データ分析を教育の改善に生かす「ラーニングアナリティクス」に取り組む教育機関が増えつつある。注目の背景と関連技術、課題を明らかにする。
学習活動に関する膨大なデータを収集・分析し、教育活動に役立てる「ラーニングアナリティクス」(Learning Analytics、以下LA)への関心が高まりつつある。2015年5月には九州大学が、同年6月には京都大学が、LAに関する取り組みを相次ぎ発表。国もLAの推進を後押ししており、例えば総務省は2014年度から進める「先導的教育システム実証事業」で、学習履歴の活用によるきめ細かい指導実現をうたう。2015年5月には、LAの専門学会である「学習分析学会」が誕生するなど盛り上がりを見せ始めた(画面)。
ここに来て、LAへの関心が高まっているのはなぜか。LAに必要な技術要素とは何か。取り組みを進める上での課題は。こうした疑問を明らかにすべく、NPO法人のAsuka Academyが2015年7月に、LAに関するセミナーを開催した。本稿では、同セミナーの登壇者であり、LAに詳しい上智大学理工学部情報理工学科の田村恭久教授の話を基に、LAの現状と課題を整理する。
「学習ビッグデータ分析」「教育ビッグデータ分析」ともいわれるLAは、学習履歴など学習者や教材に関するデータ(以下、学習関連データ)を収集・分析し、活用する取り組みのことだ。学習者の学習効果を向上させたり、教員の教え方を改善するといった目的に利用する。大学が経営改善や教育の質向上のために進める活動「IR(Institutional Research)」や、学習者の活動内容をデータとして蓄積した「eポートフォリオ」に、LAで得られるデータや分析結果を活用することも期待されている。
学習者の将来の行動を予測するために、LAを生かそうとする動きもある。その代表例が、学習者の退学防止だ。例えば大学では、学生が受講した講義や成績、その後の進路といったデータを蓄積して分析することで、退学する可能性が高い学生が取る行動を明らかにできる可能性がある。実際、「『大学1年生のときにこの講義の単位を落としていると、最終的に退学する可能性が高い』といった情報が得られるとの先行研究もある」と田村教授は説明する。
LAへの関心が高まったのは「ここ数年の話」だと田村教授は指摘する。その背景には、教育機関のIT活用が進み、学習関連データの取得が容易になったことがある。特にLAに大きな影響を及ぼしたと同教授が指摘するのが、2000年前後から進んだ学習管理システム(LMS)の普及と、昨今急速に進むタブレットの普及だ。
学習者の成績や学習の進捗状況などを一元管理できるLMSの普及で、それまでは紙で管理していた学習関連データをデジタルデータとして直接取得できるようになった。さらに、タブレットの普及で学習者の手元が整備されれば、「教材のどのページを見ているか、関連情報としてどのWebページを見たのか、どの辞書を引いたのかといった、LMSでは取得できない細かいデータが取得できるようになる」と田村教授は語る。
さらに最近では、多彩な生体センサーを備えるウェアラブル端末が登場し、問題を解いているときの血圧や視線など、学習者本人が意識していない情報まで取得できる可能性が出てきた。こうした教育機関を取り巻くIT環境の充実により、学習関連データが取得しやすくなり、かつ取得できるデータの粒度がより細かくなったことが、LAへの関心を高める原動力になったというわけだ。
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