サービスの提供効率とガバナンスをどう両立するか?【第1回】
ANAグループも採用、統制力とROIを高めるサービスデスクの作り方
仮想化、クラウドによってITリソースの調達が手軽になった今、情報システム部門には社外サービスに負けないサービス提供と確実なガバナンス担保が求められている。その実践のポイントを考える。
迅速・柔軟なサービス提供とガバナンスを両立するためには
仮想化、クラウドの浸透は、状況に応じた柔軟・迅速なITリソースの調達、配備を可能にした。だが一方で、仮想サーバが乱立したり、情報システム部門が関知しないSaaSが導入されたりと、その手軽さがガバナンスの乱れにつながる例も増えた。社内のエンドユーザーが勝手に外部のサービスを使うことを防ぐ意味でも、今情報システム部門にはタイムリーかつ安定したサービス提供とガバナンスを確実に担保することが求められている。
この実現を支援する製品がサービスデスク管理ツールだ。イベント管理、インシデント管理、構成・変更管理など、ITサービスに関する各種情報について、サービスのリリースから廃棄まで、ライフサイクル全体を管理して、ITサービスの品質担保、継続的改善を図る。国内でITILが注目された2008年ごろにも外資系ベンダーを中心に、複数の製品がリリースされたが、クラウドによって「サービス」という概念が浸透した現在、あらためてニーズが高まっている。本連載ではサービスデスク製品主要ベンダーの製品を事例と共に紹介する。
プライベートクラウド導入に関する記事
SaaS提供の「LMIS on cloud」
「クラウドの浸透により、システム運用を“ITサービスマネジメント”として捉えるユーザー企業は着実に増えている。障害対応1つとっても専門的な報告ではなく、具体的にいつ復旧できるのかなど、ビジネス視点の報告でなければ受け入れてもらえなくなりつつあるという声も聞かれる。情報システム部門として、いかにエンドユーザーに役立つ形でサービスを提供しながらガバナンスを効かせていくのかというテーマは、一大課題となっているといえるだろう」
こう語るのはビーエスピー プロダクト事業本部 ITサービスマネジメント部 部長の庄司 憲氏だ。同氏は「昨今はITILという言葉自体はあまり使われなくなったが、これはITサービスの品質向上、継続的な改善を狙うITILのプロセスが“当たり前”のことになった証左ではないか。現在はこの当たり前のことを、いかに確実かつ効率的に行うかが課題になっている」と話す。
そうした考え方に基づいて、同社が提供しているのがサービスデスク製品「LMIS」だ。ITIL v3で定義されている「イベント管理」「インシデント管理」「問題管理」「変更管理」「リリース管理」「構成管理」の各機能を提供し、全ての運用管理情報を一元管理可能とした。2008年にオンプレミス版を提供開始したが、2011年4月にはSaaS版「LMIS on cloud」もリリース。ハードウェアなどの初期コストを抑えられる他、定義が難しいサイジングの問題を回避できる点などが評価され、導入企業は着実に増えつつあるという。
LMISの特徴は大きく3つ。1つは「サービスデスク(受付ポータル)」「イベント管理」「インシデント管理」「問題管理」「変更管理」「リリース管理」「構成管理」の7つの基本テンプレートを用意し、各テンプレートに設定変更機能を持たせたこと。「情報の集め方、管理の仕方、承認フローなどは各社異なるが、設定変更機能を使うことで自社に沿う形に手間なく最適化できる」(同社 プロダクト事業本部 ITサービスマネジメント部 課長 長岸厚司氏)。
「基本テンプレートの中では、特にインシデント管理、変更管理、構成管理機能のニーズが大きい。例えばMicrosoft Excelを使って手作業でインシデントを管理していたり、変更管理作業が形骸化していたりする例が多いが、本製品によってインシデントやシステムの変更を自動的かつ確実に把握する体制が整う。これに構成管理をひも付けて管理することで、例えば『ハードウェアAで過去のどんな問題がありどう対処したのか』といった情報とともに、今のシステム全体の構成情報を正確に把握できる。Excelを使ったインシデント管理ではこうした他の情報とのひも付けが難しい」(長岸氏)
2つ目の特徴は、他製品との連携機能。例えばIT資産管理機能を持つ同社のサーバ・ネットワーク監視/PC管理製品「Sky-Eye Tribune」と連携することで、「LMIS on cloudの構成管理機能で把握している“承認フローを通された正しい構成”をマスターとして使い、この情報とSky-Eye Tribuneで把握した今のシステム構成の差分を確認することで、資産変動を正確に把握できる」(長岸氏)。
他ベンダーの製品とも連携できる。例えば日立製作所「JP1」の監視ツールを使っている場合、監視ツールからのアラートを受けて、LMIS on cloud側でインシデントチケットを自動起票することも可能だ。また、指定されたアドレスに送信された電子メールの内容と添付ファイルを「イベント」や「インシデント」として自動登録したり、CSVファイル経由で出力された各種運用管理支援ツールからの情報を「イベント」「インシデント」「構成情報」のレコードとして取り込んだりすることもできる。
3つ目は可視化機能。「関連情報エクスプローラ」を装備し、関連するレコード間を自動または手動でリンクを設定し、レコード間の関連性を俯瞰することができる。これにより、「任意のサービスリリースに含まれる変更内容」「任意の問題に対応するインシデント」などを直感的に把握可能とした。
インシデントにひも付けられているサービスレベル定義から、自動的に「インシデント1次回答期限」などを設定できる「アラート機能」も装備。あるインシデントをカレンダー機能に登録。その期限が近づくとポップアップや電子メールでアラートを発信して作業を促すことで、サービスレベル低下抑止を支援する。
「この他、従来は個々人がExcelで作っている例が多いインシデント管理などについてのリポートも任意の分析軸で自動生成できる。こうした機能群により、日々のサービスデスク業務を効率化しサービスレベルを確実に保ちながら、着実に継続的改善を図れる仕組みだ」(長岸氏)。
なお、本製品はSalesforce.comのIaaS「Force.com」をプラットフォームとしている。10万社以上の利用実績を持つ信頼性や、「SAS70Type ii」「SysTrust認定」など、高レベルのセキュリティ要件を満たしている点を評価したという。
ANAグループも導入に着手、1700ユーザーに上る大規模導入を半年で
2013年5月現在、オンプレミス版の「LMIS」は10社、「LMIS on cloud」は15社まで導入企業を伸ばしている。2013年4月にはANA(全日本空輸)グループが導入プロジェクトに乗り出した。
同社は従来からITIL支援ツールを使っていたが、導入から5年が経過し、リプレースの時期を迎えていた。そこで従来の課題に照らしてシステムの見直しを検討。蓄積された運用データが数十万件に上り、情報検索のパフォーマンスが低下していたことや、サービスデスク管理業務の一部を自社構築した別のシステムで行っていたことを受け、パフォーマンス改善とともに1つのシステムに統合することを検討。複数の製品の中からLMIS on cloudを選んだ。
今回の導入は1700ユーザーライセンスを数える大規模なもの。しかしクラウドの利点とLMIS on cloudのテンプレートと柔軟な設定変更機能を使うことで、約半年後となる2013年10月には導入を完了する予定だという。
庄司氏は、「今回は導入コストとリードタイムの短さが、評価いただく1つのポイントとなった。特にテンプレートと設定変更機能はリードタイム短期化に大いに貢献している。オンプレミスの場合は、まずハードウェアコストが掛かる他、パフォーマンスを担保する上でサイジングを熟慮しなければならない。初期コストを抑え、処理するデータ量やユーザー数の増減に応じて後から柔軟にシステムのサイズを変えられる点は、クラウドの大きなメリットだ」と解説する。
インターネットにつながる環境なら、いつどこからでもシステムにアクセスできるロケーションフリーという側面も導入を後押しした。ANAグループではLMIS on cloudを基に、レポート作業などルーティンの自動化、蓄積している膨大な既知情報の有効活用などを通じて、より効率的かつ有効にサービスデスク業務を展開していく構えだという。
庄司氏は、「クラウドとオンプレミスの使い分けについては、長期的な視点で見たとき自社にとって価値あるものは社内に残し、そうでないものは外に出すことがセオリーとされている。その点、ITサービスマネジメントは安定的にサービスを提供しながら、ガバナンスを確実に担保する、企業にとって不可欠かつ価値ある取り組み。しかし実質的な作業はルーティンのものも多い。従ってルーティンは自動化したり、外に出したりしながら、インシデントや構成管理、一連の承認フローなどを確実に統制する仕組みを持つことは、サービスデスク作業を確実化、効率化する上で有効な選択肢といえる。要件にもよるが、サービスデスクをクラウドで管理することも検討してみてはどうだろう」と話している。
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