キーパーソンが語る 東日本大震災後の救急・災害医療の在り方「GEMAP市民フォーラム」リポート【後編】

東日本大震災を踏まえて、今後の救急・災害医療はどうあるべきなのか? 本稿では、市民フォーラムの講演内容を基に、災害・救急医療分野のキーパーソン4人の見解や提言などを紹介する。

2012年04月02日 09時00分 公開
[翁長 潤,TechTargetジャパン]

 GEMITSアライアンスパートナーズ(以下、GEMAP)が3月11日に開催した市民フォーラム「平時から災害時に耐え得る医療を目指して」では、「災害時を想定した医療の在り方」と題したパネルディスカッションが行われた(前編記事:東日本大震災の反省を生かし、救急患者の最適な搬送をITで実現)。このパネルディスカッションには、日本救急医学会の代表理事や地域連携ネットワーク構築の指南役、被災地の医療復興を担う東北大学の教授、防災・救急業務関係者の育成を推進する団体の理事がパネリストとして登壇。GEMAP会長の小倉真治氏をモデレータとして、今後の救急・災害医療の在り方を議論した。本稿では、パネリスト4人の災害・救急医療に対する見解や提言、被災地の復興への取り組みなどを紹介する。

患者緊急度と病院選定の判定基準を統一

photo 日本救急医学会 代表理事 有賀 徹氏

 日本救急医学会の代表理事を務める有賀 徹氏(昭和大学医学部救急医学講座 教授)は「救急医療の需要と供給のバランスは、平時でも均衡していない」と指摘する。消防庁が発表した「平成21年救急・救助の概要(速報)」によると、総人口が減少傾向にある中、1999年から2009年までの間で救急出勤数は約30%増加し、現場から病院収容までの時間が9分も延びている。また、2009年の救急車で搬送された患者の疾病程度別構成比を見ると、救急車で搬送された人の約半数が入院を必要としない「軽症」であり、その中には本来救急搬送を必要としない患者もいた可能性があるという。

 有賀氏は「より良い医療を提供するためにはチーム医療が不可欠。特に救急医療では現場からの搬送を受け持つ救急隊と救急外来病院との連携が重要」と説明し、救急医療の現状を改善する取り組みを紹介した。

 現在、日本医師会が災害時の研修プログラムを作成するなど、患者の緊急度の判断基準と病院選定に関する方法論の確立が進められている。

photo 緊急度判定支援システムの5つのレベル)

 その1つに日本臨床救急医学会の「緊急度判定支援システム」(Japan Triage and Acuity Scale:JTAS)がある。JTASは、カナダで10年以上の運用実績がある「救急患者緊急度判定支援システム」(Canadian Triage and Acuity Scale:CTAS)をベースにしている。119番コール時の応対で患者の状態を5つのレベルで判定して救急隊や病院などがその情報を共有し、病院の受け入れ先や救急隊の出動体制などを決定する。例えば、病院側が「現在、赤(救急レベル)の患者に対応中なので、緑(低緊急度)の患者2人までなら受け入れ可能」と救急隊に伝達するケースがある。共通の判断基準を持つことで、医療資源の配分の効率化を支援する。

 こうした判定支援は、東京都の電話による救急相談センター「#7119」で適用されている。また、神奈川県の横浜市では119コールの判断基準に用いて、現場に向かう救急隊の編成変更などを実施している。

 災害医療について、有賀氏は「医療チームの連携だけでなく、DMAT(災害派遣医療チーム)などとの連携が重要」と説明する。東日本大震災の救援活動では患者を病院へ搬送する現場の自衛隊や消防隊、DMATと病院との連携が重要だったが、実際には災害対策本部や現場との情報共有が難しく、指揮命令系統の確立が困難であったという。

 有賀氏は「広域災害では各部隊が救援に向かうチーム単位だけでなく、より多くの組織にわたる情報統合や指揮命令系統などが機能することが求められる」とし、「そうした医療提供体制を構築するためには、医療従事者が比較的欠けている“トップマネジメントによる組織連携”を日常的に進める必要がある」と説明した。

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