注目のPaaSベンダー6社が一堂に会し、6社7サービスの特徴やターゲットについて語ったミーティングの前編。「どんなPaaSがあるのかが分からない」「サービスの違いがよく分かない」という人は必見!
2011年後半から2012年にかけて少しずつ増えてきたPaaS(Platform as a Service)。2013年も数々のサービスが公開を迎えようとしている。今回は注目のPaaSベンダー6社に、PaaSサービスの現状や料金モデル、今後の見通しなどを語ってもらった。前編では各PaaSサービスの特色をリポートする。
粟津和也(インターネットイニシアティブ マーケティング本部 新規ビジネス開発部)
今中崇泰(Engine Yard ソリューション マネージャー)
岡本充洋(セールスフォース・ドットコム マーケティング本部 ディベロッパープログラムマネージャー)
草間一人(NTTコミュニケーションズ クラウドサービス部 ホスティング&プラットフォームサービス部門)
五月女 雄一(ニフティ クラウド事業部 クラウドビジネス部)
西谷圭介(TIS IT基盤サービス本部 IT基盤サービス企画室主査)
林 雅之(国際大学GLOCOM客員研究員)
――提供するPaaSサービスの強みを1人5分程度でご紹介ください。席順で五月女さんから。
五月女 ニフティでは2012年7月31日からクラウドコンピューティング上でのアプリケーションの開発・実行環境として「ニフティクラウド C4SA」を提供しています。サービスのコンセプトは「アイデアをカタチに」。普段の仕事の中でツール化したら楽になる業務や、浮かんでは消えてしまいがちな面白いアイデアを、なるべく簡単・迅速にサービス化することをコンセプトにしています。そのためサービス利用の障壁はとても低く設定しています。
特徴は3つ。1つ目はWebブラウザさえあれば開発ができること。サーバやアプリケーションのデプロイ、コマンドライン操作がWebブラウザでできます。スケールに関してはアプリケーションを展開した後に設定変更できますし、開発者やデザイナーなど複数のユーザーが同じ画面を見ながら開発することもできます。
2つ目はすぐにログインして使えることです。Facebook、Twitter、@nifty IDなどのアカウントでログインできるので、開発に着手するまでが早いです。
3つ目は豊富なフレームワークです。PHP系、Ruby系、Perl系、Python系開発環境の他、24種類の開発セットを用意しています。ブログツールやECサイトツールなどはボタン1つで作れます。つまり、ログインしてからマウス操作だけでアプリケーション開発に取り掛かれます。支払いはクレジットカード決済、請求書決済が可能です。個人から法人まで幅広く取り込んでいきたいです。
粟津 インターネットイニシアティブ(IIJ)の「MOGOK」は、Ruby on Rails(以下、Rails)アプリケーションの開発・実行環境を提供するサービスです。現在はβ版で、有償版の提供開始は2013年3月ごろを予定しています。Railsは開発者だけでなくデザイナーにも使われているフレームワークです。MOGOKはサーバを意識せず本業に集中したい方や、インフラの知識がない方でもアプリケーションが開発しやすいよう工夫されています。
幾つかある特徴の中に、IaaS(IIJ GIO)連携があります(IIJ GIOの関連記事:高品質なネットワークと豊富なサービスメニューを備える国産クラウド「GIO」)。自社のIaaSを基盤にしているので潤沢なリソースを用意してあるだけでなく、ストレージにSANを利用したり、インターネットVPNや広域イーサネットで企業のWANにつなぐ、専用リソースとして物理マシンにデプロイするといった既存のIIJサービスで提供している機能も取り込めます。
次に、IIJはサポートを重視する会社ということ。IIJ GIOの実績を基に日本の商習慣に合わせたサポートを提供しています。メールによる質問には全て回答しています。「PostgreSQLからMySQLに移行したい」といった内容にも回答しています。プログラミング言語は多言語に対応しない代わりに、Railsに特化することでサポートの付加価値を高めています。
そして、セキュリティが強固です。RubyだけでなくMySQLなどのミドルウェアやWebサーバの脆弱性が出た際には早ければ数時間後には対応しています。IIJ自体がセキュリティ監査チームを持っており、その監査を受けなければ外部にサービスを提供できない仕組みになっています。IIJの他のサービス同様にセキュリティは堅いといえます。
また、まつもとゆきひろさんが会長を務めるRubyアソシエーション認定クラウドサービス事業者のGold認定を持っている点も強みです。ユーザーからのRubyに関する問い合わせに対して適切なサポートができることが外部認定されています。
今中 「Engine Yard Cloud」はエンタープライズ要件にも耐え得る商用グレードのPaaSとして、アプリケーションの実行環境を提供しています。サービスの歴史は比較的古く、2006年にRubyのアプリケーション実行環境を提供開始しました。現在はRuby、PHP、Node.jsなど広範なアプリケーションに対応しています。IaaS部分にはAmazon Web Services(AWS)とTerremarkを使っています(AWSの関連記事:コンピュータリソースを無制限に活用できる「Amazon Web Services」)。
特徴は3つ。1つは商用グレードソリューションであるということ。世界60カ国の本番環境に数千のユーザーを抱えています。中には5000インスタンスまでスケーリングさせているユーザーもいます。AWSとTerremarkの複数リージョンにまたぐフェイルオーバーに対応することで、高可用性とセキュリティに備えています。また、シングルテナント方式によって、メモリ、CPU、データを他のユーザーと共有しない、インスタンスの完全割り当て方式を実現しています。そのため、ライブラリやランタイムなどコンポーネントのバージョンアップも、各ユーザーがベストなタイミングで行うことができます。また、バージョンアップのテストをする際など、本番環境と完全同一のデータ・構成環境が必要になった場合に、数クリックで環境を複製するクローン機能も便利な機能です。
2つ目はオープンアクセスによるカスタマイズ性です。SSHで全てのログや構成ファイルにアクセスできる上、Opscode Chefのレシピを用いた自動構成変更も可能です。それにより、データベースやWebサーバのパラメータ調整といったチューニングも可能です。テクノロジースタックのコンポーネントは、データベースであればPostgreSQL、MySQL、NoSQLなど複数から選べ、開発フレームワークやアプリケーションサーバも複数から選択することができます。また、Engine Yard Cloudを構成するコンポーネントはOSSであるため、商用利用した場合にライセンス違反にならないかどうかを確実にチェックしているため、安心してご利用いただけます。その他、事前検証されたサードパーティーのアドオンも多く提供しており、それらアドオンを簡単に連携できます。
3つ目はサポートです。サポートエンジニアはセキュリティのトレーニングを受け、CISSP認定を持つエンジニアも対応に当たります。また、お客さまのアプリケーションを監視する中で、潜在的な問題や障害予兆が見られた場合にEngine Yard側からチケットを切り、障害発生を未然に防ぐサービスを提供しています。こうしたプロアクティブなチケット発行が全体の23%を占めています。それ以外にはプロフェッショナルサービスがあります。データベースのクラスタリング、マルチリージョン災害復旧、セキュリティ監査、アーキテクチャ評価、パフォーマンス改善、ペアプログラミングなど、商用ニーズに応える多彩なサービスを取りそろえています。例えばアーキテクチャ評価では、お客さまがあまりにもシステムリソースを投資しすぎている場合に、スケールダウンの提案をすることもあります。
西谷 TISの「eXcale」は、ライトな開発者をターゲットにしたスピーディーでシンプルなWebアジャイル開発環境です。2012年10月15日にβ版をローンチしました。本格的なリリースは2013年の春から夏にかけてを予定しています。コンセプトは「開発者を楽に」。Webアプリケーションの開発・公開に必要となるインターネット接続、Webサーバ、データベースサーバ、アプリケーションを用意し、開発者にはコーディングだけに集中できる環境を提供します。対応するプログラミング言語はRuby、Java、PHP、Node.js。アプリケーションごとにユニークなURLを提供します。基盤はAWSです。
eXcaleの特徴は、ユーザーが何もしなくてもシステムの負荷に合わせてインスタンス数がスケールアウトすることです。もちろん、最大値/最小値は設定可能です。アプリケーションをデプロイすれば、負荷と同時にスケールアウトし、収まればスケールインしていきます。インフラのリソースを気にせずにサービスを公開することができます。
デプロイ方法としてはGitによるプッシュに対応していますが、Git以外のバージョン管理システムで管理していることも多いことからファイルのアップロードによるデプロイも可能としています。サービスを使うために特別必要なものはなく、eXcaleで動くアプリケーションはどこのPaaSでも動くというスタンスでいます(逆もまたしかり)。サービスが成長したら卒業してもらうことを前提とし、ロックインしない戦略をとっています。
岡本 Salesforce.comではPlatform ServiceとしてForce.comとHerokuの2種類のPaaSを展開しています。aPaaS(アプリケーションPaaS)がForce.comで、iPaaS(インテグレーションPaaS)がHerokuという位置付けです。
Force.comは社内アプリケーションや業務アプリケーションの開発に適しています。プログラミングをしなくてもポイント&クリックで8割のアプリケーションが開発でき、誰にでも使えるのが特徴です。経費精算のアプリケーションなどはデータの項目を入力するだけでデータベースも含めて自動生成されます。後は表示/非表示などレイアウトを調整するだけです。もし、jQueryのUIを使ってアプリケーションを作り込みたいとか、ステータス管理をするアプリケーションを作りたいなど、プログラミングが必要な場合はWebブラウザ上でコードが書けます。Apexという独自言語ではありますが、Javaに似ているので覚えやすいです(Force.comの関連記事:豊富なテンプレートを備えたアプリケーションプラットフォーム「Force.com」)。
一方のHerokuは、完全オープンなプログラミング言語を使うためのプラットフォームです。対応プログラミング言語はRuby、Java、Pythonなど。Buildpackを提供しているので、自分の好きな言語のBuildpackを使ってHeroku上で動作させることができます。
特徴はAWSを基盤としたサーバを意識させない構成です。Herokuコマンドを打つだけでサーバが立ち上がったりURLが出来上がったりします。他には、多数のプログラミング言語やフレームワークに対応していること、アプリケーションの稼働状況を可視化できること、豊富な実績があります。今Herokuで動いているアプリケーションの数は約250万個。勢いのあるITベンチャー企業の実績が多数あります。
また、アドオンが充実している点も特徴です。標準データベースはPostgreSQLですが、Amazon RDSやMongoDBを使うこともできます。大量メール配信をするツール、HadoopとHiveを利用してビッグデータを分析する「Treasure Data Hadoop」なども人気です。
草間 Cloudn PaaSはOSSであり、マルチ言語、マルチサービス、アンチベンダーロックインが特徴のPaaS、Cloud Foundryをベースにしています。現在は2013年3月末のリリースに向けて、一部のお客さまに限定公開中です。
Cloud FoundryはPaaSのコアの仕組みでしかなく、ログ収集・検知などの機能はほとんど存在しません(関連記事:.NET環境も構築できる、Cloud Foundry4つの強み)。そのためCloudn PaaSでは独自にログ基盤、コントロールパネルを作り込んでいます。また、Cloud Foundryは信頼性に優れたアーキテクチャですが、まだ単一障害点が幾つか残っています。NTTコミュニケーションズとしては、独自の方法で冗長化を実現するなど、信頼性向上を図っています。
IaaS基盤にはCloudnを採用しています。ネットワークも含めてNTTコミュニケーションズで提供することで、IaaS側で障害が起きたときやスケールしたいときなどに素早く柔軟に対応できます。IaaS上でお客さま独自に構築したデータベースをPaaSと連携させることもできますし、IaaSのメモリなど、リソース割り当てをPaaSと同じコントロールパネルで設定することも可能です。ログも見られます。
――続いて、各PaaSのターゲットについて伺います。ニフティクラウド C4SAはコンシューマー、IIJは開発初心者、TISはスタートアップ企業、Force.comは業務部門、HerokuとEngine Yard Cloudはコアな開発者向けの作りになっていますよね。それぞれどういった人たちにどのような使い方を想定しているのでしょうか。先行している事業者からお願いします。
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