動き始めた「ラーニングアナリティクス」【第3回】
九州大学でも実践中、「ラーニングアナリティクス」が“空論”ではないこれだけの根拠(1/3 ページ)
学習履歴や行動履歴を生かす「ラーニングアナリティクス」は研究段階ではなく既に実用段階にあり、具体的なメリットを生み出し始めている。先駆的な事例や製品動向を示す。
第1回「AIブームが後押し? 『ラーニングアナリティクス』が教育界の“熱い話題”になった理由」と第2回「教育ビッグデータ分析『ラーニングアナリティクス』に必須な“4つの機能”とは?」の2回にわたって、ラーニングアナリティクスの概要や機能、メリットについて説明してきました。今回はラーニングアナリティクスを実践する教育機関での取り組みに加え、実践を支援する製品/サービスの動向について説明します。
併せて読みたいお薦め記事
「ラーニングアナリティクス」とは何か
- AIブームが後押し? 「ラーニングアナリティクス」が教育界の“熱い話題”になった理由
- 教育ビッグデータ分析「ラーニングアナリティクス」に必須な“4つの機能”とは?
- ビッグデータを教育に生かす「ラーニングアナリティクス」とは?
教育ビッグデータの活用例「アダプティブラーニング」とは
教育機関で進むラーニングアナリティクスの実践
ラーニングアナリティクスに先駆的に取り組む教育機関の1つが、九州大学です。同大学は2016年2月、教育ビッグデータの蓄積や分析をする専門機関として「九州大学基幹教育院ラーニングアナリティクスセンター」を設置しました。センター長の緒方広明主幹教授を筆頭に、教員21人、職員5人(原稿執筆時)から構成される同センターは、大学の研究機関としてラーニングアナリティクスの研究を推進。九州大学が管理・運用している学習支援システム「M2B」(みつば)を利用した講義について、その分析を通した学習支援や教育改善といった実践的な取り組みを進めています(図1)。
M2Bは、オープンソースソフトウェア(OSS)のeラーニングシステム「Moodle」、同じくOSSのeポートフォリオ(学習記録蓄積・管理)システム「Mahara」、京セラコミュニケーションシステム(KCCS)のデジタル教材配信システム「BookLooper」から構成される学習支援システムです。2015年10月から九州大学の大学院生を含む全学生と教職員約2万7000人が利用しています。
同センターはさまざまな目的でラーニングアナリティクスを実践しています。以下はその一例です。
- 各システムの学習・行動履歴を教育ビッグデータとしてまとめて分析することで、成績と相関する行動を発見
- デジタル教科書の閲覧パターンを分析して教材の改善点を提案
- 学習履歴をリアルタイムに集計して教員に提示することで講義の進行の気付きを提示
- 学生の挙動から状態遷移図を作成し成績を予測
- 学生の学習履歴から最適なデジタル教材を推薦(レコメンド)
ラーニングアナリティクスの分析結果は、M2Bが備える「アクティブラーナーダッシュボード」と呼ぶダッシュボードや分析レポートを通して確認できます。学生や教職員は、講義の改善や学習の振り返りに分析結果を活用できます。
ラーニングアナリティクスを「研究」から「実践」へ
同センターの特徴として、まず組織的に全学のデータを蓄積していることが挙げられます。これまでも教員が個人的に自身の講義データを蓄積したり、大学が「ファカルティデベロップメント」(FD、講義内容の改善や向上のための組織的な取り組み)の一環で一部の講義データを集計したりすることはありました。しかし全学のデータを蓄積して活用しようという試みは、なかなか実現できませんでした。
総合大学である九州大学は、その規模もさることながら、専門分野や国籍などが異なる多様な学生・教員が在籍しており、多様性に富んでいます。こうした環境で全学規模の取り組みを進めるとなると、事前に入念な準備が必要になります。九州大学は学生全員へのノートPC必携化を先行して進めており、学習履歴をくまなく蓄積する環境が既に整っていたこと、さらに大学の執行部の協力が得られたことが、ラーニングアナリティクスの全学実施を実現できた要因だったといえます。
もう1つの特徴として、当センターはラーニングアナリティクスを講義改善に利用するために、実践的な活動を進めていることが挙げられます。大学におけるラーニングアナリティクスの取り組みといえば、分析や分析手法の研究に主眼を置くのが一般的でした。九州大学は分析や研究にとどまらず、データを分析して得られた結果を現場にフィードバックして効果を測定し、さらなる改善につなげるPDCA(Plan、Do、Check、Action)サイクルを回す取り組みが進められています。
ラーニングアナリティクスを軸としたPDCAサイクルがもたらす価値は、実教育へのフィードバックだけではありません。PDCAサイクルによって分析自体の正確性を増し、より効果的な分析手法の研究開発につながる土壌を作るという価値もあると考えられます。同センターは学内のラーニングアナリティクスを推進するだけでなく、ここで培ったノウハウや技術を他の教育機関や企業へも提供していく予定です。
九州大学の他にも、例えば京都大学が2015年に京都市内の中学校におけるラーニングアナリティクスの実証実験「京都ICT教育モデル構築プロジェクト」を始めたり、岡山大学が小学校におけるラーニングアナリティクスの取り組みを進めたりしています。ラーニングアナリティクスを実践に移そうとする動きは、今後も広がると考えられます。
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動き始めた「ラーニングアナリティクス」
教育や学習活動から生まれる教育ビッグデータを生かす「ラーニングアナリティクス」。その実態を明らかにする。
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