ARのビジネス活用の本格化はあと2~3年後か
「Pokemon GO」が証明したARの魅力、ビジネス活用に躍起な人が次に考えるべきことは?
拡張現実(AR)は娯楽やゲームのためのものとは限らない。ARは、私たちを取り巻く世界との関わり方を変える可能性を秘めている。そして、ARが次に目指すのはビジネスの世界だ。
世界的な大ヒットを記録したNianticのモバイルゲーム「Pokemon GO」によって、ARテクノロジーが大衆のものになった。そして、次のターゲットは企業だ。
Pokemon GOでは、スマートフォンのカメラを使ってプレイヤーが見ている現実の世界が画面上に表示される。そして、そこにプレイヤーが捕まえるデジタルのキャラクターを追加することで、スマートフォンに表示された現実を拡張している。例えば、プレイヤーの家の庭で休んでいるポケモンが表示されるという具合だ。また、スマートフォンの位置情報サービスを使用して、プレイヤーが実際のランドマークや建物に出向いて、さらにゲームを楽しめるようになっている。
Pokemon GOは2016年7月にリリースしたが、リリースから2カ月以内で、5億人を超えるGoogleの「Android」ユーザーとAppleの「iOS」ユーザーによってダウンロードされている。これは、Appleの「App Store」の歴史上最大級の成功を収めたアプリの誕生となった。そして、現在、ARは企業のIT部門の門戸をたたいている。
ARベンダーのMobiliyaでシニアエンジニアリングマネジャーを務めるアシシュ・アグラワル氏は、次のように語る。「Pokemon GOが成功を収めた理由の1つに、そのリアルさがある。Pokemon GOは消費者と企業を含む業界全体に少なからぬ衝撃を与えている。証明済みの概念実証であるからだ」
ただし、ビジネスの世界で成功を収めるレベルにARが到達するまでの道のりは長い。また、企業はARの最適な用途と、コスト、投資利益率(ROI)、ユーザーの受け入れに関する疑問を明確にしておかなければならない。
AR導入の普及に努める業界団体のAugmented Reality for Enterprise Alliance(AREA)でエグゼクティブディレクターを務めるマーク・セージ氏は次のように語る。「問題は技術的なものではなく、従業員にARを使用させることにある」
ARの基本
ARの導入において、最初に障害となるのは、ARテクノロジーと仮想現実(VR)との違いに関する混乱だろう。ARは現実の世界とデジタルの世界を組み合わせて1つのシームレスな体験を生み出す。具体的には、現実の世界に存在する庭にデジタルのポケモンが表示されたり、デジタルの設計図がヘッドギアを通して実際の飛行機のエンジンに重なって表示されたりする。一方のVRは、完全なデジタルの世界にユーザーを没入させる。
独立系アナリストでAREAの役員会メンバーを務めるクリスティン・ペレ氏は次のように述べている。「どちらのテクノロジーも企業で果たせる役割がある。VRは、組み立てる前の設計段階でモノを表示したり操作したりするのに役立つ。一方のARは、実際の資産を操作する方法を改善する」
Pokemon GOは人気を博している。だが企業は、モバイルアプリとはAR体験を提供する手段の1つにすぎず、将来的には最適な手段でなくなるであろうことを認識しなければならない。多くの従業員はARデバイスのディスプレイを見ながら手動でタスクを実行する必要がある。だが、モバイルデバイスを持ちながら、手動でタスクを行うのは容易でない。そのため、スマートグラスやヘッドギアといったハンズフリーのデバイスが普及するようになるとセージ氏は予測する。
「手を使う必要があるなら、ウェアラブルデバイスが最適な選択肢だ」(セージ氏)
箱や倉庫の棚に製品情報を表示するなど、光とレーザーによって実際の資産上にデジタル情報を投影するプロジェクションARも、AR体験を提供する新たな方法の1つだ。
AR市場の状況
2014年のARソフトウェア業界の収益は2億4700万ドルだった。しかし、Juniper Researchによると、この数値が2019年には24億ドルにまで上昇する見込みだという。航空機製造、航空宇宙、自動車、公益事業、製造、建設、医療業界の企業がARを早期に導入している。
米国マサチューセッツ州に本拠地を置くJ. Gold Associatesで主席アナリストを務めるジャック・ゴールド氏は次のように話す。「ARに関しては、ほとんどの企業が実験段階にあり、本格的に使用されるまでには2~3年かかるだろう」
また、同氏によれば、企業がARのビジネスモデルと用途を解明するのにも時間が必要だという。「かなり早期にARを導入した企業でも、現在は試験的なプログラムや概念実証の導入を行っている段階にすぎない」とセージ氏は指摘する。
「企業全体でARが使用される状況はまだ目にしたことがない」(セージ氏)
ARは、再現や反復が容易でない非常に複雑で労働集約型のタスクに最適なテクノロジーだ。具体的には、その作業のためにロボットを開発するのが不可能だったり、コスト効率が悪かったりという状況である。「例えば、大半の衛星や全ての航空輸送機では特殊な設計が採用されている。そのように高いレベルのカスタマイズでは、かなりの人手が必要になる。ARテクノロジーによって、手を使わずに設計図などの設計資料にリアルタイムでアクセスできる。その結果、作業員はより効率的かつ効果的に衛星や航空輸送機を建造できるようになる」とペレ氏はいう。
他の一般的なARの用途には、検査や設計の審査がある。ARデバイスのカメラで組み立てられた機械の一部を表示し、ソフトウェアがそれを本来の設計図と比較することで、あらゆる相違を特定できる。また、ペレ氏によれば、カメラで撮影した状態を別の場所にいる人物に送信して、組み立てた機械を人の目で審査することが可能になるという。これは、特定の状態をビデオ会議で送信しているようなものだ。
予算拡張が必要なAR
ユースケースの他にも、現在ARを導入している業界に共通しているものがある。それは、すさまじいほどのリスク回避だ。例えば、メンテナンスの不備によって飛行機が墜落した場合、その結果起こる訴訟とマイナスイメージによって航空会社は倒産する恐れがある。ARは高額なテクノロジーだが、航空会社のような企業は、ARを導入しなかった場合のコストの方が高くつくため、ARへの投資を積極的に行っている。
「ミスへの対応に多大なコストが掛かる業界もある。そのような業界はARテクノロジーへの投資を速やかに回収できるだろう」(ペレ氏)
ただし、他の業界の企業は、現時点でROIを達成するのに苦戦しており、本格的な導入は難航している。ARテクノロジーの標準化が進むにつれて、コストは下がり、ROIは達成しやすくなるとゴールド氏は予測している。
「ARデバイスは画一ではない。ARデバイスは独自に開発されており、台数も少ないため、非常にコストが高い」(ゴールド氏)
この問題の原因は、ハードウェアとソフトウェアだけではない。ARシステムには、バックエンドのクラウドインフラ、フロントエンドがバックエンドのクラウドインフラに接続するためのミドルウェア、これらの接続をサポートするための堅牢なネットワークが必要だ。この全てがコスト増加の要因となっている。
「ARは問題を解決できるテクノロジーだが、単体ではどうにもならない。他の多様なテクノロジーの中にあって生きるものだ」(アグラワル氏)
「企業はARへの投資にしり込みをしている。その理由は、AR市場のベンダーの多くがビジネスの世界で知られていないことと、ARが進化する速度が速いことにある」とペレ氏は指摘する。
「今日買ったものが、数カ月後には有効でなくなってしまう」(ペレ氏)
ARの分析
Pokemon GOがブームで終わったとしても、Pokemon GOはAR業界にとって長期的な財産を残すことになるだろう。
Pokemon GOが誕生する以前、ARテクノロジーに関する議論の大半はユーザーエクスペリエンス、つまり現実世界と仮想世界の融合に焦点が当てられていた。「モンスターを捕まえて、アイテムを集めて、特定の場所を訪れるという同ゲームのシステムが、新たな可能性の境地を開いた」とペレ氏は指摘する。
ARテクノロジーを使用して、ユーザーが何を見ているのか、特定の時間に特定の場所でどんなタスクを行っているのかを確認できることが企業で認識されるようになっている。さらに重要なのは、企業がデータを収集および分析して、法則性、非効率なこと、改善の機会を特定できることだ。
ポケストップでモンスターボールを入手して、そのボールでポケモンを捕まえることに興味のあるビジネスリーダーはいないだろう。だが、ARテクノロジーで集められる新しい種類のデータから得られる有益な洞察には関心があるはずだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[ファインディ株式会社] AI利用率だけでは説明できない成果 開発組織の競争力を生む「開発資本」とは? -
製品資料
[ニュータニックス・ジャパン合同会社] AI活用を成功へ導く、シンプルで費用対効果に優れたクラウド基盤とは? -
製品資料
[ニュータニックス・ジャパン合同会社] マネージドKubernetesには限界も――メリットをフル活用する新たな選択肢とは? -
技術文書・技術解説
[ニュータニックス・ジャパン合同会社] 決断の日が迫る「vSphere 8」サポート終了問題 考慮すべきリスクと選択肢は? -
製品資料
[サイバーソリューションズ株式会社] メール誤送信対策のルールが肥大化 苦しむ情シスはどうすれば救われるのか?
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「恥を知るべきだ」 AIデータセンター反対運動を招いた事業者の秘密主義
-
2
「アップグレードできないJava」をどう守る IBMとRed HatがAIで400件超修正
-
3
半数がブルーカラー転向を視野に? ベテランエンジニアを追い込む“54歳の壁”
-
4
「Wi-Fi 7」経由でWindowsが乗っ取られる? 最高権限奪取の恐怖
-
5
データベースはもう止めないよ、絶対に──無停止を実現する“手軽な”技術の全て
-
6
「サイバー犯罪株式会社」に潜入 現地調査で判明した“犯罪者求人”の実態
-
7
Copilot導入で陥る“目的化”の落とし穴 定着の鍵は「作り込まない」こと
-
8
なぜ「Gemini 4 Argon」は出遅れたのか? Googleが狙う“逆転のシナリオ”
-
9
情報漏えいはなぜ繰り返されるのか 今すぐ見直すべき「境界」
-
10
“アジャイルの壁”に挑むオリックス生命がIBMの開発管理ツールを選んだ理由
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
AI駆動攻撃にどう対抗する? 超速の攻撃からエンドポイントを保護する方法
-
2
家庭用Wi-Fiルーターの業務利用は危険? 避けるべき理由と具体的な対策
-
3
Microsoft 365のメールセキュリティ、3つの“死角”と追加で検討すべき対策とは
-
4
システムの保守がモダン化を阻む? 「変えない判断」から脱却する方法とは
-
5
最速72分でデータが流出? 最新の脅威トレンドや侵入手法から分かった防衛策
-
6
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
7
「IT史に名を残すシステム障害」8選
-
8
Linux初心者でも知らないとまずい「RHEL」「SLES」の違いとは?
-
9
東大教授と考える、AI時代の「データ主権」「信頼性」「ガバナンス」の在り方
-
10
マンガで学ぶXDR/MDRのメリット、中小企業のセキュリティ強化になぜ有効か?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー