ビッグデータを教育に生かす「ラーニングアナリティクス」とは?教育ITキーワード解説(2/2 ページ)

2015年08月26日 08時00分 公開
[鳥越武史TechTargetジャパン]
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実現を支援するIT:4つのプロセスで構成

 LAは大きく以下の4つのプロセスから成り立っており、それぞれにITが重要な役割を果たす。

  • データ収集
    • 学習測定フレームワーク「IMS Caliper」の「Sensor API」や「Experience API(xAPI)」といった学習履歴収集APIを利用し、デジタル教材などから各種データを収集
  • データストア/フィルタリング
    • 収集したデータを保管しつつ、各データの整合性が取れた状態になるようにデータ形式を変換
  • 分析
    • 統計解析などの手法でデータを分析
  • アウトプット/フィードバック
    • 分析結果をリポートやダッシュボードといった形式で表示したり、学習者や教員へのフィードバックを実施

 学習者へのフィードバックについては、学習内容の理解度に基づいて学習すべき内容を学習者にリコメンドしたり、学習者が好む学習スタイルに合わせて教材を変えたりといった方法を取ることもできる。こうしたフィードバックは、学習者に合った学習方法を提供する「アダプティブラーニング」の実現に役立つ(参考:“究極の個別指導”を実現する「アダプティブラーニング」とは?)。

 データストア/フィルタリングのプロセスでは一般的に、デジタル教材やアプリケーションなどが出力した構造化データが処理対象となる。ただし今後は、自然言語処理といった技術を活用し、アンケートなどの非構造化/半構造化データを数値的に計測・分析可能な形に変換する必要性も出てくる可能性があると田村教授は指摘する。

普及状況:実証研究に加え具体的な製品/サービスも登場

 冒頭でも紹介した通り、国内の教育機関の間でLAに取り組む動きが広がりつつある。九州大学は2015年5月、デジタル教材の利用ログを使って教材の改善や学び方の振り返りなどに生かすため「ビッグデータの教育分野における利活用アプリケーションの研究開発」を始めた。同年6月には、京都大学学術情報メディアセンターが京都市教育委員会や日本マイクロソフト、NECと共同で実証研究「京都ICT教育モデル構築プロジェクト」を開始。京都市内の中学校で、タブレットから得られる学習履歴を収集・分析し、学習パターンと学力の相関関係を把握する。

 こうした実証研究に加え、LAの要素を具体的な製品/サービスとして実装する動きもある。京セラ丸善システムインテグレーションは、学習履歴の収集から分析までの一連のLAプロセスをサービスとして提供する「大学向けビッグデータ分析サービス」を提供。また、リクルートマーケティングパートナーズの「受験サプリ」「勉強サプリ」など、LAを内部的に利用してアダプティブラーニングを実現しているオンライン学習サービスも現れている。まだ数は少ないものの、技術開発の進歩や実証研究の進展に併せて、その数は増えていくものと考えられる。

データの扱いには懸念も

 実用化が進みつつあるLAだが、課題もある。特に懸念されるのは、収集した学習関連データの運用管理に関する課題だ。LAでは、学習者の実名や成績といった個人情報を含むデータを扱うことになる。例えば、分析のためにデータを外部のベンダーなどに委託する際に、個人情報を秘匿する必要が生じることもある。ただし、分析結果を学習者にフィードバックするには、各データがどの学習者にひも付くものかが分からないといけない。「学習者個人とデータをひも付けつつ、かつ個人情報を秘匿するにはどうするかを検討する必要がある」と田村教授は説明する。

 端末の生体センサーやカメラなどを使えば、学習者の生体情報を含むさまざまな情報が得られるものの、「『本当にそんなデータを取得しても良いのか』といった倫理的課題やプライバシー上の課題もある」と田村教授は語る。卒業や中退などで学校を離れた学習者のデータをどう扱うべきか、複数の組織でデータを共有する際のデータ管理をどうするかといった運用上の課題も見逃せない。

 国際標準化機構(ISO)と国際電気標準化会議(IEC)が共同で設置した標準化団体ISO/IEC JTC1(Joint Technical Committee 1)は2015年、LAの相互運用性に関するワーキンググループを組織。そこでは、LAに関するセキュリティやガバナンスの課題についても議論するという。こうした議論を通じて技術や仕様面の課題が解消できたとしても、倫理的課題や運用上の課題は残る。LAの本格的な普及の前に、データの扱いに関するルール作りなど、教育機関が安心してLAのメリットを享受できる環境整備が求められる。

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