グループマネージャーの佐藤匡将氏は、「RES on AWSを導入したことで、参加者は統一された開発環境に直接アクセスでき、スムーズに学習を始められるようになった」とコメントする。
(※)この記事は本多和幸氏と谷川耕一氏によるIT事例メディア「CaseHUB.News」に掲載された「トヨタ自動車、AWSで開発環境を標準化しエンジニア研修の構築時間を短縮」(2026年6月19日)を、TechTargetジャパン編集部で一部編集し、転載したものです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[NTTインテグレーション株式会社] 取引先のセキュリティをどう管理する? 「SCS評価制度」対応の勘所を解説 -
製品資料
[NTTインテグレーション株式会社] SCS評価制度「★4」取得のカギ 最大の壁を突破する方法とは? -
製品資料
[NTTインテグレーション株式会社] 2026年度末から運用開始 「SCS評価制度」に備えて製造業がやるべきことは? -
事例
[ネットワンパートナーズ株式会社, アイビーシー株式会社] ハイブリッド環境の一元管理と快適な無線LAN環境、三井ホームはどう実現した? -
市場調査・トレンド
[TD SYNNEX株式会社] 調査で学ぶセキュリティ運用の実態 人を増やさず品質を維持する方法とは?
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
2
【漫画付き】ひとり情シス協会が明かす、RAG導入でしくじる企業「2つの共通点」
-
3
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
4
IT製品の導入に関するアンケート「PC&デバイス」編
-
5
IBM iのブラックボックス化を打破 資産継承と進化を実現する「IBM Bob」の実力
-
6
1200万円のSaaS導入を回避 スギ薬局「運用費10万円」のAIエージェント構築術
-
7
「RAGの利用」に関するアンケート
-
8
「AI活用を前提とした業務PCへの移行」に関するアンケート
-
9
マネジメント未経験でも大手に行くには? 企業規模で変わる情シス転職の勘所
-
10
67%が「手動起動」に依存? AI活用を阻む“自律運営の壁”
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
DX/AI投資の壁を突破、現代の最高財務責任者が直面する課題と克服のヒント
-
2
バックアップは“取っているから大丈夫”なのか? ランサムウェア時代の備え方
-
3
システムの保守がモダン化を阻む? 「変えない判断」から脱却する方法とは
-
4
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
5
5分で分かる Microsoft 365のデータ損失に備えるためのバックアップの仕組み
-
6
「NAS」「SAN」「DAS」は何が違う? いまさら聞けないストレージの基礎
-
7
ネットワーク遅延の原因、「パケットロス」の基礎知識と効果的な解決策
-
8
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
9
ソフトウェア開発の属人化と手戻りをどう防ぐ? 速さと品質を両立させる方法
-
10
ランサムウェア攻撃“究極の対策”はこれだ
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー