ニッポンの製造業が飛躍するためのIT戦略を探るガートナーに聞く「製造業ITの未来」【後編】

これから日本の製造業がよみがえり、再び世界に向けて飛躍するためには、具体的にどのようなIT戦略を取るべきなのか? 前編に引き続き、ガートナー ジャパンの中村祐二氏に聞いた。

2009年06月16日 08時00分 公開
[吉田育代]

 前編「製造企業が“今”を乗り切るためのIT投資の在り方」では、ガートナー ジャパン ガートナーコンサルティング マネージング・ディレクターの中村祐二氏に、製造業全般において今後取るべきIT投資の大まかな指針について聞いた。後編の今回はもう少し深掘りすべく、製造業の企業タイプ別に取るべきIT戦略について中村氏に聞いた。

製造業は大きく3タイプに分類できる

ガートナー ジャパン
ガートナーコンサルティング マネージング・ディレクター
中村祐二氏
専門分野:事業戦略/SCM/CRM/BI
大手外資系コンサルティング会社を経て、現在ガートナー ジャパンにおいてコンサルティング部門を統括。事業・マーケティング戦略立案、グローバルSCM、R&D業務改革、CRM・営業改革、組織改革、ITビジョン策定からシステム導入、ITマネジメント・アウトソーシングマネジメントの強化などを手掛ける。

 一口に製造業といっても企業のタイプはさまざまであり、それぞれ取るべきIT戦略は異なってくる。中村氏は、製造業のタイプは大きく3つに分類できるという。

 第1のタイプは「技術主導型」製造業だ。これは、高い技術力を有し、その能力で競争優位を維持している企業である。日本でいえば、自動車メーカー大手がその代表的な例だ。

 第2は「マーケティング主導型」製造業である。このタイプの企業は、技術力そのものに大きなブレークスルー要素や独自性は少ないものの、巧みな市場調査能力とマーケティング力で他社との差別化を実現し得る力を持つ企業のことだ。アップルなどがその典型といえよう。

 第3は「オペレーション・エクセレンス型」製造業だ。その企業ならではの特別な技術力やマーケティング力があるわけではないが、すべての業務プロセスにおいて効率性を追求し、その効率性の高さ故に他社との競争を有利に進めるという企業だ。

 では、それぞれの企業タイプ別に取っていくべきIT戦略とはどのようなものになるのだろうか。

「技術主導型」は冷徹な姿勢で投資判断を

 まず技術主導型製造業の場合、世界市場を見据えてグローバルに事業展開を行っている企業が多い。そのため、ビジネスプロセスと同様にIT投資もまた、海外拠点まで含めたグローバルレベルでの全体最適化を目指したものであるべきだ。

画像 「同じ製造業でも、企業タイプが異なれば取るべきIT戦略も異なる」と中村氏

 しかし、まだ多くの製造企業は日本国内拠点のIT化にリソースやコストを掛け過ぎていると中村氏は指摘する。

 「『わが社は日本企業である』『わが社は日本に本社がある』という理由だけで、日本国内のIT投資を偏重すべきではない。開発能力の獲得やタイム・ツー・マーケットの短縮、人件費や資材調達費の削減のために海外へのシフトを進めているのであれば、またそれで利益を確保しているであれば、IT投資もその利益への寄与度に応じて配分するべきだ。日本企業だから日本にお金を掛けてもいいじゃないか、というのでは筋が通らず、結果として戦略と投資のインバランスが生じて経営パフォーマンスが劣化し、資本までもが逃げていってしまう」(中村氏)

 いみじくもグローバル企業としての発展を目指すなら、余計な私情を交えることはなるべく避け、常に全体最適化を考えて冷徹な姿勢でIT投資を行っていくのが正しい在り方というわけである。

 これを行うために中村氏が勧めるのが「IT投資のパターン化」だ。これは前編で同氏が語った「コア分野とノンコア分野の分類」に似た手法かもしれない。高付加価値を生み出す業務分野に関しては、手を掛けることをいとわず「複雑なIT」を容認するが、高い費用対効果が望めない分野については「ぜい肉をそぎ落としたIT」「簡便なIT」でよしとする考え方だ。

 中村氏は、後者のパターンに分類すべき代表例としてERPを挙げる。ERPといえば、一般的には当初の意図に反して複雑なITとなった典型例のように思えるが、同氏は「ポストERPはERP」と語る。この言葉が意味するのは、これまでの日本流の複雑なERP導入方式の代わりに、別のアプローチでのERP導入が行われていくようになるということだ。

 「ERP導入が一大事業になってしまうのは、『ERPでベストプラクティスを』というスローガンを誤解しているからだ。高機能化や便利さを追求してきた日本企業にとって、『ベスト』というのは言い換えると『複雑な』こと。しかし、既製品であるERPパッケージにそれを求めるのは困難だ。だからといって、ERPパッケージがカバーしている領域を自社開発した方がいいのかというと、そういうわけでもない。一時的にコストを低く抑えられるかもしれないが、後々までのメンテナンスのことを考えると選択すべきではない」(中村氏)

 そこでカギとなってくるのが、「ぜい肉をそぎ落とした」ERPパッケージの選択ということらしい。ここでいう「ぜい肉」とは、あらゆるケースを想定して機能を盛り込むだけ盛り込むこと。それを減らすということは、本当に必要で需要が高い機能だけに絞り込んでしまうということだ。特に技術主導型製造業にとっては、「ERPがカバーする機能領域を考えれば、『ベストプラクティス』のベストは、『高機能』ではなく『事が足りる』と読むべきである」と中村氏は言う。

 しかし、これではもしかするとユーザー側から「それでは仕様が不十分だ」と反論が出ることもあるだろう。それに対しては、中村氏はこう答える。

 「これまではユーザーが『こんなものを作りたい』と言うと、作り手側は難しいと思いながらも反証せずにこれを受け入れて、結局最後にはプロジェクトが火を噴くという事態に陥りがちだった。しかし本来は、ユーザーが『こういう機能が必要』と言う際には、その機能を実装した場合の費用対効果を立証する責任はユーザー側にあるはずだ。『それができないなら作らない』というぐらいの、ユーザーを過度に甘やかさない姿勢も持った方がいい」

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