学習して進化するロボット「Baxter」登場
ロボットが“できる同僚”になってしまう未来、人間は信頼関係を築けるか
近く、ロボットは企業においてその活路を見いだすだろう。だが、私たち人間はロボットを信用できるのだろうか。本稿ではロボットがIT部門にもたらす影響を考察する。
本稿では、職場にロボットを導入することについて考察する。具体的には、ロボットの未来と、ロボットが職場に導入されることが最高情報責任者(CIO)にどのような意味をもたらすのかの2点にスポットを当てたい。
IT部門の観点では、スマートマシンの登場によって、テクノロジー環境は複雑になった。スマートマシンとは、機械学習によって人間の代わりにタスクを実行するシステムだ。だが、人工知能の管理に必要なのは技術的な知識だけではない。
米Gartnerでアナリストを務めるトム・オースティン氏は次のように語る。「CIOが乗り越えなければならないハードルの1つは使用者と被使用者の間の信頼関係だ。米IBMの『Watson』を例に説明しよう。メディカルアドバイザーとしてのWatsonの役割は周知されつつある。だが、人事部がキャリアアドバイザーとしてWatsonを導入したらどうなるか考えてみてほしい。会社が用意したアドバイザーであるWatsonを信用する従業員は一体何人いるだろうか」
信頼は大きな問題になるとオースティン氏はいう。これは独占所有権のあるデータに限ったことではない。人間とロボットが並んで作業をすることについて考えた場合も信頼は大きな問題になるだろう。専門家は、このような状況でスマートロボットが力を発揮することを期待している。スマートロボットとは、Gartnerがスマートマシンに分類している30強あるテクノロジーの1つだ。
人間とロボットの垣根を乗り越える
米マサチューセッツ工科大学の航空宇宙工学部で助教を務めるジュリア・シャー氏は、この問題の解決に取り組んでいる専門家の1人だ。米MIT Technology Review主催のテクノロジーカンファレンス「EmTech」の講演で、MITのInteractive Robotics Groupのリーダーとしてシャー氏は発言している。彼女が携わっている研究は、人工知能と認知心理学の中間に位置しているという。
「人間の心をリバースエンジニアリングして、ロボットをより良いチームメイトにすることに取り組んでいる」とシャー氏はいう。現在、多くの生産ラインで稼働しているロボットは、人間に多くの物理的な危険をもたらすため柵の中で作業をしている。そのため、人間のワークフローはロボットのワークフローから完全に分離されている。
「工場の現場で新しいタスクが発生したときには2つの選択肢がある。まずは、ロボットが柵の中で単独でタスクを行う方法を特定する作業に取り組む。この方法を特定できない場合は、手作業で対応することになる。つまり、人間がタスクを行う必要がある」(シャー氏)
シャー氏は、この力学を変えることに取り組んでいる。コラボレーションを実現し、人間とロボットのどちらも単独では成し得ないことを達成するために、両者の強みを生かす方法を生み出している。つまり、安全なだけでなく、賢いロボットを作る必要があるとシャー氏は語る。
シャー氏と彼女のチームが試した技法の1つでは、人間とロボットが相互にトレーニングを実施できるようになる。役割を交換して、共同作業することについて共通の理解を生み出すのだ。人間を対象にした大規模な実験を実施した結果、シャー氏と彼女のチームが気付いたことがある。それは、人間とロボットが、クロストレーニングのメカニズムを使用して共通のメンタルモデルを作成すると、人間の側で待ち時間が大幅に減少し、並列動作が増えるという。
共通のメンタルモデルは、ロボットの受け入れを促進する。だが、人間のチームメイトが自我を犠牲にする必要はない。「(この実験では)人間は以前よりもロボットを信頼していること、ロボットが望むように動作していることに同意した」(シャー氏)
学習して進化するロボット
シャー氏が取り組んでいる種類の「スマートロボット」には特性がある。Gartnerでアナリストを務めるケニス・ブラント氏は次のように話す。「“スマート”という言葉の解釈は人によって異なる。だが、幾つかの共通項はある。それは『置かれた環境から学習できる』『人間の隣で作業を遂行して、人間から学習できる』『経験から学習して、作業をしながら向上できる』ということだ」
早期の例は、米Rethink Roboticsが開発した「Baxter」ロボットだろう。人間に近い形をしたBaxterは、工場の生産ラインで働いている従業員のすぐ隣で作業することが可能だ。柵の中に入れる必要はない。Rethink Roboticsを創設し、会長と最高技術責任者(CTO)を兼任するロドニー・ブルックス氏は「EmTech」で講演したときに、単調な作業を行うためにBaxterを導入した幾つかの工場の例を紹介した。単調な仕事とは、緻密さが問われるパッキングなどの反復作業だ。
Baxterにはセンサーが搭載されている。このセンサーにより、Baxterは「感じること」「見ること」が可能になり、環境に適用できる。また、関節のあるアームを動かすことによって、一連の動作を具現化するようプログラミングされている。「Baxterにコンベヤーベルトの速度を伝える必要はない。速度を見て判断する。Baxterは速度を理解するための判断力を持ち合わせている」とブルックス氏はいう。
未来のIT部門の状態
企業で導入されるBaxterが賢くなるにつれて、CIOの役割は変化するだろうとブラント氏はいう。
現在、このようなスマートマシンの代金はCTOや最高業務執行責任者(COO)の予算枠から支払われている。つまり、CIOの権限の範囲外で行われている。ブラント氏は、今後もこの傾向が続くと見ている。スマートマシンが運用システムであることに変わりはない。この運用システムのデータを活用するには、IT部門が得意なことを行う必要がある。それはシステムの統合だ。
ロボットがワークフローに統合されるにつれて(つまり、スマートマシンが人間とビジネスプロセスを共有するようになるにつれて)、企業にとってロボットが吸収して生成するデータの重要性は増すだろう。注文調達プロセスは、その一例だ。「受注状況を知りたい場合、その答えを把握しているのはロボットかもしれない」とブラント氏はいう。
実現には少し時間がかかるかもしれない。だが、CIOが予期しているより遠くない未来に現実のものとなるだろう。
2013年春に開催された「Gartner Business Intelligence & Analytics Summit」でGartnerのオースティン氏は次のように述べている。「このようなスマートマシンはAPI、OS、メニューシステムとは異なる。これは人間とテクノロジーが協力する、これまでにない方法だ。このトレンドに乗り遅れた企業は負け組みになるだろう」
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社うるる] 「入札市場」攻略ガイド:効率的に落札するためのポイントを徹底解説 -
製品資料
[株式会社うるる] 入札情報に特化した「販路拡大」「効率化」のためのサポートツールとは? -
市場調査・トレンド
[株式会社うるる] 公共入札に成功する企業と失敗する企業の「5つの違い」 -
製品資料
[日本ビジネスシステムズ株式会社] 専門家が教える、Microsoft 365の「テナント統合/分離」を成功に導く秘訣 -
製品資料
[rakumo株式会社] Microsoft 365での情報埋没を防ぐ、社内ナレッジを資産化する情報ポータル活用
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
PHP脆弱性「PHP2Shell」で2260万件に影響 情シスの緊急チェックリスト
-
2
「Microsoft 365」が乗っ取られる MFAを破る“本物の画面”の恐怖
-
3
半数がブルーカラー転向を視野に? ベテランエンジニアを追い込む“54歳の壁”
-
4
「Windows」の不要なファイルを安全に消して容量を空ける方法
-
5
なぜ「Gemini 4 Argon」は出遅れたのか? Googleが狙う“逆転のシナリオ”
-
6
「有線LAN環境」に関するアンケート
-
7
生成AIが普及しても「技術書」を手放せないエンジニアの本音
-
8
「テザリング依存」に潜む落とし穴 “遅いVPN”を解消するネット構築術
-
9
積水化学工業が「SAP S/4HANA Cloud」の“全グループ導入”に踏み切った訳
-
10
データセンター事業者が「脱VMware」をした“例のライセンス問題”じゃない理由
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
AI駆動攻撃にどう対抗する? 超速の攻撃からエンドポイントを保護する方法
-
2
2026年のサイバーセキュリティには何が必要か? 最新データに学ぶ傾向と対策
-
3
経験豊富な即戦力人材に直接アプローチできる、「攻めの採用」への転換術
-
4
「IT史に名を残すシステム障害」8選
-
5
最速72分でデータが流出? 最新の脅威トレンドや侵入手法から分かった防衛策
-
6
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
7
Microsoft 365のメールセキュリティ、3つの“死角”と追加で検討すべき対策とは
-
8
AI駆動開発のスピードと安全性を両立 「品質・セキュリティ管理」の実践ガイド
-
9
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
-
10
「標的型攻撃メール」事例・サンプル集
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー