「Fit to Standard」を貫く現実解
「SAP Cloud ERP」導入で“アドオンの山”から脱却 INPEXが下した決断とは
ERPの刷新において、現場の要望に沿った追加開発は技術的負債となり、保守費用を増大させる。石油・天然ガス開発大手のINPEXは、「SAP Cloud ERP」の導入に際して、いかにこの課題を乗り越えたのか。
ERP(統合基幹業務システム)の刷新プロジェクトにおいて、IT部門を悩ませるのが「アドオン(追加開発)の要求」だ。「今の業務プロセスを変えられない」「標準機能では現場が回らない」といった事業部門からの声を受け、気付けば新システムもアドオンの山と化す。その結果、将来的なシステムの変更や最新技術の適用が困難になり、巨額の保守費用が情シスの予算を圧迫し続ける。
石油・天然ガス開発大手のINPEXは、2008年から稼働させてきたSAPの基幹システムを刷新する際、大きな転換点を迎えていた。水素やアンモニア、再生可能エネルギーといった低炭素化の推進が求められる激しい市場動向の変化を背景に、同社が新たな経営管理システムとして選んだのはクラウド型ERP「SAP Cloud ERP Private」だ。注目すべきは、システムの構築に当たり、追加開発によるカスタマイズを避ける「Fit to Standard」手法を徹底し、開発期間の短縮を実現した点にある。
多様な事業を展開する巨大企業において、既存の業務プロセスを標準に合わせるという大きな変革を、どのように成功させたのか。
「これまでの業務プロセス」を捨てるという決断
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SAP製ERPをカスタマイズしない選択
石油・天然ガス開発大手のINPEXは、グローバルの経営改革を支えるシステムインフラとして、SAPが提供するクラウド型ERPのSAP Cloud ERP Privateを採用した。2026年6月24日、INPEX、SAPジャパン、システム導入を支援したアビームコンサルティングが発表した。変化の激しい市場動向に合わせたデータ経営システムの強化と業務プロセスの最適化を図るため、国内では同年1月に本格稼働を開始している。
INPEXは2008年から、当初の経営戦略だった埋蔵量の維持拡大や事業領域の拡大を推進するため、SAPの基幹システムを運用していた。しかし、2025年2月に策定した長期経営ビジョン「INPEX Vision 2035」の下、エネルギーの安定供給に加えて水素やアンモニア、再生可能エネルギー、CCS(CO2<二酸化炭素>の分離回収、輸送、貯留)といった低炭素化の推進が求められるなど、同社の事業方針は大きく変化した。こうした社内外の環境変化や多様な事業展開への適応力を高めるために、インフラの刷新を含む経営システムの変革に踏み切った。
実行パートナーには、エネルギー業界における変革支援の知見を持つアビームコンサルティングを選定し、業務プロセスの再設計からシステムの構築、定着までを一貫して推進する体制を整えた。新システムの選定に当たっては、データ移行や他システム連携における大規模障害のリスクが低い点、クラウド化による拡張性の向上や運用管理の負担軽減、AI技術など最新技術を活用できる点が評価された。
構築に当たっては、追加開発による個別カスタマイズを避け、業務プロセスをSAPの標準仕様に合わせるFit to Standard手法を適用して開発時間を短縮した。これによって、国内拠点の基幹業務の最適化が実現している。
新システムの導入によって、複雑化する経営データの一元管理とレポーティング業務の効率化が進み、迅速な意思決定が可能になる。システムの変更にかかる工数が削減され、将来の環境変化にも素早く順応できる体制が整う。今後は、AI技術をはじめとする最新技術を活用して既存業務の効率化を進め、従業員が高付加価値業務に注力できる環境づくりを進める。
(※)この記事は本多和幸氏と谷川耕一氏によるIT事例メディア「CaseHUB.News」に掲載された「INPEX、経営基盤変革へCloud ERPを採用 データ一元管理と意思決定を迅速化」(2026年6月25日)を、TechTargetジャパン編集部で一部編集し、転載したものです。
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