グローバル製造業のためのERP選定【第3回】
自社に最適なERPが見えてくる――ERP選定に欠かせない4つのポイント
成熟期に入ったとされるERP市場。ERPパッケージにもさまざまな特徴を持った製品が多数存在している。パッケージを理解する上で必要なタイプ別のERPの特色や、選定のポイントなどを解説する。
当連載の第1回「製造業が直面する残念なERPと幸せなERP」では、ERP導入動機の変遷と、製造業のグローバル化のパターンごとのERP導入アプローチについて説明した。また、第2回「心当たりある? ERP選びの失敗事例から学べること」では、架空事例を基にしたERP選定の失敗要因と、失敗しないための選定方法について解説した。最後となる今回の第3回では、ERPパッケージをタイプ別に層別し、ERP選定でポイントとなる比較項目や特色などを、さまざまな角度から検証してみたい。
ERPのタイプ
まずはERPの特色を各種タイプ別に見てみる。タイプとしては複数の区分けが可能であるが、ここでは下記の4つの角度から、基本的な部分も含め「グローバル製造業」を意識した上で論じる。
- 開発ベンダー(欧米製・日本製)の観点
- パッケージの成り立ち(会計主体・製販主体)の観点
- コンセプト(スタンダード機能型・スケルトン機能型)の観点
- システムの形態(オンプレミス・クラウド)の観点
開発ベンダー(欧米製・日本製)の観点
数年前までは海外製パッケージが機能的な優位性を見せていたが、昨今は日本製パッケージも機能拡張しており、基本的な機能部分では差がなくなってきている。
ただし、今回のテーマである「グローバル製造業」で必要になるグローバル対応要件に関しては、やはり海外製パッケージに一日の長があるように思える。日本製パッケージも多言語、他通貨、各国法規制対応など機能拡張をしているものの、機能面だけでなく各地導入後のサポートまで含めた場合は、海外製パッケージが勝っているといえる。
日本製パッケージに優位性があるのは、日本の製造業向けの細かい要件に対応する気の利いた機能だ。導入企業は自社のシステム要件や海外拠点の導入、運用方針などを考慮し、パッケージを選定するべきである。
パッケージの成り立ち(会計主体・製販主体)の観点
次にパッケージの成り立ちの観点で見てみよう。ERPパッケージは会計機能から進化してきた製品が多い。またはERPとうたいながら実際はほぼ会計機能のみ、もしくは製販機能のみといったパッケージも散見される。
先の開発ベンダーの項目でも述べたが、機能的には多くのパッケージが機能拡張を続け、基本機能ではパッケージ間の差がなくなってきている。それは本項目でも同じであり、会計機能から進化したパッケージは製販機能へ、その逆に製販機能から進化したパッケージは会計機能へと、この10年で機能追加してきた。
ただ細かく機能を見ていくと、面白いものでそれぞれの成り立ちによりパッケージのクセがある。例えば会計機能から進化したパッケージは会計との連携を重視するが故に、生産管理機能においても会計のしがらみが強く、実際の現場では運用しづらいと思われるような製品もある。
このあたりは機能要件表の○×比較だけでは現れてこない部分であり、第2回でも記載した通り、選定時によく確認すべきポイントである。
コンセプト(スタンダード機能型・スケルトン機能型)の観点
各パッケージ共に機能拡張しているものの、その裏側にある基本コンセプトでは、違いが見て取れる。ERPパッケージの基本コンセプトは一般的に2つある。1つは標準機能を豊富に備え、パラメータやテンプレートで設定を変更していく考え方(ここではスタンダード機能型と呼ぶ)。もう1つは、標準機能を増やすよりは各ユーザーが追加機能を開発しやすい仕組みを用意する考え方(ここではスケルトン機能型と呼ぶ)だ。
昨今の傾向としては前者のスタンダード機能型の考え方を持つパッケージが多く出回っている。スタンダード機能型は標準機能で業務に対応し、カスタマイズなどを行わないため、将来のバージョンアップを考えた場合には、大きなメリットがある。
とはいえ、日本の企業の細かい要件に対応するには(特に製造業の製販業務を意識した場合)、追加機能の開発が求められる場合も多く、それが行いやすいスケルトン機能型の考え方を採用する場合も多いであろう。また、スケルトン機能型でありながら、バージョンアップも容易にするような仕組みを意識した製品も多い。
導入企業がどちらの基本コンセプトを持ったパッケージを選択するかは、将来的に保守運用や追加開発を自社で行うかなどの方針と併せて判断することが重要だ。参考までに、イメージを下記に図解した。
システムの形態(オンプレミス・クラウド)
昨今ではクラウドERP以外にも、もともとオンプレミスで導入されてきた多くのERPパッケージがクラウド型でサービス提供されている。
クラウドに関しては、直接的なコスト(ハードウェア、ソフトウェア、導入に掛かる費用など)の比較だけでなく、目に見えにくいコスト(自社要員のシステム運用費用など)の比較まで行い、そのメリットとデメリットを判断する必要がある。本連載の第1回「製造業が直面する残念なERPと幸せなERP」で述べたグローバル化のアプローチのうち、「パターン(3)グローバル分散生産型」のように早期拠点立上げが求められるようなケースでは、十分検討に値する。
ERPの比較項目
ERPパッケージ選定に当たっては、第2回「心当たりある? ERP選びの失敗事例から学べること」で述べたように業務、システムのあるべき姿を立案し、それに基づくシステム化要件の抽出が必要である。その過程で、パッケージを比較するための項目を作成することになるが、それらは一般的に機能要件と非機能要件に大別される。また、その他の重要と思われる部分を挙げる。
機能要件
機能要件は、会計、生産、販売などの導入対象業務に対し、必要とされるシステム機能をまとめたものである。ここでは詳細な項目の解説までは行わないが、本テーマであるグローバル製造業を意識した場合には、特にマルチサイトに関する機能をよく確認すべきである。
グローバル製造業であれば、国内、海外含めた複数会社、複数工場を意識した処理が必要となる。ただ筆者の経験上、パッケージによっては所要量計算や原価計算において制約が出ることがある。ベンダーなどによるプレゼンテーションだけでは分かりづらい部分でもあるため、自社の要件を基にしたデモストーリーを提示し、実機での検証を十分に行うべきである。
非機能要件
非機能要件はセキュリティやパフォーマンスなどに求める要件を記載するものである。こちらについても詳細な項目の解説までは行わないが、一点挙げるとすれば、バージョンアップの考え方については要件として確認しておきたい。
ERP導入後のバージョンアップは避けて通れない要件である。国内工場、海外工場も含めてグローバルに複数拠点導入、展開することを考えた場合、非常に重要なポイントとなる。筆者の経験上、比較的容易にバージョンアップできるパッケージや、逆に非常にコストの掛かるパッケージがあり、それぞれの特色が出やすいともいえる。
ERP導入の要件定義についての記事
その他
ERP選定におけるその他の重要なポイントとして、パッケージの「思想」を十分に理解することが挙げられる。
思想の理解はなかなか難しい。開発ベンダー自身や導入するSIベンダーも理解できていないケースが多々ある。だが理解すると選定も的確に進められるはずである。例えば「ERPの工程管理の仕組みがこのようになっているのは、もともとジョブショップ型の生産を意識しているからだ」など、ERPの機能の裏側にある背景を理解することである。ERPの思想が明確になると、自ずと自社に合うパッケージも見えてくる。
筆者の10数年前の経験であるが、あるお客さまから「その機能の裏にある、パッケージの『思想』はどういったものですか?」と質問され、答えに困ったことがある。筆者はこれまで幾つかの種類のパッケージを導入しているが、その質問を受けてからは、常にパッケージごとの思想を理解し、説明できるように努めている。
また、もう1点として機能比較表で○×を付けても、機能比較の粒度によってはどのパッケージも大差ないという結果になることがある。プリセールスの段階では、各ベンダー共に、得てして要件に対して○を多く付ける傾向になりがちなためだ。
このような状況で選定を進めるには、表面上のパッケージ比較のみならず、中立的な立場でパッケージの実情を含めて検討をサポートしてくれるコンサルティング会社などをプロジェクト体制に入れることも検討してみる価値は十分にある(参考記事:ERP導入コンサルタントとの付き合い方)。
ERP導入形態と周辺ツール
最後に、ERPの導入形態別の特色について述べてみたい。
ERP統合型導入
ERPの機能をフルに活用し、全ての要求機能を単一のERPに盛り込む考え方で導入する形態である。単一システムで統一でき、システムの保守性やユーザーの操作統一性およびデータの統合といった点では十分にメリットがあり、ERP導入のもともとの典型パターンであった。
半面、データがリアルタイムに連動するが故の制約や、追加開発をERP上のアドオンとして作成する場合に小回りが利かない点などを考慮する必要がある。単一オペレーションで実施できる海外工場導入(第1回の「パターン(2)中国・ASEAN生産型」や、「パターン(3)グローバル分散生産型」)に向いている。
分散型導入
一昔前は「ベストオブブリード」といわれていた。各分野に得意な機能を持つERPやスクラッチ開発を含めて対応するアプローチである。最近はSIベンダーもERPの使い方を理解し始め、全てをワンパッケージで導入する統合型から、こちらの分散型を志向しているように思える。製造系業務にMESを組み合わせる方法や、購買の発注系業務にワークフローソフトを組み合わせるような形である。
この導入方法を取る場合、メンテナンス負荷やコストも高くなる傾向にあると思われる。だが複雑な仕様を求められ、かつユーザースキルが高い国内単一生産型には向いている。
分散型の良さを生かし、コアとなるERPとその周辺システムを1つのサービスとしてパッケージ化して提供しているベンダーもある。ユーザーのメンテナンス負荷やコストの面を考慮しているケースもあり、ERP統合型とは異なる導入をしたい海外拠点などに適用をお勧めする。
まとめ
以上、3回に渡りグローバル製造業のためのERP選定について解説してきた。第1回ではERPが市場に登場してから昨今までの環境の変遷やトレンドなどについて記載した。続く第2回では失敗しないERP選定方法について記述を進めてきた。今回の第3回ではERPの持つ特色や選定のポイントなどについて説明してきた。今回の連載が、少しでもERP導入を検討している企業の皆さまの一助となれば幸いである。
栗原秀夫(くりはらひでお)
株式会社電通国際情報サービス ビジネスソリューション事業部 コンサルタント
株式会社電通国際情報サービスに入社後、機械、半導体などの加工・組立製造業を中心に、SAP、InforなどのERP導入プロジェクトに携わる。特にグローバル企業の生産管理、販売物流管理のシステムコンサルティングを多数経験している。
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グローバル製造業のためのERP選定
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