用途や保護対象の明確化が選定の鍵
「スマートフォンをなくした!」でも安心な暗号化技術ガイド
スマートフォンやタブレットからの情報漏えい防止に役立つ暗号化技術。ハードウェアベースやソフトウェアベースまで多様な技術がある中、何を選ぶのがベストなのか?
モバイル端末暗号化は、スマートフォンやタブレットを紛失したり盗まれたりした場合に最も懸念される情報流出を防ぐため、手軽な対策を提供してくれる。
暗号化は、復元可能な形でデータにスクランブルをかけて暗号に変換する。データを読み取ろうとする人には無意味な文字の羅列にしか見えない。米調査会社Ponemon Instituteの調査によると、紛失したスマートフォン3台のうち2台に機密情報や社外秘情報が含まれており、モバイル端末暗号化の重要性は高い。
もちろん、端末の正規の持ち主が元のデータを読めなければ意味がないので、暗号化データは暗号化時と同じアルゴリズム(暗号方式)とビット配列(暗号鍵)を当てはめて元のデータへ復元(復号)できる。暗号化は、端末の所有者だけでなく、暗号鍵を知っている、あるいは推定できる人物が解く可能性もあると認識しておくことは重要だ。
暗号化の概念は、盗難防止のために自転車に鍵を掛けるのと似ている。「1」「2」「3」の数字を組み合わせた単純な南京錠でも、ちょっとした防犯にはなるだろうが、本気で自転車を盗もうとする相手を阻止するのにはほとんど役に立たない。データを確実に守るためには、強力な暗号と複雑な暗号鍵を使うことが望ましい。一例として、「Advanced Encryption Standard(AES)」という暗号方式では、256ビットの鍵長を奨励している。
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ハードウェア暗号化
端末暗号化はどのような仕組みになっているのか。米AppleのiOS端末を例に取ると、「iPhone 3GS」以降、全てのiOS端末は暗号化ファイルシステムを採用している。このファイルシステムはフラッシュメモリに書き込まれ、OSの情報とユーザー情報の両方を含む。iOS端末は、全てのデータを暗号化してフラッシュメモリに書き込み、後で復号してメインメモリへ記録する。
iOSのハードウェア暗号化で利用する暗号鍵は、工場で割り当てられたデバイス個別のIDとグループID、端末ごとの現在のパスコードの組み合わせだ。ロックを掛けたiPhoneやiPadは、パスコードが入力されるまで、データとアプリケーションを暗号化した状態で保つ。パスコードを入力すると自動的に復号されて、データやアプリケーションを利用したり表示したりできるようになる。端末が使われなければ、再び自動的にロックされる。
他にも、Android端末の最近のバージョン(タブレットではバージョン3.0以降、スマートフォンでは4.0以降)やBlackBerry、Windows Phone 7スマートフォン、Windowsタブレットなど、多くのモバイル端末がハードウェア暗号化機能を搭載する。ただしハードウェア暗号化の内容は、OSや端末によって異なる。
例えば、Androidはハードウェア暗号化を利用できるものの、現在使われているAndroid端末のほとんどは、物理的にハードウェア暗号化を利用できない。暗号化が可能なAndroid端末でも、出荷段階では機能がデフォルトで無効になっている。しかも、Androidのハードウェア暗号化を有効にするには、まずAndroidに使用者識別番号(PIN)かパスコードを設定してロックを掛ける必要がある。暗号鍵の作成には、そのいずれかの値が必要になる。
ソフトウェア暗号化
最近のスマートフォンやタブレットは、ハードウェア暗号化に加えてソフトウェア暗号化機能も搭載している。メールクライアントやセキュアブラウザ、セキュアデータロッカーといったアプリケーションが利用するソフトウェア暗号化は、OSが提供するAPIやサードパーティーの暗号化ライブラリを使い、指定したデータを暗号化/復号する。この点で、フラッシュメモリに読み書きする全てのデータが自動的に暗号化されるハードウェア暗号化とは異なる。また、ハードウェア暗号化は全てのデータの暗号化と復号に同じ暗号方式と暗号鍵を使うのに対し、ソフトウェア暗号化は各種のデータに対して別々の保護対策を適用できる。
ソフトウェア暗号化を使うべき理由は幾つかある。まず、Android 2.3やWindows Phone 8などのOSはハードウェア暗号化機能が欠如しているため、端末に保存されたデータを守るにはソフトウェア暗号化を利用するしかない。
ソフトウェア暗号化機能を持つアプリケーションには米NitroDeskの「Touchdown」や米Good Technologyの「Good for Enterprise」などがある。こうしたアプリケーションを使った場合、従業員がデータの暗号化を解除するには、スマートフォンやタブレットのロックを解除しなければならないだけでなく、アプリケーションの表示に従って2つ目のPINやパスワードを入力する必要がある。
端末にハードウェア暗号化機能を備えていたとしても、暗号化機能を備えたアプリケーションの導入で、会社のメールや添付ファイル、顧客の連絡先、契約書類といった機密情報に対して補完的な保護対策を講じることができる。例えば、複数の従業員が同じタブレットを使う場合、アプリケーションで暗号化したデータを復号するには、それぞれの従業員が個別のアプリケーションのPINやパスワードを入力しなければならない。その端末を紛失した場合、アプリケーションで暗号化したデータは、暗号鍵を「忘れる」ことによって実質的に消去でき、ユーザーデータのパーティションやファイルシステム全体が読めなくなることはない。
ハードウェア暗号化ではセキュリティニーズを満たせない場合、ソフトウェア暗号化で対処可能だ。例えば、iOS端末が奪われてしまうと、攻撃者はOSSの「Lantern Lite」などのツールを使ってファイルシステムのコンテンツをダンプし、パスコード破りを試みた後、特定したパスワードを使い、ハードウェア暗号化機能で暗号化されたデータを復元できる。だがファイルシステムの機密情報がソフトウェア暗号化によって二重に保護されていた場合、データの保護状態が保たれ、悪用されずに済む。
Android端末内のデータをリモートワイプで消去した場合も同様に、端末は工場出荷時のデフォルト状態にリセットされても、残ったデータはフォレンジック技術を使って復元される恐れがある。強固なソフトウェア暗号化の層を追加すれば、このリスクは解消される。
ベストの組み合わせ
ハードウェア暗号化が頼りにならないのであれば、ソフトウェア暗号化のみを使えばいいと考えるかもしれない。だがソフトウェア暗号化は本質的に矛盾があり、不完全だ。機密情報を暗号化するソフトウェア暗号化アプリケーションも一部にはあるものの、大多数は機密情報を暗号化しない。暗号化の実装方法もアプリケーション開発者によって異なる。こうしたことから、無害なはずのアプリケーションがデータを流出させたり、自らの暗号鍵をうまく守ることができなかったりする。これに対してハードウェア暗号化は、ソフトウェア暗号化から独立し、モバイル端末に保存された全てのデータに基本的な保護を提供する。
ビルの入り口の施錠に例えてみよう。従業員全員が入館用のバッジを持っていた場合、バッジをなくせば第三者に不正侵入される恐れがある。しかし個別のオフィスの入り口を施錠すれば侵入を防ぐことができ、厳重な警備が必要な区域にはさらに頑丈な鍵を掛けることもできる。こうした鍵の追加によって、盗難を防ぎ、各区域への侵入を防ぐことができる。ソフトウェア暗号化が個別のアプリケーションに保護層を追加しているのもこれと同じだ。
もちろん、広く一般に開放されていて、特定の区域しか施錠されていないビルも多数ある。同様に、モバイル端末暗号化のポリシーも、端末の種類や用途、所有者によってまちまちだ。
使い勝手と強度のバランス
例えば、極めて機密性の高い情報を扱う会社支給の端末には、長くて強力なパスコードを要求してハードウェア暗号化を施す一方、暗号化されていない私物端末の場合は、基本的なインターネット接続だけを許可する、というケースもあるだろう。ハードウェア暗号化を搭載しない、または不十分な私物端末の場合、会社データは暗号化機能を持つメールクライアントやセキュアブラウザを利用してポリシーに準拠させる一方で、端末をどう守るかについては従業員に任せるやり方もある。例えば、管理者が許可したアプリケーションだけを利用可能にする「キオスクモード」に設定した顧客用タブレットなど、ハードウェア暗号化が不要なケースもあるだろう。
要は、個別の端末と利用ケースについて検討し、保護しなければならないデータを全て洗い出し、最も効果的なモバイル端末暗号化の手段を選ぶことだ。PINやパスワードの長さ、安全性の強度、自動ロックされるまでのタイムアウト時間は、紛失したり盗まれたりした端末を物理的に手にした第三者が、暗号化されたデータをどれくらい容易に復元できるかに直接関わってくる。可能な限り、階層化した暗号化を通じて強度を高め、頻繁にアクセスするデータは使い勝手の良さを保つ一方で、真のビジネスリスクをもたらしかねないデータに対しては、より厳格な保護対策を講じる必要がある。
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