サービスの提供効率とガバナンスをどう両立するか?【第2回】
ITIL導入、最大の失敗理由とサービスデスク改善の秘訣
ITIL支援製品を導入しても成果が得られない理由とは何か? サービスデスク業務の勘所を開発コンセプトに盛り込んだ「Senju Service Manager 2013」に、ユーザー満足度を効率的に高めるためのポイントを探る。
仮想化、クラウドの浸透はITリソースの調達を手軽にした。その半面、業務部門が勝手にSaaSを使ってしまうなど、コストの無駄やITガバナンスの乱れを招く事態も増えている。リソース調達の柔軟性とガバナンス担保を両立する上で、ITサービスのライフサイクル全般をITILに沿って効率的に管理できるサービスデスク製品が見直されている。
ただ、サービスデスク製品が求められる背景にあるのは、仮想化、クラウドの浸透だけではない。日々発生する多数のインシデントをMicrosoft Excel、Accessなどで管理しているために管理効率が悪く、確実・迅速な対応が難しくなっているというケースも多い。ITILに沿った管理プロセスの導入を試みたが、現場に定着せず、形骸化している企業も少なくない。
こうした課題を受けて、スモールスタートでのサービスデスク業務改善を提案しているのが野村総合研究所(以下、NRI)だ。同社はサービスデスク製品の最新版「Senju Service Manager 2013」を2013年2月から提供。オンプレミス版とSaaS版を用意し、ITILで定義されているプロセスのうち、できるところから導入し、徐々に導入規模を拡大していくアプローチを勧めているという。
プライベートクラウド導入に関する記事
大切なのは、ITILそのものではなく自社に即した運用プロセス
「2008年ごろ、日本国内でITILが注目された当時にはまだITILに対する理解が浸透しておらず、『支援製品の導入=ITILの導入』と捉えられている傾向が強かった。しかし大切なのはITILを導入すること自体ではなく、インシデント管理、問題管理、変更管理、構成管理といったプロセスを自社に即した形できちんと運用し、ガバナンス担保とエンドユーザーの満足度を両立すること。弊社ではツールありきではなく、インシデントなどを確実に管理できるプロセスをユーザー企業と共に策定し、その上でツールを適用するスタンスをとっている」
こう話すのはNRI IT基盤インテグレーション事業本部 千手事業部 事業グループの寺井忠仁氏だ。Senju Service Manager 2013も、こうした考え方に基づいて多数の機能を実装しているという。具体的には、「インシデント管理」「サービス要求管理」「問題管理」「変更管理」「構成管理」といったITILで定義されているプロセスを実践するための各種機能に加え、任意のプロセスで各種管理を行うための「プロセス管理」機能を持つ。
ITILの各プロセスに応じた機能をそろえることによって、例えば「インシデント管理の次は変更管理を行う」といった具合に、ユーザー企業に即した運用プロセスを定義し、無理なく定着を狙える仕組みだ。「インシデント管理」「サービス要求管理」「問題管理」といった各機能も基本テンプレートを用意しており、その設定を変更することでカスタマイズすることなく自社に即した形に定義できるという。
特徴は大きく3つ。1つ目はインシデント管理とサービス要求管理を分けていること。「インシデントは見落としたり放置したりしてしまうと重大な障害につながる可能性がある。1日に数十~数百件寄せられるサービス要求とインシデントを分けて管理することで、それぞれに確実・迅速な対応ができるよう配慮することが大切だ」(寺井氏)
過去に発生したエラーや、よくある問い合わせなどを登録し、随時参照できる「ナレッジ」機能も持つ。これにより、インシデントやサービス要求への対応を効率化・迅速化する他、ナレッジをFAQとして公開して問い合わせ回数を削減するなど、業務負荷の低減も狙える。
この他、各インシデントへの作業内容を自動設定するとともに、対応状況のステータスを一覧表示する「チェックリスト」機能、エンドユーザーからのサービス要求、開発担当者からの運用申請を多段階で承認する「ワークフロー」機能も搭載。インシデント対応と承認フローを確実に管理する仕組みを通じて、インシデントへの迅速な対応とガバナンスの徹底を支援するという。
2つ目の特徴は、各種ツールと連携可能なこと。電子メールの自動取り込み機能や、各種監視ツール、CTI(Computer Telephony Integration)ツールとの連携により、各種情報を管理画面上に効率的に集約できる。ベンダーを問わず利用でき、例えばサーバ監視ツールとして日立製作所「JP1」やIBM「Tivoli」など他ベンダーの製品を使っている場合も、監視ツールからのアラートを受けて、自動的にインシデント管理、問題管理に登録することも可能だ。
なお、監視ツールからのアラート内容が既知のものであり、人の判断を介する必要がない場合は、システム運用管理製品群「Senju Family」のうちRunbook Automation(運用手順書に基づく作業の自動化)機能を持つ「Senju Operation Conductor」と、さまざまなベンダーの運用管理製品との連携機能を持つ「Senju Enterprise Navigator」 の2製品を使えばアラート対応を自動化できるという。こちらはサーバ停止など、主に初動対応で使われるケースが多いそうだ。
そして3つ目は現場担当者にとって使いやすいユーザーインタフェース。要件に応じて管理画面の情報項目を追加・削除することで容易にカタスマイズ可能とし、必要な情報を直感的に閲覧できるよう配慮した。
管理画面上には、ログインユーザーの権限に応じてログイン可能なシステム名のみを表示する「入力サポート機能」や、インシデントの内容に応じて特定の情報入力ブロックの入力可/不可を自動制御する「項目活性・不活性自動制御」機能などを用意。無駄な入力の手間をなくし、必要な項目の入力漏れを防ぐことで、確実・効率的な作業を支援する。
運用自動化の関連記事
ITIL導入が頓挫しやすいポイントを回避
Senju FamilyといえばNRI自身も自社データセンターで使用し、自社スタッフやユーザー企業の声をきめ細かく反映しながらバージョンアップを重ねてきた“派手さはないが堅実な製品”として評価が高い。Senju Service Manager 2013も、ITILを導入する上でつまずきやすいポイントを見据えている点が1つのポイントといえる。
例えばCMDB(構成管理データベース)の構築はITIL実践の1つの核となるものだが、全社のITシステムの構成データ、各構成アイテムのデータを一元管理するのは現実的には難しいケースが多い。寺井氏も「全ての情報を1つのデータベースに集約しようとしても、必要な情報を全て集められなかったり、タイムリーに更新できず陳腐化してしまったりと、CMDBでITILの実践に頓挫してしまうケースは少なくない」とコメントする。
Senju Service ManagerのCMDBの場合、台帳ベースで管理するスタイルを取る。具体的にはクライアントPC資産の管理データベース、サーバ資産の管理データベース、構成情報の管理データベースなど、それぞれ個別に存在する既存データベースから必要な情報を取ってくる仕組みだ。これにより、例えばインシデント対応の際、そのエンドユーザーが使っているクラアイアントPCの型番やOSのバージョンなど必要な情報を瞬時に閲覧できる環境が整うという。
CMDBとして、各種システム/プロジェクトに関するサーバなどの機器構成と、各種機器を構成アイテムとして管理できる他、先に紹介したプロセス管理機能と連携することで、利用予定や廃棄予定のIT資産を、一連の申請・承認フローを通すことによって確実に把握・管理できる点もポイントだ。
この他、SLAで定めた条件に基づいてインシデントを集計し、チャートを使って現在のサービスレベルを可視化できる「SLAMチャート」機能や、インシデント管理、サービス要求、問題管理などの件数・内容などを任意の軸で分析し、グラフィカルなリポートを作成できる「データ分析」機能も搭載。これにより、リポート作成の手間を省くとともに、ITサービスマネジメントの現状を可視化し、着実かつ継続的な改善を促す。
「つまり、各種機能によってITサービスマネジメントを見える化、標準化、自動化して効率よくサービスライフサイクルを回していく仕組み。さらにSLAにKPIを設定することで継続的な改善を狙う。定義通りのITILに無理やり合わせようと考えるのではなく、自社の事情に沿う形で導入することで、エンドユーザーの満足度向上、無駄な投資の抑止、ガバナンス担保といった得たい成果を着実に獲得できる」
最も効果の上がるポイントからスモールスタートするのが効率的
事例も豊富にあるという。例えばシステム保守・運用サービスを提供しているSCSKもSenjuユーザーの1社だ。同社は大規模なシステムを持つ顧客企業が増えたことを受けてSenju Service Manager 2013を導入。現在は月間総数1000件を超えるインシデントを管理し、200人に上るスタッフで正確に情報を共有しながら、迅速な対応を実現している。ITILに準拠しながら自社に即した形でオペレーションを標準化し、属人的な対応を排したことは、サービスデスク業務の品質担保とコスト低減にもつながっているという。
なお、SCSKはSaaS版を導入している。寺井氏は「例えばIT資産管理ツールなど、オンプレミスで運用している他の既存システムとの密な連携が必要など、要件によってはオンプレミスが適している場合もある。だが、導入・運用コストを抑えられる点を評価し、SaaS版を選ぶ企業は増えている」と解説する。SaaSで導入してオンプレミス版に移行する、あるいはその逆も可能とし、状況に応じてシステムを選択・展開できる点もポイントだろう。
寺井氏は、「ITILの導入を一気に進めようとしても難しいため、まずは自社のサービスデスク業務のビジョンを策定し、今できる部分から取り組んでいく方法は非常に有効と考える。弊社では現在のサービスデスク業務のうち、最も改善効果が得られるプロセスを分析する運用プロセスアセスメントサービスも用意している。2008年当時に多かった“ITILありき”の導入ではなく、自社の運用実態に即したプロセスをあらためて検討してみてはどうだろう」と話している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
新着ホワイトペーパー PR
-
製品レビュー
「電子帳簿保存法対応」実践術:タイムスタンプ付与などの要件の手軽な実現方法 -
事例
「大企業のデジタル化」成功事例集【コクヨ、九州電力、ヨネックスなど21社】 -
製品資料
“顧客管理の課題”を簡単に解決する方法とは? -
製品資料
契約管理の“あるある課題”をノーコード開発で解決するためのポイント -
製品資料
揺らぐ境界防御 いま企業が特に警戒すべき「3つのセキュリティ課題」とは?
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「技術屋」で終わらないために 情シスが今取るべき認定資格5選
-
2
Microsoft製品でここまで自動化できる 情シスがやめられる手作業10選
-
3
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
-
4
自宅のWi-Fiが「遅い」「途切れる」本当の原因は? Dellが推奨する鉄則
-
5
継続利用は4割どまり M365 Copilotが「効く業務」と期待外れの境界
-
6
「即戦力」は幻想? 中途の3割が消えるAI時代のエンジニア生存戦略
-
7
画面をティッシュで拭くのはNG Dellが推奨するPCの正しいお手入れ方法
-
8
メインフレームは死なず AI活用で20年来の高収益をたたき出す基幹システムの底力
-
9
Oracle巨大ITプロジェクトはなぜつまずいたのか 8年で導入1割、追加で170億ドル
-
10
「企業におけるAIの運用」に関するアンケート
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
AIエージェントで多様な日常業務を効率化するための入門ガイド
-
2
AIが「わざわざ使うツール」になっていない? 業務で自然に使う導線にする秘訣
-
3
JR西日本ITソリューションズが「監視業務の属人化」を解消した方法とは?
-
4
5回聞くだけじゃ足りない? トヨタ式「なぜなぜ分析」の正しい実践方法
-
5
「脱Excel」か「Excel快適化」か? 現場にやさしい業務改善の進め方
-
6
インシデント対応工数を約3割削減、東京ガスの事例に学ぶ監視体制刷新のコツ
-
7
「結局、一部の人しか使わない」 AI活用が業務に定着しない根本的な理由
-
8
AIエージェントで成果は出る? 調査結果に見る費用対効果の実態
-
9
PostgreSQLの「機能」「性能」「運用」「拡張性」に関する悩みの解消法
-
10
ゼロトラストにおける「IDaaSの課題」と補完すべき重要機能とは?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー