過去23年間で最大の製品発表と自信
HANAデータベース専用のERP新製品「SAP S/4HANA」に期待と不安の声
独SAPは「SAP S/4HANA」を大々的に発表したが、同社の「Business Suite」がインメモリデータベースのHANAにどの程度まで移行するのか、また移行パスはどうなるのかといった部分が不明だと指摘するアナリストもいる。
独SAPは2015年2月3日(米国時間)、「過去23年間で最大の製品発表」と銘打って、同社の次世代のERPプラットフォームを披露した。「SAP Business Suite 4 SAP HANA」(以下、SAP S/4HANA)と名付けられたこのソフトウェアは、SAPが2014年春に打ち出したユーザーフレンドリーな「Run Simple」というテーマに沿った取り組みで最大の成果だという。
米ニューヨークで業界関係者や財務アナリストを招いて行われた発表会で、SAPのビル・マクダーモット最高経営責任者(CEO)は、SAP S/4HANAについて「SAPのコアERP(経営資源計画)技術を大幅に変更し、当社のインメモリデータベースであるHANA上で動作するようにした」と説明した。「そのためには巨大なコアを一から作り直す必要があった」とマクダーモット氏は語り、「今日は歴史的な日であり、20世紀のIT技術とそれに付随する複雑性の終わりの始まりであると、われわれは考えている」と付け加えた。
ERP製品の中でもユニークな「SAP S/4HANA」とは?
マクダーモット氏は、新しいSAP S/4HANAのコードベースの特徴として、パブリッククラウドやマネージドクラウド上だけでなく、オンプレミスでも動作可能である点を挙げた。「クラウド上でできることは全てオンプレミスでもできる」と同氏は述べた。
SAPの共同創業者で監査役会会長のハッソ・プラトナー氏も登壇し、同社の技術の歴史について語った。プラトナー氏は1970年代初頭の創業以来のSAPの進化を振り返り、「私は『4億行のクラウド用コードを書き換えることができなければ、SAPは生き残れない』と会議で主張したこともある。SAP S/4HANAでは、全く新しいシステムをHANAに組み込んだ。データベースとユーザーインタフェース(UI)も刷新した」と語った。同氏の言うUIの刷新とは、Run Simpleブランドの重要な要素である「SAP Fiori」を指している。
プラトナー氏は、自身が開発に携わったHANAプラットフォームのメリットを強調した。さまざまなタイプのERP製品の中でも、SAP S/4HANAはユニークな製品だという。「HANAは冗長テーブルやデータベースのインデックスと更新を不要にする。これにより、トランザクションの実行速度が3~7倍になる。データ量も10分の1に減少する。これはコスト削減にもつながる」と同氏は語った。
さらにプラトナー氏は、SAP S/4HANAではパブリッククラウド用、マネージドクラウド用およびオンプレミス用の各エディションが用意されることを明らかにした。同氏は「S/4HANA Public Cloud Edition」を主要システムと呼び、SAPの製品に欠けていると批判されてきたマルチテナンシーを実装したという。「マルチテナンシーをデータベースに追加した。これはERPにとって特に重要だというわけではない。それよりも、多数の比較的小規模なコミュニティーが同じシステムに含まれるネットワークアプリケーションにとって重要なのだ」と同氏は述べた。
「Business Suiteをパブリッククラウド上のHANAに移行することにより、CRM(顧客関係管理)やSCM(サプライチェーン管理)などの“衛星型”アプリケーションモジュールが同じシステム上で動作し、これまでよりも高速にデータをやりとりできるようになる」とプラトナー氏は話す。本格機能のスイートを利用するには、「S/4HANA Managed Cloud Edition」が必要となるという。最初の個別業界向けクラウドバージョンは、SAPにとって最大の顧客ベースがターゲットになるようだ。
同氏によると、オンプレミス版はクラウド版と同じだという。同氏はこれについて「米Salesforce.comが最大の顧客に適用しているのと同じアプローチだ。クラウドソフトウェアはいつでもオンプレミス方式に戻すことができる」と話す。
SAPの広報担当者は「SAP S/4HANAのオンプレミス版は、既に全ての業界および地域で利用できる。『SAP Simple Finance』もクラウド版とオンプレミス版が既に利用可能だ。SAP S/4HANAのクラウド版については、四半期ごとのイノベーションリリースを通じて提供していく予定だ」と話す。同担当者によると、今回発売されるSAP S/4HANA 製品は、2013年にリリースされたBusiness SuiteのHANAバージョンとは異なるという。「HANAバージョンでは、各アプリケーションが変更されることはなく、SAP HANA上でも従来と同じように動作するように最適化されただけだ。これに対して、SAP S/4HANAはSAP HANA専用として開発された全く新しい製品だ。他のデータベース上では動作しない」と同担当者は説明する。
新コンポーネントの詳細と移行パスは未発表
業界アナリストたちは、SAP S/4HANAについて「ERPをクラウドに移行し、より多くのユーザーの戦略にとってHANAを不可欠な技術とするために、SAPが数年にわたって進めてきた取り組みの論理的進化だ」と評価している。「だが、Business Suiteの各コンポーネントの全面改訂版がいつリリースされるのか、また従来のSAP技術に多額の投資をした企業はどうなるのか、といった部分で多くの疑問が残っている」と彼らは指摘する。
米調査会社Forrester Researchの副社長兼主席アナリストのポール・ハマーマン氏は「SAP S/4HANAをめぐる戦略で重要なのは、SaaS(Software as a Service)としても運用できるという点だ。SAPではSaaSをパブリッククラウドと呼んでいる。SaaSは加速度的に成長しており、SAPは今回の新製品でこの成長の波に乗ろうと考えているのだ」と話す。
しかしSAP S/4HANAはBusiness Suiteとコードベースが異なるため、SAP S/4HANAのメリットとされるリアルタイムアナリティクス、シンプルな構成レイヤー、Fiori UIなどの恩恵を受けるのは、全面的に書き直されたコンポーネントだけである。「スイート全体は既にHANA上で動作するが、今のところ、新しいUIと構成レイヤーに対応しているのは財務コンポーネントだけだ」とハマーマン氏は指摘する。この財務コンポーネントとは、Run Simpleの発表と同時にリリースされたSimple Financeを指している。現在、Simple Financeは100社の企業で利用されている。
米調査会社Constellation Researchのホルガー・ミューラー副社長兼主席アナリストによると、SAP S/4HANAは次世代のERPシステムとしての「素晴らしい品質」を備えているという。具体的には、魅力的なUI、新しいビジネスプラクティス、セルフサービス方式のセットアップ機能などだ。「だが、この製品のどこが斬新なのか、HANA上で動作するBusiness Suiteとどう違うのか、市場でどう位置付けられるのかといった点に関して、SAPはもっときちんと説明する必要がある」とミューラー氏は語る。同氏によると、SAP S/4HANAが「完全な新製品」と「既存製品の新たな位置付け」の間のどの辺りに位置するのか不明だという。「次回の説明会ではもう少し詳しく説明してもらいたい」
Forrester Researchの英国在住アナリスト、ダンカン・ジョーンズ氏によると、SAPの現在のユーザーはSAP S/4HANAの価格設定に敏感に反応する可能性があるという。「SAPはこれを新製品として売り出したいようだ。その場合、ユーザーがBusiness Suiteのライセンスを継続保有しているかどうかにかかわらず、SAP S/4HANAを新たに購入あるいはレンタルする必要がある」とジョーンズ氏は語る。「『既存ユーザーは現時点でBusiness Suiteのライセンスのメンテナンス料を払う必要があるのか』という重要な疑問にSAPはまだ答えていない」
ジョーンズ氏によると、SAPは以前から「メンテナンス料の一部は新技術の開発の資金として使われる」とBusiness Suiteのユーザーに言ってきた。「私が疑問に思っているのは、SAP S/4HANAはSAP ERPの新バージョンという位置付けなのか、つまり、Business Suiteのユーザーが次にアップグレードするときは、SAP S/4HANAにアップグレードすることになるのか、ということだ」
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