Windows Azure導入前に確認すべき3つの項目自社システムのAzure適性チェック

Microsoft製品を広く採用している企業にとっては魅力的に映る「Windows Azure」だが、自社システムの運用状況によっては導入しない方がよい場合もある。Azure導入前に確認すべき3つのチェック項目を紹介する。

2011年07月05日 09時00分 公開
[Tom Nolle,TechTarget]

 クラウドコンピューティングは、従来のコンピュータベンダーとソフトウェアベンダーの呪縛から逃れる手段と見なされる場合もある。しかし、ほとんどの企業は、サービスが自社の導入済みシステムと投資にどの程度統合できるかによってクラウドの価値が決まることに気付いている。

 米Microsoftの製品は社内ITに広く採用されているため、同社のクラウド戦略はユーザーにとって特に重要だ。多くのユーザーにはMicrosoftのクラウドは魅力的に映るだろうが、導入できないと判断される場合もあるだろう。さて、読者はどちらになるだろうか。

 Microsoft Azureのバリュープロポジションは、「ピーク負荷と高可用性を念頭に、ユーザーが自社のITインフラを設計する必要がある」という考えに立脚している。この2つの要件に対応するには、多大な予算が必要だ。そこで、Azureソリューションでは、平均の負荷を超えるワークロードが発生した場合に、クラウドコンピューティングで対応できるようにする。また、必要なレベルの可用性を通常のデータセンターコンポーネントでは実現できない場合に可用性の確保を図り、アプリケーションリソースをバックアップできる。

 つまり、大半のクラウドアーキテクチャとは異なり、Azureではオンプレミスとクラウド間の柔軟なワークロード分散を基盤とする(参考:オンプレミスとの連携を意識した「Windows Azure」)。これは、ワークフロー管理(Azure Service Bus)など、さまざまなサービス指向アーキテクチャ(SOA)の概念を採用することで実現される。

 Azure内には、Microsoftが「ロール」と称する複数のサブプラットフォームが含まれる。例えば、WebロールはAzureアプリケーションへのインターネットアクセスを提供し、Azureアプリケーションがオンラインサービスとして機能できるようにする。WebロールはスクリプティングとHTMLツールを基盤とし、MicrosoftのIIS(Internet Information Services)にホスティングされる。ワーカーロールは、Windows Serverの実行可能タスクで、Azureクラウドアプリケーションと企業のデータセンターとをAzure Connectを介してリンクするなど、任意の機能を実行できる。また、仮想マシンロールを使用すれば、Azureに対応していないWindows Serverアプリケーションをホストできる。

 これは、「Azure対応のアプリケーションを開発し、大手サプライヤーが提供する最も作り込まれたハイブリッドのクラウドITアーキテクチャを利用する」というMicrosoftのビジョンを明確に表している。リンクを前提としていないリソースを組み合わせてハイブリッド化を図っているほとんどのクラウドサービスとは一線を画し、Azureはリンク可能なITアーキテクチャとなっている。自社のデータセンター内にこのアーキテクチャを導入する場合はAzure Platform Applianceを使用する(Microsoftもこの方法でデータセンターを運用している)。これで、プライベートクラウドが構築され、このクラウド内に仮想化アーキテクチャを展開でき、(Azureクラウドサービスを使用していない場合でも)サーバ使用率とアプリケーションの可用性を向上できる、非常に拡張性が高く管理しやすい手段が手に入る。

Azureに対する適性をチェック

 データセンターの大部分がWindows Serverベースであり、Windows Serverのライセンスを現行のまま維持し、(機能的にもデータ的にも)Windows Serverアプリケーション間の統合の度合いが高い場合は、運用しているWindows Serverシステム全体をAzure内の仮想マシンロールに移行できる可能性が高い。また、仮想マシンロールに移行した後に、Azure対応アプリケーションに切り替えていけるだろう。

 ほとんどのユーザーにとって、最も基本的なチェック項目は「仮想マシンロールに対応できるITアプリケーションはどの程度あるか」だ。答えが「全くない」か「ほとんどない」である場合は、恐らくAzureへの移行は妥当とはいえない。また、データセンターでLinuxなどのOSを使用している場合も、Azureは魅力的な選択肢ではない。

 従って、データセンターに仮想化を大々的に導入している場合も、Azureのメリットは色あせる。Azureには社内システムの効率を向上させると同時に、クラウドへのアプリケーションのバックアップ機能とオフロード機能を利用できるという、二重のメリットがある。しかし、オンプレミスの仮想化によって、既にいずれかのメリットが実現できている場合がある。また、仮想化を行う場合はLinuxを使用するケースが多いため、移行に値するWindows Server群がないことも考えられる。

 2つ目のチェック項目は、「カスタム開発したソフトウェアまたはAzure対応ソフトウェアが、運用中のアプリケーションベースに占める割合はどの程度か」ということだ。Azureに対応できないWindows Serverアプリケーションが多数ある場合は、Azureがもたらすであろう価値は薄れる。データセンター(Azure ConnectまたはAzure Platform Applianceを利用)とクラウドの両方を含む“Azureドメイン”内で柔軟に負荷を分散できる機能の効果は一定ではない。この機能を活用できればできるほど、Azureがニーズを満たすレベルも上がる。

 3つ目のチェック項目は、「現在の運用システムは、どの程度SOA化されているか」だ。AzureのAppFabricは基本的にSOAフレームワークであり、サービスバスはSOAエンタープライズサービスバス(ESB)のオンライン版に相当する。既にMicrosoft互換のSOA/ESBソフトウェア製品またはコンポーネントを開発しているか購入している場合は、さらにAzure専用アプリケーションに移行して、Azureのメリットを最大限享受できるだろう。SOAを実装しておらず、知識もない場合は、知識習得とソフトウェアの入れ替えが必要になるため、Azureの導入は難しくなるかもしれない。

 MicrosoftのAzureは、IaaS(サービスとしてのインフラストラクチャ)型の汎用クラウドプラットフォームではなく、むしろクラウド界のWindows Serverといえる。Microsoftのパートナーベンダーにとっては、スキルを流用できるため、それだけで有利だ。Microsoft SOAの基本原理をクラウドコンピューティングにも応用することで、最強のクラウドオプションを提供できる可能性がある。

本稿筆者のトム・ノル氏はCIMI Corporationの社長。同社は1982年以来、テレコムとデータ通信を専門に手掛けてきた戦略コンサルティング会社。最新の通信戦略問題を扱った雑誌「Netwatcher」の発行人も務める。

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