7つのムダに対処する
リーン方式の導入でITとビジネスの俊敏性を高めるには
「トヨタを超える」ために必要なのはビジネスの俊敏性であり、それを実現するにはリーン方式を実践することが不可欠だ。
もう何年も前のことになるが、「Harvard Business Review」誌の記事に強く触発されたことがある。「Beyond Toyota -- How to root out waste and pursue perfection」(トヨタを超えて――ムダをなくし、完ぺきを目指すには)と題されたその記事には、ケンタッキー州ルイビルに本社を置くLantechという企業が、リーンな思考・ツール・手法(このケースではトヨタ生産方式を指す)を利用して業務プロセスを劇的に改善した事例が紹介されていた。
わたしはそれ以来、業務プロセス改善の取り組みや、IT部門とビジネス部門の俊敏性の改善に向けた取り組みに着手する際に、ITチームのスタッフにこの記事を最初に読ませるようにしてきた。そこに紹介された事例は、改善への意欲と反復可能な手法(この場合はリーンツール)が結び付くことによって、どんなことが可能になるかを示す好例だ。
わたしはリーン手法から、7つのムダ、そしてこれらのムダとITプロセスがどう対応しているのかを学んだ。
7つのムダ
- 手直しのムダ:ITプロセスでは頻繁に手直しが求められる
- 手待ちのムダ:IT部門が何かを決定するのに際して、その分野の専門家の意見を待たなければならないことが多い
- 加工のムダ:調査によると、開発されたソフトウェア機能の64%がほとんど利用されていない
- 在庫のムダ:最近の調査の結果、ソフトウェアライセンスの約40%が「シェルフウェア(一度も使われないソフトウェア)」であることが分かった
- 動作のムダ:IT運用状況報告システムの多くは、価値ではなく混乱を生み出している
- 運搬のムダ:プロジェクトが複数の意思決定ループの中で堂々巡りをして悩んでいるCIOはわたしだけだろうか
- 作り過ぎのムダ:多くのIT部門が、ジャストインタイム方式ではなく大量にライセンスを購入している
こうしたムダに対処すればプロセスを改善でき、ひいてはIT部門への信頼向上にもつながる。しかしムダをなくすことが成功の保証となるのだろうか。正しい方法で行っているという保証だけでなく、正しいことを行っているという確証はどこにあるのだろうか。わたしはリーン方式の限界を超えるにはどうすればいいかを考え始めた。
わたしはやがて、「トヨタを超える」ために必要なのは俊敏性であるという確信に至った。これはソフトウェアのアジャイル開発という意味ではなく、ビジネスの俊敏性という意味だ。急速な技術革新と市場での競争激化に伴い、企業の置かれている状況は極めて短期間で劇的に変化する可能性がある。かつては好調の波に乗っていたものの、今では時代に取り残されたという企業は数え切れない。どれだけ多くの企業が絶頂から転落して消滅しただろうか。ITの能力の1つが俊敏性だとすれば、ITを活用することで変化に素早く対応できるはずだ。ITの俊敏性を最大限に活用すれば、市場をリードし、自社の動きに他社が対応しなくてはならないという状況を作り出せるかもしれない。
ビジネスの俊敏性を実現するには、リーン方式を実践することが不可欠だ。ITプロセスが複雑かつ官僚主義的でムダだらけであれば、かえって俊敏性の妨げになるだろう。
フォーカスも必要だ。何にフォーカスしてもいいというのではない。持続可能な競争優位、すなわち現在あるいは将来の競合企業と比べて自社が得意とする1つの分野にフォーカスするということだ。ITによるイノベーションと創造性を、一度に1つのビジネスニーズに持続的に対処することに集中すべきなのだ。
効果的で俊敏なIT文化を築くには信頼関係も必要だ。IT部門の考えや行動に対する疑念はやがて、意思決定や計画の実施を妨げる大きな障害となりかねない。信頼関係があれば、市場と顧客から重要な洞察が最もタイムリーに得られる組織の外縁部分にまで意思決定の影響を及ぼすことができる。
また、ITの俊敏性とビジネスの俊敏性の実現にはコラボレーションも不可欠だ。ことわざにもあるように「1人の知恵よりもみんなの知恵」なのだ。組織内だけでなく、サプライチェーンと市場チェーン全体を通じて協力する必要がある。そうしなければ、有望な解決策や変化の兆候を見逃してしまう恐れがある。特に、後者を見逃すことは、ビジネスの俊敏性を損なうことにもなりかねない。
ITによるイノベーションを企業の喫緊の課題に対応させることにより、ITプロセスとビジネスプロセスの両方を継続的に改善することが可能だ。わたしの場合で言えば、仮想化に関する能力は特に強く求められているわけではないが、ビジネスインテリジェンスについては、ビジネス部門が製品、顧客、競合他社、市場に関して正しい判断を下せるようにするために、競合企業よりも高い能力が求められている。わたしはまず信頼を構築する必要があり、部下や同僚からの信頼を失うことによる損失の大きさを常に意識するようにしている。そして、コラボレーションを基本とした考え方をするよう心掛けている。さらに一歩進んで、コラボレーションを容易にするような技術を導入すべきだと感じている。
われわれITリーダーは、「リーン方式を超える」上で重要な役割を果たすことができる。ITリーダーは自社のITプロセスに精通しており、ITを利用して持続可能な競争優位を実現する方法を見つけることができ、信頼とコラボレーションをモデル化することができる。実際、これらを実行することが「CIOを超え」、ITリーダーではなくビジネスリーダーとして認められるための鍵になりそうだ。
本稿筆者のニール・ニコライゼン氏は米HeadwatersのCIO兼戦略計画担当副社長。
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