クラウドにアプリ8割移行の空港が明かす「オンプレミスに残すアプリ」とはベルファスト・シティー空港のクラウド戦略【前編】

英ベルファスト・シティー空港は、アプリケーションの大半をクラウドサービスで稼働させる見通しだ。ただし一部はオンプレミスインフラに残すという。同空港のIT幹部にクラウド移行の道筋を聞く。

2022年01月17日 05時00分 公開
[Antony AdsheadTechTarget]

 英国の北アイルランドにあるジョージ・ベスト・ベルファスト・シティー空港(George Best Belfast City Airport)のシステムは、IaaS(Infrastructure as a Service)とオンプレミスのインフラの比率が、すでにほぼ半々に達した。2030年ごろにはワークロード(アプリケーション)のインフラの80%がIaaSになる見通しだ。

 空港のシステムは複雑で、膨大な数のアプリケーションやベンダー、パートナーが関わっている。ベルファスト・シティー空港のITディレクターを務めるブライアン・ロシュ(Brian Roche)氏によると、空港に常駐するパートナーは45社、アプリケーションは約600個に上る。

「クラウドにアプリ8割移行」でもオンプレミスに残すアプリとは?

会員登録(無料)が必要です

 各アプリケーションは、クラウドサービスへの移行のしやすさという観点から、幾つかのカテゴリーに分類できる。例えばオンプレミスアプリケーションの中には、SaaS(Software as a Service)に移行できるアプリケーションがある。このカテゴリーのアプリケーションには、Salesforce(salesforce.com)の顧客関係管理(CRM)アプリケーションやDocuSignの電子署名アプリケーションなどが挙げられる。

 ロシュ氏は可能な限りSaaSを使用する方針を掲げる。ただしクラウドサービスを最優先に検討するクラウドファーストは「われわれにとって重要なわけではない」と同氏は強調する。「アプリケーションに最適なインフラを採用して、総所有コスト(TCO)と投資利益率(ROI)を極限まで効率化することを重視している」(同氏)

 ベルファスト・シティー空港は、セキュリティ強化とコンプライアンスのためにセキュリティベンダーQualysの製品とサービスを利用しており、脅威検知にはIBMのXDR(Extended Detection and Response)製品群「IBM Security QRadar XDR」を採用している。

 一部の要素をIaaSで実行しながら、他の幾つかの要素をオンプレミスインフラに残しているアプリケーションもある。Azinqの空港業務支援製品群「Airport Hive」とOracleのデータベース管理システム(DBMS)「Oracle Database」で構築した空港運用データベース(AODB)が、その一例だ。信頼性とセキュリティを理由に、中核業務に利用する機能はオンプレミスインフラで実行している。ただしOracle Databaseをアップデートする必要がある場合、DR(災害復旧)やテストのために、IaaSにオンプレミスデータベースをバックアップできるようにしている。

 監視カメラの運用は、コンプライアンスのためにオンプレミスシステムとクラウドサービスを組み合わせたハイブリッドクラウドを採用している。具体的には、個人の特定が可能なオリジナルのカメラ映像はすべてオンプレミスインフラで保持し、AI(人工知能)技術を用いた匿名化処理をIaaSで実行している。


 後編は、ベルファスト・シティー空港がオンプレミスインフラで稼働させているアプリケーションと、その理由を説明する。

Computer Weekly発 世界に学ぶIT導入・活用術

米国TechTargetが運営する英国Computer Weeklyの豊富な記事の中から、海外企業のIT製品導入事例や業種別のIT活用トレンドを厳選してお届けします。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

新着ホワイトペーパー

製品資料 株式会社AIT

メディア業界必見:大容量データを安全・超高速転送、スモールスタートも容易に

大容量データの送受信には、通信遅延や帯域制限の課題がある。本資料では、高速で安全なデータ送信を実現できるファイル転送プラットフォームを紹介する。導入時に気になるポイントとともに、料金プランも分かりやすく解説している。

事例 ファインディ株式会社

アジャイル開発成功事例集:セゾンテクノロジー/ダイキン工業/朝日新聞

アジャイル開発を推進する上で欠かせないのが、開発プロセスやレビュープロセス、パフォーマンスなどを可視化することだ。セゾンテクノロジーやダイキン工業、朝日新聞といった3社の事例を基に、それらを実現する方法を探る。

市場調査・トレンド フリー株式会社

「情シスのSaaS利用実態」調査レポート

SaaSを導入する企業が急速に増えている。経営者と情報システム担当者1019人を対象にした調査によると、約9割の企業が2年前よりもSaaSの利用を増やしたという。このような中で、新たな課題も顕在化している。その内容を見ていこう。

製品資料 Notion Labs Japan合同会社

情報の安全な活用と共有に、AI+統合ワークスペースが果たす役割とは

「ビジネス+学び」をテーマにした映像コンテンツ制作、配信を事業の中核とするPIVOT。同社では情報基盤として活用してきたツールのセキュリティ強化とともに、AI機能の導入によって、業務の質と速度の向上を実現した。

製品資料 発注ナビ株式会社

SaaS導入の失敗を回避、適切な選定を支援するマッチングサービスとは?

ある調査によると、67.4%の企業が「SaaS製品の導入に失敗した経験がある」と回答しているという。そんな中、適切な選定・導入を支援するマッチングサービスが注目を集めている。本資料では、サービスの特徴や運用の流れを紹介する。

アイティメディアからのお知らせ

From Informa TechTarget

いまさら聞けない「仮想デスクトップ」と「VDI」の違いとは

いまさら聞けない「仮想デスクトップ」と「VDI」の違いとは
遠隔のクライアント端末から、サーバにあるデスクトップ環境を利用できる仕組みである仮想デスクトップ(仮想PC画面)は便利だが、仕組みが複雑だ。仮想デスクトップの仕組みを基礎から確認しよう。

ITmedia マーケティング新着記事

news017.png

「サイト内検索」&「ライブチャット」売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、サイト内検索ツールとライブチャットの国内売れ筋TOP5をそれぞれ紹介します。

news027.png

「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年5月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。

news023.png

「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...