一人一人に合わせた学習を実現する「アダプティブラーニング」は、教育機関にどのようなメリットをもたらすのか。先駆的なIT活用を進める教育関係者の議論から、その答えを探る。
学習履歴を基に、個別の学習者に最適なレベルや手段で問題を提供する「アダプティブラーニング」は、モチベーションを保ちながら効率的に学習できるメリットがある。こうした特徴を見る限り、アダプティブラーニングが個別指導に適していることは分かりやすい。だが学校のような集団指導の場で、アダプティブラーニングが有効なシーンを具体的にイメージし難い、と考える教育関係者は少なくないだろう。
教育機関にとって、そもそもアダプティブラーニングは役立つのか。役立つとすれば、どのような用途があるのか。アダプティブラーニングエンジン「Knewton」を提供しているニュートンジャパンが2017年に開催したイベント「Knewton Day Tokyo 2017」では、学校や塾でIT活用教育を精力的に進めている教育者がパネルディスカッションを実施。アダプティブラーニングの現状や課題、展望に関して、さまざまな立場からの議論を展開した。本稿では、その様子をレポートする。
広尾学園中学校・高等学校 金子 暁教諭
中萬学院 木暮誠一氏
聖徳学園中学・高等学校 品田 健教諭
千葉県立袖ケ浦高等学校 永野 直教諭
堀井学園 堀井章子氏
iOSコンソーシアム 野本竜哉氏
教育現場では、どのようなシーンでアダプティブラーニングが役立つのだろうか。桜丘中学・高等学校の副校長を務めた経験もある、聖徳学園中学・高等学校の品田 健教諭は、学習内容の理解に苦労している生徒に対してアダプティブラーニングが活用できるのではないかと期待を寄せる。
「高校生でも、小学校で学習する内容を理解できていないことがある」と品田教諭は明かす。基礎的な事項の理解が十分でないと、進級や進学後の学習に付いていけなくなりがちだ。ただし理解できていない事項は生徒によって異なる。そのため個人の弱点を洗い出し、その弱点を埋めるための学習を可能にするアダプティブラーニングが役立つのではないか、というわけだ。
個別の学習者に適した手当てをして、理解が不足している部分を補い、無事に進級や進学、卒業をさせてあげたい――。これは教員に共通した思いだろう。だが、ただでさえ多忙な教員が、一人一人にしっかりと時間を割いて指導しようとすれば無理が生じる。こうした部分を、ITをはじめとする新しい技術で改善できるのではないかというのが、品田教諭の考えだ。
生徒数の減少が止まらず廃校寸前だった学校を共学化、進学校化させ、立て直しを図ってきた広尾学園中学校・高等学校の金子 暁教諭も、基礎知識の習得をはじめとする定型的な学習の効率化にアダプティブラーニングが役立つ可能性を指摘する。ただし金子教諭がアダプティブラーニングに期待するのは、基礎学習の効率化そのものだけではなく、効率化によって生徒が多様な活動をしやすくなることだ。
中学生や高校生の多くは、授業だけでなく部活動や課外活動にも取り組んでいる。これらに加え、広尾学園で理系コース「医進・サイエンスコース」に所属する生徒は、大学で扱うような先端的なテーマの研究活動にも打ち込んでいる。「やりたいことがたくさんある中で、定型的な学習内容については、少ない労力で効率的に身に付くようにしてあげたい」と金子教諭は語る。
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