徹底比較:Salesforce、AWS、Azureなどの主要PaaSを紹介 将来有望なのは?市場規模が徐々に拡大、競争も激烈に

PaaSの前途は有望だが、競争は熾烈だ。アプリケーション開発の分野で重要性を増しつつあるPaaS市場の主要サービスを紹介する。

2017年07月27日 05時00分 公開
[Twain TaylorTechTarget]
画像 PaaSでアプリケーションを実行するまでの流れ(参照:Dockerが提唱する“Container as a Service”とは、早い話がPaaSである)《クリックで拡大》

 PaaS(Platform as a Service)は今のところ、SaaS(Software as a Service)やIaaS(Infrastructure as a Service)が過去10年間に経験したほどの爆発的な成長を遂げていない。ただし開発者が数名しかおらず、基盤インフラの管理が開発ペースに追い付かない状況にあるスタートアップ企業は、PaaSを好んで選択している。PaaSは下位層のインフラストラクチャを抽象化し、アプリケーションの開発やテスト、導入に利用できるプラットフォームを提供することによって、アプリケーションの開発を簡素化する。

 運用チームは構成済みのインフラストラクチャをコンソールから利用することで、サーバやストレージ、ネットワークなど、スタックの下位コンポーネントの管理に要する時間を大幅に削減することが可能だ。PaaSは通常、コンピュートリソースやOS、開発・テストツール、セキュリティ機能、エンドツーエンドのパフォーマンス監視など、開発に必要な全ての要素を含む。アプリケーション開発に大勢の開発者やサードパーティー開発者が関与する企業にとって、PaaSは優れた選択肢となる。

 本稿では主要なPaaSを幾つか取り上げ、PaaS市場の主な動きとともに紹介する。

クラウド ナビ


Salesforce.com「Salesforce App Cloud」

 Salesforce.comの「Salesforce App Cloud」は、同社のPaaSである「Heroku」と「Force.com」にユーザーエクスペリエンスプラットフォーム「Lightning」と同社のその他のサービスを組み合わせた統合プラットフォームだ。Salesforceは自社で開発したForce.comとLightningだけでは、それほど支持を獲得できていない。だが同社が2010年に買収したHerokuは、PaaS市場の黎明期から存在するよく知られたベンダーであり、それだけでもSalesforce App Cloudに与える影響は絶大だ。Herokuは多数のプログラミング言語とハイブリッドインフラをサポートする成熟したPaaSプラットフォームであり、恐らく開発者がPaaSプラットフォームといわれてまず思い浮かべる名前である。この状況はまだ当分は変わりそうにない。それでもSalesforce App CloudがPaaS市場で成功するためには、Herokuのレガシーに頼っているだけでは駄目だ。SaaSの草分け的存在であるSalesforceがPaaSで同じ成功を繰り返せるかどうかは、まだ定かではない。

Google「Google App Engine」

 「Google App Engine」(GAE)は、Googleのクラウドサービス「Google Cloud Platform」で最初にスタートしたサービスだ。動画メッセージングサービス「Snapchat」やモバイルゲーム「Angry Birds」などのアプリケーションがプラットフォームに採用している。創業からの数年間ダウンタイムに悩まされたTwitterなどのスタートアップ企業とは異なり、GAEを利用したアプリケーションはそうした問題とはほとんど、あるいは、全く無縁で済んだ。GAEは負荷分散とスケーリングを自動的に実施できるので、リソースの限られたスタートアップ企業にとって理想的なサービスだ。GAEはHerokuほどオープンな技術を採用しておらず、プロプライエタリなSQLデータベースとAPIを使用している。ただしGAEは「Amazon Web Services」(AWS)などのIaaSと比べて、アプリケーションの開発とスケーリングを大幅に簡素化できる。マイナス面としては、GAEは2016年に一度大規模障害を起こし、Snapchatも含め、GAEを利用したアプリケーションの21%が停止するという事態を招いたことがある。ただしこれは例外的なケースであり、その他の点においては、GAEはPaaS市場における手堅い有力候補の1つである。

AWS「AWS Elastic Beanstalk」

 IaaS市場のリーダーであるAWSは、「Amazon Elastic Beanstalk」というPaaSを提供している。企業がElastic Beanstalkを選ぶ理由の1つに、NoSQLデータベース「Amazon DynamoDB」や運用監視ツール「AWS CloudWatch」、ストレージ「Amazon Simple Storage Service」、アクセス制御「AWS Identity and Access Management」といったAWSの各種サービスとの連携がある。AWSでインフラを構築した経験がある人ならば、使い慣れたAWSのコンソールとツールでPaaSベースのアプリケーションが管理できる。HerokuもAWSのIaaS上に構築されているが、Elastic Beanstalkの方がAWSの仮想サーバ「Amazon Elastic Compute Cloud」(Amazon EC2)を管理しやすい。Elastic Beanstalkは、利用者による独自のカスタムプラットフォームの作成もサポートする。これを理由に、HerokuからElastic Beanstalkに乗り換えたユーザーもいる。ただしこうなるとIaaSとPaaSの区別は曖昧となり、PaaSとは何かという疑問が浮かぶ。その答えは企業とアプリケーションによって異なるだろうが、検討に値する疑問ではある。

Red Hat「Red Hat OpenShift」

 「Red Hat OpenShift」はオープンソースソフトウェアを基盤とするPaaS型クラウドサービスだ。近年開発者の間で人気のコンテナ技術「Docker」とコンテナ管理ツール「Kubernetes」に重点を置くことで他社との差別化を図り、自らを「エンタープライズクラスのコンテナプラットフォーム」と称している。Red Hatはこの製品で開発者の支持を取り付けようと力を注いでいる。従来Red HatはIT部門にソリューションを販売してきたが、PaaSのターゲットとなるのは開発者だ。Red HatはOpenShiftでパブリッククラウドとプライベートクラウドにわたる単一のプラットフォームを提供することを目指しており、この目的のために、OpenShiftをAWSやGoogle Cloud Platformといったパブリッククラウドプラットフォームに対応したバージョンを提供している。Red Hatは従来、ベンダーロックインを嫌う企業の間で大きな成功を収めてきた。飽和状態のPaaS市場において、OpenShiftが影響力を発揮できるかどうかは、まだ定かではない。

Microsoft「Azure App Service」

 Microsoftは2015年、PaaS「Azure App Service」を発表した。Azure App Serviceでは、Webアプリ、モバイルアプリ、APIアプリ(APIを構築し利用できる)、ロジックアプリ(ワークフローやビジネスプロセスを自動化できる)に加え、サーバレスアーキテクチャを実現する関数アプリ(Azure Functionsの関数)を作成できる。クロスプラットフォーム化という時代の流れに合わせ、MicrosoftはAzure App Serviceで構築したアプリケーションをどのプラットフォームでも実行可能にしている。Azure App Serviceは目下、PaaS市場への最新の参入者として足固めを図っている段階だ。

新勢力

 上述したベンダーはいずれもIaaSとSaaSで既に人気を確立し、各種ソリューションを販売するための十分な資金力を有している。一方、PaaS市場での成功を目指し、こうした大手に戦いを挑んでいる新勢力もある。その代表格Cloud FoundryはオープンソースのPaaSだ。こうした新勢力に共通するのは、DockerとKubernetesを全面的に採用していることだ。Cloud FoundryやEngine Yard、ApprendaといったPaaS事業者は、市場を席巻中のコンテナ技術の時流に乗るべく、DockerおよびKubernetesとの統合強化を発表している。

 PaaS市場はまだ動き始めたばかりだ。アプリケーションは今後10年間で徐々に、基盤インフラを心配する必要のないDevOpsチームによって導入されることになるだろう。そこでPaaSの出番だ。当初の予想より時間はかかっているが、興味深い動きは確かに進んでいる。

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