急速に普及した「Zoom」の謎 「Teams」よりも使いづらい点は?TeamsとZoomのどちらを選ぶべきか【中編】

コロナ禍で急速に知名度を上げた「Zoom」は、いまや企業にとって身近なツールになった。テレワークにおけるコラボレーションツールとしてZoomを使う場合、どのようなメリットがあるのか。

2024年01月15日 05時00分 公開
[Andrew FroehlichTechTarget]

 ハイブリッドワーク(オフィスワークとテレワークを組み合わせた働き方)の広がりとともに、企業はコラボレーションツールを活用するようになった。代表的なツールが、ユニファイドコミュニケーション(UC)ツール「Microsoft Teams」(以下、Teams)と、Zoom Video Communications(以下、Zoom社)のWeb会議ツール「Zoom」だ。本稿はZoomの概要や特徴を取り上げる。

Zoomの歴史

 Zoom社の始まりは、エリック・S・ユアン氏がCisco Systemsを退社して2011年に設立したSaasbeeだ。2012年、ユアン氏は社名をZoom Video Communicationsに変更することとなる。同社の主な目標は当時から、Web会議とコラボレーションのために機能が豊富で使いやすいツールを提供することだった。最初の数年間、Zoom社はAdobe、Cisco Systems、MicrosoftといったITベンダーが支配するWeb会議ツール市場で足場を築くことに努めた。

 その後Zoom社は複数ラウンドでの資金調達を経て、主要ベンダーとの提携関係を確立し、着実に利用者を集めた。2019年初め、同社は株式を公開した。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)で一躍有名になり、その後も同社は発展を続けている。

Zoomの特徴

利用料金とプランごとの違い

 Teamsと同様、Zoomにも無料版がある。無料版で開催できる会議は参加者数が100人まで、1回の会議時間は40分までに制限されている。クラウドストレージに録画データを保存する「クラウドレコーディング」は利用できない。

 有料版のプランは4種類で、名称と1ユーザー当たりの月額利用料金(2023年12月時点)は以下の通りだ。プランごとに最大会議参加者数、サポートの利用範囲、URLのカスタム機能「バニティURL」、SSO(シングル サインオン)、利用可能なクラウドストレージの容量などが異なる。

  • Pro
    • 15.99ドル(日本版は2125円)
  • Business
    • 21.99ドル(日本版は2999円)
  • Business Plus
    • 26.99ドル(日本版は3438円)
  • Enterprise
    • 要相談

導入しやすさ、扱いやすさ

 ZoomもTeamsと同様にSaaS(Software as a Service)として提供されている。ユーザー企業が導入に必要なのはクライアントソフトウェアのインストールのみだ。設定と管理はポータルサイトで変更できる。

 UI(ユーザーインタフェース)がシンプルで直感的な点がZoomの特徴だ。さまざまなデバイスやOSで見た目や操作に統一感があるので、ITに詳しくない従業員でも使いやすい。

Web会議機能

 ZoomのWeb会議は、以下をはじめとするさまざまな機能を備える。1回につき最大100人(「大規模ミーティング」が可能なライセンスでは最大1000人)が同時に参加できる。

  • 画面共有
  • バーチャル背景
  • カレンダーアプリケーションへのスケジュール登録
  • ホワイトボード
  • 会議中の個人やグループとのチャット
  • 最大49人の参加者を1画面に表示する「ギャラリービュー」

 Web会議に活用できる製品としてZoom社は、カメラ、マイク、スピーカーを搭載した会議室用テレビ会議アプライアンス「Zoom Rooms」や、Zoomにテレビ会議システムを接続する機能「Zoom Conference Room Connector」のライセンスを販売している。これらの製品と機能を使うことで、ZoomユーザーはPlantronics(Polyの名称で事業展開。2022年にHPが買収完了)、Cisco Systems、Lifesizeなどのサードパーティーベンダー製Web会議用デバイスを、通信プロトコル「SIP」(Session Initiation Protocol)または「H.323」経由でZoomに接続できる。

 COVID-19パンデミックの初期である2020年初頭には、Zoom社は利用者の急増に対処するためのスケーリングに苦労した。Zoomの信頼性とパフォーマンスに対する不満の声が上がることもあった。リアルタイムの文字起こしができないこと、競合ツールのようにメールクライアント「Microsoft Outlook」やスケジュールアプリケーション「Google Calendar」との連携ができないことへの指摘などがあった。同社はこうした問題を速やかに改善し、Zoomを競合ツールに引けを取らない多彩な機能と連携性を備えるツールに発展させている。

テレフォニー機能

 Zoomの会議参加者は、IPネットワークで音声通話を実現する技術「VoIP」(Voice over IP)またはPSTN(公衆交換電話網)経由での接続が可能だ。クラウドサービスを活用する企業向けには、IPネットワークで音声を送受信する技術「VoIP」(Voice over IP)を使用する「Zoom Phone」を提供している。2023年12月時点の日本版の利用料金は、1ユーザー当たり月額1080円から2688円だ。通話料金が従量課金制のプラン、国内通話は無制限のプランなどがある。

 テレフォニー機能としては、内線およびPSTN経由の音声通話、ボイスメール、ルーティング、ハントグループ(内線番号のグループ分け)、自動音声案内を利用できる。Zoom社は独自のハードウェアを製造していない。その代わりに、Algo Communication Products、Cisco Systems、Plantronics(Polyの名称で事業展開。2022年にHPが買収完了)、Yealink Network Technologyといった、電話機やポケットベルなどの通信機器を手掛けるベンダーと提携している。

 Zoom Phoneを使う場合、サービス開始時にはPSTNプロバイダーとの契約が必須だった。2022年9月時点では、米国、メキシコ、カナダ、日本、欧州各国を含む45カ国以上で、Zoom社が主体となるPSTN経由の電話サービスを提供している。ユーザー企業が希望する場合、もしくはZoom PhoneのPSTN通話がまだ利用できない国で電話サービスを使用したい場合は、別途PSTNプロバイダーと契約することになる。

連携機能

 ここ数年での普及を受けて、ZoomはMicrosoft、Google、Salesforce、ID管理ベンダーOktaなど、幅広いベンダーのツールとの連携性をアピールしている。ただしメールクライアント「Microsoft Outlook」の「予定表」との連携や、ファイル共有サービス「OneDrive」によるファイルの共有・管理など、Microsoft 365が提供するサービスとの連携は難しい。こうした面では、ZoomはTeamsよりやや不利だと言える。

セキュリティとコンプライアンス

 かつてZoomの採用については、「安全にWeb会議を開催できるのか」「共有データをクラウドサービスに保管して保護できるのか」といった点を慎重に評価する必要があった。セキュリティとプライバシーに関するZoomの問題点が頻繁に報道されていたからだ。その後Zoom社はセキュリティ対策を最優先事項に据えて欠陥の修正に取り組み、Web会議でエンドツーエンドの暗号化(エンドポイントから他のエンドポイントまでの通信を暗号化する手法)を採用した。Zoomのセキュリティ機能は、市場に出回っている他の主要なWeb会議ツールと同様、安定しているという見方がある。


 後編は、TeamsとZoomを複数の観点から比較する

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