「流通とITの共創」が生み出すネット商業都市空間
セブンインターネットラボが目指す「流通クラウドポータル」のシステム構築
2009年3月にセブン&アイ・ホールディングスとNECによる合弁会社として設立されたセブンインターネットラボ。設立から1年が過ぎた現時点での研究・開発成果と今後のビジネス戦略を聞いた。
流通とITの共創をテーマにした流通領域での研究と開発
小売業とIT企業が研究分野において協働する試みとして、セブンインターネットラボの誕生は各方面から注目を集めた。この合弁会社に出資したのは、セブン&アイグループのIT/サービスの事業領域を担うセブン&アイ・ネットメディア(50%)とNEC(40%)、そしてセブン&アイ・ネットメディア傘下のインターネット通販事業を受け持つセブンネットショッピング(10%)の3社。事業目的は、「流通とITの共創」をテーマにした流通領域での新業態の研究とシステム開発である。
| 会社名 | 事業内容 |
|---|---|
| セブンネットショッピング | ネット通販事業 |
| セブンドリーム・ドットコム | チケット事業、店舗サポート事業 |
| セブンカルチャーネットワーク | カルチャー・旅行関連事業 |
| セブンインターネットラボ | インターネットシステム研究・開発事業 |
| セブン&アイ出版 | 出版事業、コンテンツプロデュース |
| ぴあ | チケット出版事業 |
| 日テレ7 | テレビメディア事業(番組、商品開発) |
セブン&アイグループを構成する、コンビニエンスストア(セブン-イレブン・ジャパンなど)、総合スーパー(イトーヨーカ堂など)、百貨店(そごう・西武)、金融(セブン銀行など)をはじめとする7つの事業領域の一角、「IT/サービス」を担うのがセブン&アイ・ネットメディアであり、そのセブン&アイ・ネットメディアが傘下に擁する事業会社の1つが、セブンインターネットラボという位置付けになる。
代表取締役社長には、セブンネットショッピングの代表取締役社長である鈴木康弘氏が兼務する。鈴木康弘氏は富士通で10年ほどSEを経験した後、ソフトバンクの営業職として活動する中、自身がプランしたECビジネスを社内で起業。その後、一貫してEC事業に挑戦し続けてきた、小売業界では貴重な流通とITの両方に精通したリーダーである。
小売とITの黄金タッグがよみがえる
ところで、セブン&アイグループはセブンインターネットラボ設立に当たって、なぜパートナーにNECを選んだのか。そこには、セブン-イレブン・ジャパンとNECによる長年の協業関係があった。折しも第一次石油ショックによる戦後初のGNPマイナス成長に国中があえいでいた1978年に、両社は世界初のチェーン店舗向け発注端末機「ターミナル7」を共同で開発。発注番号のバーコード化と注文データを先行記録とするターンアラウンド方式による発注業務の精度向上で、セブン-イレブン・ジャパンの代名詞となった単品管理への挑戦と、小売業の高度情報化を成功させた。これが流通業界でIT化を本格的に取り入れた初期のケースとなり、その後の国内におけるPOS普及に大きく貢献することになる。
セブンインターネットラボでソリューション本部長を務める柿澤克哉氏は、「ターミナル7こそが、今日の売り上げのデータを収集して翌日の仕入れの品目と量を予測する、仮説検証型のビジネスの基礎となった」と振り返る。米国で不振だったコンビニを国内で成功させたことで、それを米国に逆輸出し本体のテコ入れを行ったことは周知の通りだ。
それから30余年後、セブン&アイグループは「情報化社会の本格対応」と「IT人材の保有・育成」を目指し、一方のNECは「IT人材の投入」と「研究・技術ノウハウの提供」により、セブンインターネットラボという協業スタイルで流通とITの革新を目指す構えだ。
不調企業が目立つ小売業界で必要なのはネットとリアルの融合
「セブンインターネットラボの事業内容は、ネット社会におけるビジネスの追求のための研究事業と、IT投資効果の最大化を目的としたシステム開発事業の2つに分けられる」と説明する柿澤氏。
同社の研究事業は大きく3つに分かれる。1つは、まさに鈴木康弘氏が追い求めてきたネットとリアルの融合ビジネスの研究である。顧客、小売、生産者とのコミュニケーションを拡大して新たな小売業の業態を模索するのが狙いだ。
世界がIT革命に沸く90年代後半、「クリック&モルタル」という概念も提唱されたが、なぜか国内では成功した企業は少なく、その後も流通業とITとは縁遠い存在になり、インターネットを流通の現場でいかに活用していくかが長年の課題となった。
しかし、今やネットを抜きには考えられないほど消費者の購買行動は変化している。経済産業省が2009年10月に公表した「平成20年度我が国のIT利活用に関する調査研究」(電子商取引に関する市場調査)では、消費者向け電子商取引は2008年の段階で前年度比13.9%増の6.09兆円に拡大し、野村総合研究所が2009年12月に示した「2014年度までのIT主要市場の規模とトレンドを展望(2)」でも、2014年にはB2CのEC市場規模を約12兆円にまで拡大すると予測している。ネット通販が躍進し、リアルな百貨店やスーパーの不調が目立つ小売業界では、もはやネットとリアルの融合は最優先の課題といっても過言ではないだろう。
2つ目は、次世代に向けた新技術活用の研究だ。PCやスマートフォン以外にも、デジタルテレビやゲーム機、タブレット型端末などをゲートウェイとした情報活用や、視覚・聴覚以外にも触覚・味覚・臭覚といった5感すべてにリーチする新技術を研究し、小売事業への活用方法を探っている。
そして3つ目は、戦略的なデータ活用の研究だ。マーチャンダイザーやバイヤー、そして経営者の経験やノウハウを基に、グループの総売上高9兆1000億円を稼ぎ出す3万9100店舗と1日当たりの来店者数3800万人から生み出される膨大な販売データを活用し、仮説・検証サイクルの加速化を図っていくという。
もっとも、セブン&アイグループには、CEOの鈴木敏文氏の持論に基づく、「データは過去の実績でしかなく、過去の数字をいくらもてあそんでも未来は読むことができない」という信念が染み渡っている。これから起こることを先読みし、それに基づいて「何が、どれだけ売れる」という強い意思を持って仕入れなければ、顧客が本当に必要としているものを提供できないという論理だ。柿澤氏は、「データはあくまで過去を検証するためものであり、変化への対応力をいかに向上させるかが基本的な考え方」だと強調する。
ITのメリットを生かす流通と、流通に最適化したIT
一方、システム開発事業の目的も3つ存在する。
第1に挙げられるのは共同開発体制の確立だ。システムの発注者であるセブン&アイグループの各企業と、開発者であるセブンインターネットラボが上流工程から一緒にモノ作りをすることで、「現場のスタッフが求めるシステムとは何か」を的確に追い求め、双方のコミュニケーションロスを排除した品質の高い開発を目指す。
第2に、開発ノウハウの蓄積が挙げられる。従来、セブン&アイグループの各企業はシステム開発を開発会社にそれぞれ委託し、一から開発を行うことで、開発に長い時間を費やしていた。今後のネット事業領域においては、セブンインターネットラボがすべての開発プロジェクトに携わり、連続したシステム開発を行うことで開発期間を短縮するとともに、グループ各社の業務や開発ノウハウを蓄積し、その後の開発生産性を向上させていくという。
第3に、ローコストオペレーションの確立がある。こちらもグループ各企業が個々に運用を行うために重複したムダなコストが発生していた。今後はセブンインターネットラボがグループ企業のシステムの開発・運用・保守までを行うことにより、IT投資効果の最大化を目指していく。
もちろん、その実現にはNECのシステム構築やR&Dのノウハウが不可欠となる。NECもセブンインターネットラボの事業にかかわることで、小売業の業務内容やノウハウを吸収でき、ほかのビジネスへの展開も期待できるだろう。
「われわれはシステム開発の革新にもチャレンジしている」と強調する柿澤氏は、顧客の嗜好(しこう)の変化や景気低迷により長引くデフレ、若者の消費離れなどによってビジネスにスピードが求められているにもかかわらず、システムがその変化に追い付いていないと指摘する。流通業界が必要としているものを、“うまく”(高い開発品質)、“早く”(市場変化への迅速な対応)、“安く”(グローバル化を見据えたコスト競争力)の3拍子で実現するという。
業界の垣根を超えた流通クラウドポータル構想
セブンインターネットラボの事業開始から1年を経た時点での成果としては、通販サイト「セブンネットショッピング」をリニューアルすることで、従来の書籍やCD、DVDに加え、コスメ、食品、ゲームなど11カテゴリ500万アイテムにまで取扱商品を拡大した。また、イトーヨーカドーが展開するネット配達サービスのシステム運用を受託することで、約2割のコストダウンに成功したという。
さらに、セブン-イレブン・ジャパンと共に、都内10カ所の店舗で店内用のデジタルサイネージを設置して試験運用を実施。新商品の告知による販促効果や、広告媒体としてのビジネス効果などの仮説検証を行った。国内に1万2750ものセブンイレブン店舗(2010年4月末現在)において、デジタルサイネージは集客拡大につながるという一定の効果を検証できたという。
そして今後、最大のプロジェクトとなるのが、セブンネットショッピングの「流通クラウドポータル」構想の実現である。セブン&アイグループの店舗連携をはじめとして、社外のメディアパートナーやコンテンツプロバイダー、メーカー、生産者などとも連携し、業界の垣根を越えてお互いの資産を共有し合うためのインフラ構築を行っていく。そのシステム開発および運用をセブンインターネットラボが担っていくことになる。
この計画について、柿澤氏は「業界によってはシステムに対する考え方やモノ作りの思想が流通業とは大きく異なるため、開発生産性を効率化させるための仕組み作りや新たな取引先との共通した流通基盤の構築も必要になるだろう」と予測する。
小売とITの共創によってどのような成果が得られるのか、また流通業におけるネットとリアルの融合ビジネスは生まれるのか、セブンインターネットラボのオペレーションに熱い視線が注がれている。
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